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第98回 「営業マンは販売成果に繋がる顧客接点業務に集中させよ」

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

今回は、営業第一線の業務改革を取り上げます。
今、多くの企業の第一線営業マンは、疲弊しています。本来は、目標達成に向け顧客との接点時間を増やし、より質の高い提案活動を強化しなければならないのですが、顧客からの多くの要求に応えるための業務や、色々な社内部門から要求される資料作成、新しい市場を開拓するための情報収集や整理など、目標達成のため顧客との接触機会を阻害するこのような業務処理に追われています。

営業マンの業務生産性向上を阻害する3つの要因

企業にとって、理想とする販売構造は、

①環境変化に大きく左右されない安定的な販売構造をつくる
②小人数・ローコストで営業生産性を高める業務構造をつくる

の2つではないでしょうか。

いずれも、今までの営業のあり方を変えず確立することは難しいです。

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既存の顧客との関係性を維持しながら、一方で新しい市場やカテゴリー(ビジネス領域)を開拓することが求められます。そのことは、競合優位を確立するための条件でもあります。
そのため、営業マンが最も時間を投入して、質を高める業務は何でしょう。いうまでもなく、自社商品やサービスを顧客に浸透する(販売する)ための顧客との接点時間を確保することです。
しかしながら、コンサルティングを通じ、多くの企業の営業マンの活動をみると、以下のような課題が放置されたままで、業務の生産性を阻害しています。

まず、業界や顧客に起因する課題です。
重要な顧客から急な呼び出し依頼を受け、関係性維持の観点からもその対応をせざるを得ないことです。この対応の上手い下手により、その後の顧客との関係性に支障が出たり、取引が減少したりすることにつながるため、営業マンは、最優先で対応しています。
次に有力顧客キーパースンとじっくり落ち着いて商談ができる"ゴールデンタイム"と呼ばれる時間帯が偏り、朝の早い時間帯や夜の時間帯など勤務時間帯とはずれた時間帯に訪問せざるをえないケースがあります。
往々にして、同じ訪問対象チャネルの場合は、ゴールデンタイムが重なるため、同じ時間帯に訪問できる相手は限られ、それ以外の顧客については、顧客にとってはずれた時間帯で商談をしなければならず、情報の浸透の不備など競合に比べ不利な状況になる可能性もあるのです。
例えば、一般医院などを担当している医薬品メーカーの担当者のケースでは、診察時間外の14:00-15:00、20:00-がゴールデンタイムとなり、その時間帯には、競合担当者の訪問も含め、集中してしまうことが多いのです。このような中で、如何にキーパースンであるドクターと良好な関係を構築しながら良い提案をするかは非常に負荷のかかる業務です。 中には、キーパースンとの関係強化のため、顧客志向との名のもとに顧客の業務代行を行い自ら業務負荷をつくりだしていることも多いのです。

2つ目の阻害要因は、社内事情によるものです。
その中で最も大きい要因は、担当顧客が増える、担当商品が広がるなど担当業務の拡大に関わるものです。
売上拡大を目指す一方、単純な増員はしづらい環境下において、多くの企業では、営業担当者の負荷が増えています。
このことは、営業の現場においていまだに残っている、達成すればまたきつくなるという悪しきノルマ主義による負荷増大とも関係しています。また、マネジャーが個々の営業マンの業務負荷量を的確に把握しないので、突発業務等が発生すると、追加業務による長時間労働にもつながっています。

3つ目は、営業マン個人の要因によるものです。
重要なことを後回しにして、緊急な雑事を優先する緊急中毒、 PCに向かうと必要以上に時間を過ごすPC中毒、目的や趣旨を確認しないままに過剰な資料作成を行うサービス過剰中毒など、目的意識、計画意識欠如による時間の使い方のまずさから本来必要ない業務負荷が拡大しています。

営業拠点における業務生産性向上を成功させるポイント

さて、このような状況を打破するには、どのような手を打つことが必要でしょう。

まず、改善効果の積み上げでなく、初期段階で意思を持った目標設定をすることで、達成に向けたあらゆる改善施策を考えることが重要です。また、目標をメンバー間で共通認識をしておくことで、実施段階での改善意欲にもつながります。
次に、まず"仮説ありき"によるスピードある活動推進を基本とします。
短期間で現状分析、課題把握、改善施策立案、実施・成果創出を行うためには、"調べて答えを出す"ではなく、"答えを検証するために調べる"アプローチが必要となります。そのためには、どこを改善すれはどういう成果がコミットされるかという改善の切り口を整理しておくことが大切です。
例えば、特定業務の時間を削減することが必要としたならば、それは、やり方を変えるべきことなのか、発生頻度を減らすことなのか、業務のスキルを高めることなのか を分類し、やり方を変えるべきことなのであれば、更に、廃止できないか、簡素化できないか、標準化できないか、などの施策方法を決めるのです。

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3番目に、施策立案~即実践~成果検証サイクルの連続的推進展開を図ります。

このような業務改革の取り組みは、最終的には"成果は現場で創出される"のです。従って、現場のモチベーションを高めることが不可欠であり、そのためには、小さな改善トライアルと成功体験の積み重ねが必要になります。
特に、取り組みの初期段階では、特に仕事のやり方を変えることに抵抗感を覚えるため、すぐできる改善施策は、即実施し、"変わる""変えられる"雰囲気づくりを行っていくことが、キーポイントになります。

(シニア・コンサルタント 笠井 和弥)

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