第97回 「顧客ニーズの変化にどう対応するか」
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
笠井 和弥
「どう潜在ニーズをとらえるか」これが、企業にとって強化しなければならない力であり、これをどう、継続的な仕組みとして確立するかが重要なことは前回述べました。
しかし、新しい顧客をつくるための最も有効な施策は、既存客を維持して満足度を上げロイヤリティを高めていくことです。
<顧客に利用していただく ⇒ 評価していただく ⇒ 使い続けていただく ⇒ 口コミをしていただく⇒新しい顧客を創造する>という、顧客ステージをステップアップしながら、既存顧客には企業に代わって新しい顧客を創造してもらうことが理想です。
顧客ニーズへの対応
それでは、既存顧客のロイヤリティを高めるため、顧客ニーズすべてに応える必要があるのでしょうか。
顧客の言うことをすべて聞くのは戦略ではありません。企業は、限られた資源を有効活用しながら、応えるべき顧客ニーズを選択しながら対応することが重要です。
いくつかの事例を参考に、取り組みを考えてみましょう。
加工食品メーカーN社は、業務用市場で、ユーザー企業の要求するものを特注品対応してきましたが、その結果、利益が確保できず赤字が続きました。そこで、「当社の標準品をこういう使い方をすると(お客さま)のニーズを満たせます」と提案するように変えました。顧客の求めるニーズを鵜呑みにして、全てに対応しようとすると利益が取れないことを確認し、顧客ニーズへの対応について、自社として対応するニーズと対応しないニーズを明確に伝え、顧客に「そこはしょうがないね」と受け入れてもらえることに努力を傾注しました。
日用品メーカーP社は、競合企業と比べて取り扱いアイテム数が3分の1に絞っています。多くの企業が顧客ニーズへのきめ細かい対応策としてカテゴリーごとに毎年多くの新製品を投入していました。しかし、P社は、あえて、品数を絞ることで、自社の訴求ターゲット明確にした品ぞろえ政策をとりました。当然のことながら、短期的には、売れ行きが芳しくない商品もありましたが、顧客の生活シーンまで入り込んだ購買~使用場面までの詳細な情報を掘り下げることにより、きめ細かな訴求施策を打ち出すことで、マーケットシェアを確保していったのです。
家庭教師の例ですが、問題を自分で解いてしまう先生がいました。先生は、生徒がなかなか理解できないので、手本を示すつもりで解いたのです。そして、その場では、生徒は、自分が解いた(できた)気になります。しかし、試験になるといい成績がとれません。家庭教師は、自分がいなくなったときに、生徒自身で学力をつけるようにすることに対応しなければならないことを忘れてしまったのです。
目先の顧客要求への対応ではなく、本質的にお客さまにとって何が幸せかを考えた対応を行うことです。
人間には「相手の真意が見えない、非合理な面があり、常に変わる、意外と人に流される」という部分があることを理解しておくことが重要です。
個別ニーズはお客さま自身にやっていただく方法もある
昔は、顧客側が、こんなものがほしいと思ってもそれが売っていないと、顧客自身が、買ったものを自分で工夫して使っていました。そしてそのうち、作り手(企業)が顧客の要望に合うようにきめ細かく対応していったのです。今や、市場にはそのような商品が溢れています。これは果たして、世の中として良いことなのでしょうか。
これからは、企業は、お客さま自身でやっていただくことを折りこんで完成品を目指さない方法もあるのではないでしょうか。「麻婆豆腐のもと」のような半加工品が増えています。「豆腐は、用意してください」といって、素材の準備はお客さまにやってもらい、できあがり製品をレンジでチンする商品でなく、ひと手間かけた味つけでお客さまは、自分で作ったように感じる食品です。
「顧客と顧客ニーズは常に変化する」を知ること
①顧客は誰か
②顧客が望んでいることは何か
③顧客に提供している価値は何か
について、一度整理をしたからといって、常に変化をする市場・顧客はどうなっているのか?に関心を持ち続けることは重要です。「市場は、常に流動的で変化していること」を理解しなくてはなりません。
自社ビジネスの現在の顧客は誰で、その顧客は10年後や30年後も存在しているかを考えないと、気がつかないうちに顧客がいなくなり、自社ビジネスは衰退します。
昭和35~36年頃、紙芝居からTVに移行した時期があしました。TVの普及率とともに急激に紙芝居はすたれていきました。
レコードからCDに移ったときも同じように、レコード業界のビジネスボリュームは圧倒的に小さくなりました。
このことは、他業界の話でなく、全ての業界で起きる可能性があることなのです。今やっていることが、この先成長し続けるのか、そうでない可能性が大きいのかを意識し続けることが重要です。
一方で、市場のとらえ方を変えることにより、いわゆる衰退ビジネスが成長ビジネスに変貌することもあるのです。
長年、公共事業に頼ってきた建設業界は、公共事業予算が削られ、一気に仕事がなくなりました。
特に土木関係の事業はその変化が顕著です。事業転換して大工塾を作り、大工を育てている企業があります。大工は職人気質の強い業界なので、先輩から後輩に技を伝えるため徒弟制度的なスタイルで長年行ってきましたたが、一つひとつの職人技を分解し、経験が短くても技術が身につき、機能分担を明確にした仕組みの事業に再構築しました。そして、実際に生徒を募集したところ、いわゆる一流大学の学歴の人の応募があったのです。理由を聞くと、先の見えない時代に「手に職をつけたい」ということでした。このような動きは、日本酒づくりの専門職である杜氏においても見られます。
(シニア・コンサルタント 笠井 和弥)
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