出光ルブテクノ株式会社
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5S活動で組織力強化!全社一丸で安全文化の定着を目指す ~所属の壁を越えた取組みが組織の一体感を生む~
2010年4月、出光ルブテクノ株式会社は全社をあげた5S活動の取組みを本格的にスタートさせた。スタッフの所属の壁や抵抗感の漂う現場にどのように働きかけ、職場が一体となって5Sを推進し、浸透を図っていったのか。始動から3年が経過した現在までの取組みや成果、今後の方向性についてお聞きした。
マザー工場は先端を行く「見せる工場」
出光ルブテクノ株式会社は、出光興産株式会社の潤滑油製造基幹工場である「京浜ルブセンター」の事業運営会社として2002年に設立された。その後、実用性能評価、試験分析業務を手掛け、出光グループの潤滑油事業において重要な役割を担っている。
そんな同社が2010年4月、全社をあげ本格的な5S活動の取組みをスタートさせた。その背景について前社長の原田知幸氏(現 潤滑油部 潤滑油企画課)はこう話す。
「私は海外赴任経験を通し、工場は5Sが基本だと感じていました。特に海外では2Sが大切です。これをいかに定着させるか。それが工場の安全確保の上で『いろはのい』です。ですから、マザー工場の『京浜ルブセンター』は当然ピカピカの工場だろうと思っていたら、想像とあまりに違う状況に愕然としました」と。
また、代表取締役社長 岩武直人氏は「私は入社が1978年ですが、ルブセンターが1977年に一新された直後のピカピカの工場で実習しました。それが2013年4月に戻ってきたらグランドオープン時の面影はなく、こんなに古くなったのかと衝撃を受けました」と、当時を振り返る。
潤滑油は車でいうと「部品」に相当する高度で精密なものだ。「例えば自動車メーカーの部品の監査はとても厳しいため、監査に耐え得る工場、要するに見せる工場としてモノづくりの先端をいく必要があると感じました」(岩武氏)
このような状況を受け、今こそ徹底的に5Sに取組もうというトップダウンで5S活動は始動したのである。
要はトップ次第!率先垂範なしに5Sは定着しない
だが、いざ同社で5Sを推進しようとするも、担当セクションは日常業務に忙殺され対応が厳しい状況だった。また活動を始めた当初は5S活動への思いだけが先行していたと原田氏は振り返る。
「改善活動を推進いて行く中で、年2回成果発表会を開催しました。内容は素晴らしく確かに盛り上がるのですが、当社と協力会社の間で、ここまではうち、ここからはそちらが...みたいに壁がありました。それに、どこか形式的で"発表のための発表"になっていると感じました」(原田氏)
また、岩武社長も「例えば、事故とか災害とか、何か事件が起こった時は非常に団結力が強く、一致団結して対処に当たる社風が出来ています。ですが、経営側としては日ごろから団結してほしい。挨拶もそう。つまりよい習慣化と言いますか、当たり前のことだから取組まないんじゃなく、それを習慣として行動に浸透させたいと思ったんです」と話す。
そんな状況に一石を投じようと、原田社長時代に潤滑油全体のコンサルティングを手掛けていたJMACに声がかかった。「元々当社には前任の岩佐社長の頃から職場環境をよくしようという改善活動の基盤がありました。ですが、実際活動を進めるにはやはり技術やテクニック、ノウハウが必要です。それが当社だけでは十分ではなかった。それでJMACの力を借りようということになったのです」(原田氏)
そこで担当となったのがチーフ・コンサルタントの芝田邦夫とコンサルタントの山本真也だった。
まず、全社一体となって5S活動を進めるにあたり、何より乗り越えなければならない壁があった。それはスタッフの所属の違いだ。工場にはルブテクノの正社員、出向社員、派遣社員もいれば、協力会社のメンバーなど所属は様々だ。しかしその壁を越えるのは並大抵のことではなかった。
「当初協力会社からそれは出光さんの仕事でうちが一緒にやるのはちょっと違うんじゃないか。そもそも契約上にないと難色を示されたんです。そうは言っても同じ職場で仕事をしている訳だから一緒にやっていきましょうと、1年半くらい時間をかけて説得しました」(原田氏)
しかし、そんな経営陣とは裏腹に、当の現場は意識も高く活動に前向きだった。その状況に協力会社の経営陣も徐々に意識がかわり、理解を示すようになったという。
「5S活動は職場全員で取組むものです。しかし、結局はトップ次第。経営陣が一枚岩となって率先垂範していく姿勢がないと、決してうまくいかないと思います」(原田氏)
"やらされ感・抵抗感"にどう立ち向かうか!
