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オムニチャネル成功の鍵

第2回 オムニチャネル化の大きな波 その2

小河原 光司

 本コラムでは、オムニチャネル成功の鍵と題して、オムニチャネル推進に向け取り組むべき内容とそのポイントなどについて順を追って説明していきます。

 第1回では、オムニチャネルとは「オムニ」+「チャネル」が合成された用語であること、また、オムニチャネル推進が求められる背景として、顧客の購買行動が変化していることを説明しました。今回は「オムニチャネル化の大きな波 その2」として、オムニチャネルとは何か、また、オムニチャネルを理解するための基本的な枠組みに関して説明します。

オムニチャネルを「顧客からの側面」「小売業の側面」から定義する

 オムニチャネルとは、「オムニ」+「チャネル」が合成された用語であることは前回説明しました。それでは具体的にオムニチャネルとは、どのようなことを指すのでしょうか。今回はこのことを定義したいと思います。

 オムニチャネルとは、 「実店舗、通販カタログ、ダイレクトメール、オンライン店舗(ECサイト)、モバイルサイト、SNS、コールセンターなど、複数の販売チャネルや顧客接点を有機的に連携させ、顧客の購買意欲の喚起、比較検討の情報提供といった利便性を高め、多様な購買機会を創出すること」
と定義できます。

 上記の定義をより理解しやすくするために、オムニチャネルを比較する概念である「シングルチャネル」と「マルチチャネル」を含めて、顧客にとっての購買チャネルの変遷を見てみましょう。

 顧客の購買行動は、下図のようにシングルチャネル→マルチチャネル→オムニチャネルという形で変遷をしていることが理解できると思います。

シングルチャネルでは、店舗で商品を見て、店舗で購入します。マルチチャネルでは、店舗、カタログ通販、PC(ネット)通販といった各チャネルで購入可能となります。オムニチャネルでは、
チャネル別に層別する必要性がなくなり、顧客が望むチャネルで認知、検討、購買がなされることになります。

 この図を見ながら、先ほどのオムニチャネルの定義について、その影響を顧客からの側面と、小売事業者からの側面に区分してみましょう。

【顧客からの側面】

・顧客(ユーザー)は、統一的な商品情報、プロモーション情報をあらゆる顧客接点から入手し、自らが希望する販売チャネルを自由に選択して購入するという、一貫性・継続性・多様性を持った購買を自らの嗜好にあわせて体験することができること

【小売事業者からの側面】

・リテーラーは、チャネル別の管理や対応ではなく、チャネル横断型の管理(顧客管理、購買履歴管理、商品管理、プロモーション管理)を行う必要があること

・リテーラーは、各チャネルを1つの運営主体(ブランド)であるように結合させ、あらゆる顧客接点で顧客の購買に向けた活動を行う必要があること

・すなわち、小売事業者として、チャネル自体を区分する必要性が喪失すること

チャネルは商品主導から顧客主導へ

 小売事業者から見たオムニチャネルによる影響は、実は大きなインパクトを与えることになります。それは、これまで小売業が経営戦略立案から事業運営までの基本の枠組みには「商品」を基軸としていましたが、その考え方からの転換が求められることになったからです。

 これまでは店舗というスペース制約に対して、売上をつくるもの(=「商品」をいかに効果的、効率的かつ適時性を持って陳列、展開、販売するか)が重要であり、顧客にとっての購買代理店として、「どのような商品を店舗に置くのか」という命題に応えることが小売業の最大の関心事=戦略でした。

 したがって、店舗で展開する「商品構成(商品の幅と深さ)」の違いを第1層別概念とし、その区分ごとに、売場面積、展開立地、販売方法、接客サービス水準などを決め、その内容を「業態」として定義し、その違いを管理すること、すなわち、業態を開発することが小売業の事業成長には不可欠と考えられてきました。それが「業態設計」という考え方であり、この「業態」という販売チャネルを区分することで、顧客へ対応してきたと言えます。

 つまり、私という同一人物であっても「業態」が異なれば、異なる顧客ニーズを持った別人格として、それぞれ異なったチャネル=店舗で購買活動を行うということです。業態が異なれば、異なる顧客ニーズを持った人であることが前提のため、販売情報や顧客情報はあくまでも顧客ニーズが異なる「同一チャネル内での最適化」のみに活用されることとなります。

 また、管理の基本は「商品単位」であり、店舗で展開する商品を最適化することが最優先であるため、商品はPOSデータを活用し「単品レベル」で管理を行いますが、顧客は「個人」レベルの管理ではなく、顧客群(年齢性別属性)での管理を中心にしていることも大きな特徴です。

 今まで見てきたように、マルチチャネルまでの事業の管理単位は、「チャネル」とリンクをした「商品」でしたが、オムニチャネルになるとチャネルではなく、「顧客」という管理単位に変更することが求められます。

 では、なぜ「顧客」という管理単位に変更することが必要なのでしょうか。その理由は、いくつか考えられると思いますが、ここでわかりやすい1つの答えを提示したいと思います。

 その答えは、『「EC店舗での成功モデル」を実店舗にも拡大するため』です(ほかにも顧客のニーズが業態という一元的な管理では対応しきれなくなったという理由もあろうかと思います)

 EC店舗での成功モデルは、以下の5点に集約されます(下図)。

EC店舗の成功モデルとして、ロングテール:ロングテールという商品展開の空間的な制約がない前提での販売、見込み客:「アクセスログ」という実購買に至らなかった見込み客のサイト内での行動の把握と分析、個客コミュニケーション:実購買者の属性分析による継続的な販売に向けた「個人別レベル」での商品のレコメンド(推奨)、ラストマンワイル:店舗への来店(顧客が動いて商品を入手する仕組み)でははく、宅配による個人宅への商品配送(顧客が動かず商品を届ける仕組み)、ITの高度活用:上記を実現するのIT活用(ビッグデータを活用した各種WEB分析) による情報の高度処理などがあげられます。

 筆者はとくに図の2と3の「顧客」基軸の事業運営管理の実現が、アマゾンといったEC店舗における主要な成功要因と考えています。この成功モデルを実店舗にも拡大・導入していくことが、オムニチャネル戦略を実行、推進していく際の重要な要素となります。また、これらの成功要因はオムニチャネル推進の必要性を理解するための一側面でもあり、オムニチャネルを理解するスタートとしてわかりやすいのではないかと、筆者は考えます。

 次回は、より具体的にオムニチャネルを進めていくための要点を紹介します。

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