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オムニチャネル成功の鍵

第4回 オムニチャネルを推進するための基本フレームワーク その2

小河原 光司

 前回では「オムニチャネルを推進するための基本フレームワークその1」と題して、「オムニチャネルを推進する3つのポイント」を説明しました。今回はこの3つのポイントの具体的な展開を検討するためのフレームワークである「オムニバイシクルモデル」に関して説明します。

なぜオムニチャネルの検討が進まないのか

 前回、オムニチャネル推進の3つのポイントとして、「One-to-One」×「コミュニケーション」×「クロスチャネル」という3つのポイントの掛け算であると説明しました。それでは、この3つのポイントを活かし、オムニチャネル化に向けた取組みを具体的にどのように設計・検討・評価すればよいのでしょうか。

 筆者がよく質問を受けるのは、まさにこの点です。オムニチャネル化を推進する必要性をある程度は理解していても、「具体的に何をどう検討し、全体をどう整合させるのか」を提示している検討のためのフレームワークがなく、苦労している企業が非常に多いのが実態です。その問題を解決するのが、これから説明する「オムニバイシクルモデル」です。

オムニバイシクルモデルとは

 「オムニバイシクルモデル」は、オムニチャネルの推進で取り組む領域を二輪自転車になぞらえた、オムニチャネルの推進を具体的に検討するためのフレームワークです。

 検討する領域は、大きく7つの領域から構成されています(下図)。この7つの領域を自転車の各パーツになぞらえて説明していきます。

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前輪・後輪

 まず、個客とのコミュニケーションのあり方を検討する領域が、「①Omni-CRM(顧客起点のCRM)」です。この「①Omni-CRM(顧客起点のCRM)」を実現するために個客をOne-to-Oneで認識するための仕組みづくりが「②Private-DMP」という検討の領域となります。

 この2つの検討領域は、自転車の前輪と後輪に該当します。つまり、個客に向かってOne-to-Oneの継続的なコミュニケーションを実現させるための検討要素といえます。

 ①Omni-CRM(顧客起点のCRM)、②Private-DMPの要素について具体的に説明します。

①Omni-CRM(顧客起点のCRM)

 「顧客を個客として捉え、最適なクロスチャネルを活用したアクセスポイントを設計する」活動です。企業起点ではなく、個客起点とし、個客との継続的なコミュニケーションを通じ、企業ロイヤリティーの向上を目指します。

②Private‐DMP(PDMP)

 「自社のマーケティングデータを集約し、顧客の購買行動を一元的にDB化する」活動です。DMPとは、Data Management Platformの略であり、購買に関わるビッグデータや自社サイトのログデータなどを一元管理、分析することで、広告配信といった各種マーケティングプランの最適化を支援します。

チェーン

 前輪と後輪を結びつけ、自転車として目的の方向へと進ませる駆動装置としての位置づけが、「③Customer-Insight(カスタマージャーニー)」です。

③Customer-Insight(カスタマージャーニー)

 「顧客を洞察し、顧客の行動を静態的のみならず動態的に捉え、『個客』としての特性を把握する」活動です。カスタマージャーニーというコンセプトを用いて購買に関連する行動を導出し、購買を喚起するための顧客とのアクセスポイントのあり方を設計します。

ペダル

 チェーンに力を伝達し、具体的に自転車を駆動させる原動力としての役割を担うのが、「④Omni-MD」「⑤Omni-SCM」です。商品開発〜顧客の商品受領までの一連のプロセスを設計し、顧客へのサービス水準を定義します。

④Omni-MD

 「オンライン、オフライン双方の特性を活かした業態開発、商品開発、商品構成を最適化する」活動です。顧客との双方向コミュニケーション性という特性を活かした商品開発や店舗/ネット販売双方の特性を活かした業態設計や商品構成など、ビジネスモデルやマーチャンダイジングを設計します。

⑤Omni-SCM

 「顧客の購買から使用までのリードタイムを最小化するロジスティクスを設計する」活動です。顧客にとっての「購買行動」「商品入手」「商品使用タイミング」という3つの要素の"非"同期性(商品を購入したら自ら持ち帰り商品を即時に使用開始すること)へ対応するため、適切な『顧客への提供サービス水準』を設計します。

サドル

 最後に自転車全体を正しい方向へと舵を取り、進行する方向を調整する役割を担うのが、「⑥Omni-Contact」「⑦Omni-Formation」です。これにより、主体的に顧客とコンタクトし、顧客の不満足を防止します。そしてオムニチャネルの推進求められる、上記①〜⑥の領域の活動を実践するための組織体制をつくることで、一過性ではない継続性のある活動を担保します。

⑥Omni-Contact

 「顧客の認知的不協和を最小化するためにアクティブコンタクトを行う」活動です。SNSなどのアーンドメディアの発達により、顧客から発信される情報は飛躍的に増大し、その中にはネガティブな情報も含まれます。主体的に顧客とコンタクトし、適切な情報を提供することで、ネガティブな情報の不必要な拡散を防止します。

⑦Omni-Formation

 「上記①〜⑥の領域を有機的に関連させる組織体制を構築する」活動です。これまでの業態別(チャネル別)×業務機能別の組織体制を見直します。

オムニチャネルとはビジネスモデル改革である

 「オムニバイシクルモデル」を通じて、オムニチャネルを推進するための検討領域を見てきました。今回みなさんに認識していただきたいのは、オムニチャネルとは単なる販促活動でもなく、自宅まで商品をお届けする物流活動でもなく、「ビジネスモデル革新活動」そのものだということです。

 次回以降、「オムニバイシクルモデル」を検討領域ごとに見ていきます。

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