こうして一つハードルは越えたものの、5S活動は本来業務とは別物という"やらされ感"も強く、自発性を引き出すにはかなりの時間を要した。
開始当時の事務局メンバーの一人、製造部運転管理課 大西 亮二氏はこう振り返る。
「現場を巡回する際、どこの誰だかわからない5S事務局メンバーが5S活動対象エリア(作業現場)にいきなり来て、『あそこ、汚いですね』なんて指摘するものですから、現場も知らないくせに何をえらそうに!と現場担当者に冷たい目で見られ、また本来あるべき姿を提案したところ、現場担当者とコンサルタントと口論することが多く、その調整に手を焼いていたこともしばしばありました。
また、通常業務とは別に単純に業務量が増えたため、『残業やチームによっては土日出勤もしてこんなに頑張っているのに全然現業務に反映されないじゃないか』と厳しい意見を言われることもありました」とスタート当時を振返る。
また、原田氏も「最初は『5S活動があるからこれは無理、会議も出れない』みたいなことを平気で言う人もいたんです。そうじゃないでしょうと。5Sは仕事そのものじゃないかとずいぶん繰り返し言ったんです」と話す。
そういうある種の抵抗感がある中で、どのように5S活動を推進していけばいいのか。
コンサルタントの芝田は「まず、わかりやすさから入ろうと対象を限って始めました。例えば文房具や机の周りなど、身の回りの物から着手しましょうと。そして次に紙ベースの情報です。そうすると業務の話になるので、コミュニケーションも生まれます。さらに難しい電子情報へ。そういう風に段階を追って業務改善につなげていきました。
また、現場については、業務改善を設備に置き換えてやっていきました。我々も週1回は必ず巡回して、皆さんと話し合い、時にぶつかりながらやっていくことで成果感も生まれてきたんです。結果的にやれば楽になる、もっとこうしたら職場がこういう風によくなるんだと時間はかかりましたが自然に意見が出てくるまでになりました」と振り返る。
始動から3年!現場で見えてきた効果とは?
