第71回 「営業マンの有効活動時間の拡大ポイントとは」
- 営業・マーケティングの知恵ぶくろ
笠井 和弥
営業マンの時間の使い方:日米比較
次に、営業マンの活動時間の効率化はどの程度のレベルにあるのか、をみてみたいと思います。 下図を参照してください。これは、営業マンの時間の使い方について、日米比較したものです。
この調査によると、わが国の営業マンが実際に営業活動(またはセールスプロモーション)している時間は、「小売店訪問営業マン」の場合で、1日3時間にすぎません。 これが「生産財営業マン」になると、2.5時間となります。 これらは、実働時間の25~31%にすぎません。
これに対して、米国では、マグロウヒル・リサーチ・レポートによれば、「41%しか営業活動に時間をさいていないのは残念であり、対策を考えたい」と指摘していますが、わが国との差は10~16%もついています。 もちろん、営業マンの営業活動は、顧客との面接時間だけで100%というわけにはいきません。 最低限「顧客に会うために要する時間」、つまり移動時間等は、切り離せません。 これを含めて広義の営業活動時間として比較すると、45~60% 対 80%であり、日米格差は20~30%となります。
この資料から判断する限りでは、わが国の営業マンは何をするのが職務になっているのか、疑いたくもなってきます。 工場にたとえれば、45~60%の操業で採算がとれるのか、と聞きたくもなります。 この意味では、C営業所長が「営業活動時間」の拡大に着手したのは、もっともと言うほかありません。 しかし、問題はこの先にあるのです。
「可能時間」を「有効時間」に
せっかく営業活動に使える時間を増やしても、それが手放しで「即、営業活動時間の拡大」になるという保証は、ありません。 厳密には「可能時間の拡大」であるに過ぎないのです。 ここに、営業活動効率化をはばむ、いくつかの革新余地がかくされています。
この「可能時間」を「有効時間」の拡大に転換するポイントは、最低3つあります。
1.訪問「有効」時間帯の制約の検討
これは、顧客にも有用購入時間帯があるということです。 たとえば午前10時から3時までとか、3時以降は駄目とか、夕方3時以降でないと駄目といった制約です。 したがって、有効営業活動時間は、相手により異なりますが、そう長くはありません。 この間に移動し、昼食もとります。 それだけに、顧客ごとの有効営業活動時間帯をどう組み合わせるかによって、営業マン一人ひとりの訪問有効時間帯は変わり、1日訪問件数も変わります。
この訪問「有効」時間の長さについては、だれが、いつ、決めているのでしょうか。 もし、営業マン個々人が、その日その日に適宜決めているとしたら、そこでは営業活動時間効率化の鍵を、営業マン個々人の能力と誠意ににぎられっ放しになっていると言わざるをえません。 もしそうだとしたら、どこをどうして効率化しようと考えているのでしょうか。 それとも、もともと時間的効率化をあきらめているのでしょうか。 この辺のところを、とくと聞いてみる必要があります。事務の集中化も大いに結構です。 しかし、やたら埋没時間をつくるだけなら、集中化しないほうが得策です。 注意を要するところです。
2.訪問「有効」時間帯の拡大化と分担の検討
営業マン個々人の、持店内における有効時間帯の拡大には、自ずと限界があります。 この限界を破るには、グループ内分担の再編成にまで手をつけないと、実効が上がらない場合が少なくありません。 そうしない限り、せっかくつくり出された営業活動可能時間も、死蔵してしまうことが多いのです。 ここまでチェックされているかどうかです。
3.訪問店ごとの有効滞留時間と有効頻度数の基準の検討
せっかく拡大された有効時間帯であっても、それが文字通り有効な使われ方をしなければ、意味がありません。 そのためには、訪問店の特性に基づいた「有効滞留時間」と「有効訪問頻度」などの基準検討が必要になります。 もし、これらが営業マン一任に放置されているとすれば、営業活動の時間管理は「かけ声」だけに終わってもやむをえないでしょう。
組織としての基準を検討し、その基準の明示を行ない、それをベースとして考え、語り、援助指導する仕組みをつくるだけでも十分に効果があります。 できれば、これらが組織としての管理システム、さらには戦略方針を打ち込んだ形で展開されると、効果は倍増します。
いずれにしろ、C所長は、この営業活動「可能時間」の拡大を営業活動「有効時間」の拡大に転換する、3つのポイントをもとに効率化の具体性をチェックし、必要施策を展開したのか、疑問の残るところです。
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