壁を越え現場の協力体制が強化
では、現場レベルではどうだったのか。それまで、オペレーションは協力会社が、保守点検は出光と役割がはっきりしており、たとえ協力会社側で機械にトラブルや故障があっても協力会社は一切手を出せなかった。
ルブテクノの協力会社で株式会社シムラの代表として事務局にも参画する秋庭文彦氏はこう話す。
「現場で作業する中、普段から自分たちでメンテナンスや保守ができれば、少しでも業務がストップする時間を低減できるんじゃないかという思いはありました。ですがルールもありそれ以上踏み込むことができなかったんです。そんな中、5S活動が始まってから双方の壁がなくなり、お互いに協力していこうという機運が生まれました」
こうして、協力会社のスタッフにも保守・メンテナンスをする上で必要な知識習得の機会が提供された。
「出光さんのレベルで教えていただける内容は出光さんに、またその上のレベルになると業者の方を呼んでくださって、専門教育の場を提供してくれました。今ではちょっとした不具合が発生した時は習得した技術や知識で対応できるようになりました」(秋庭氏)
また、同じく協力会社で活動始動前から関わってきたビューテックローリー株式会社所長代理 小笠原 信幸氏は「とにかく風通しがよくなりましたね。今ではトラブルがあった際、双方の責任者間でコミュニケーションがとれるようになり、問題意識や優先順位を同じレベルで共有できるようになっています。それは5S活動を通し築かれたものに他なりません」と、現場の変化をこう評価する。
活動が進化!成果は徐々に見えてきた
また今年度から事務局に加わった3人のメンバーもそれぞれ変化を感じている。
製造部業務課 坪川裕詞氏は「コミュニケーションが数年前と明らかに違う」と感じている一人だ。「顔は知っていても話したことがなかった方も、5S活動を通じて、コミュニケーションが図れるようになりいい環境になっています」と言う。
また、品質管理部試験課 本橋伸一氏も「部署柄いつも試験棟にばかりいて現場を知らなかったので、現場を知ることで試験のデータの取り方を工夫したり、お互いに協力する体制ができてきました」と話す。
同じく品質管理課の佐藤智美氏は「初めはやらされ感があったが、だんだんと日頃個人レベルで困っていること等を5S活動の中で取り入れようと提案するようになり、活動そのものが進化してきている」と成果を口にする。
また、3ヶ月1タームのテーマの中間・最終発表の場では、当初は10分程度の発表時間を15分に延ばしてほしいと事務局にオーダーがあるなど、現場から自発的な声もあがってきている。それも成果の一つだと原田氏は目を細める。
目指すゴールは「安全文化」の定着だ
こうして5S活動始動から3年が経過した。1クール10チームとして単純計算すると、3年で120に上るテーマ数となり、これは協力会社を含めほぼ全員が何らかの形で取組んだという計算だ。その中で、職場の風通しの良さや一体感を感じられるようになったのは、皆それぞれが体感している成果だろう。だが、この先さらにルブテクノが目指すゴールがあり、今はまだその通過点に過ぎない。
岩武氏は言う。「仕組みで事故は防げると言いますが、最後の砦はやっぱり人。安全とはまさにそうで人の意識を変えないと実現できないものです。この活動はそのための土壌づくりであり、個々の能力を引き出し、一体感を生み出すものです。それができて初めて、仕事も正確にアウトプットされると思うんです」
また、原田氏は「自分の職場は自分で守り、常にきれいに、そして効率を上げていくための維持管理が自発的にできることこそありたい姿です。それがまた安全文化の定着へとつながっていくと思います」とゴールを見据える。
誰に言われなくても、自ら率先して整理整頓する。それは会社のみならず、家でも地域社会でも同様にだ。それを教え刷り込んでいくことこそ5S活動の意義であり、安心で、きれいで、事故がなく、見える化されていろんな改善がなされている職場づくりをすることは結果的に企業の差別化、ひいては競争力へとつながっていくわけだ。
最後にJMACに対し岩武社長はこう述べる。「外部の目から見て当社のレベル感はどうなのか。内部にはない視点から当社が強化すべき点を今後も遠慮なく言ってもらいたい。そしてこれまで通り現場第一主義で我々の進化の過程をフォローしてもらいたいですね」
出光ルブテクノの取組みはまだ目指すべきゴールの道半ばであるが、5S活動を通し全社一丸となって"見せる工場"を目指しさらなる進化を目指して行く。
担当コンサルタントからの一言
"経営者の強い信念と継続"が5S活動成功のカギ!
5Sに取組んでいる事業所も多いと思いますが、実際にうまく進捗していないという話も耳にします。出光ルブテクノ様で成功されているポイントは、関連会社も含め、経営トップの方々の「この活動を成功させる」という、ゆるぎない信念と率先垂範があったからです。会社の壁を越えベクトルを合わせるためには、時間を要しましたが、活動への思いを一つにしたことが成功へのカギとなりました。また、事務局を含め活動体制を明確に構築し、どのような意見があろうとも挫折することなく継続推進したことが成功へと繋がっています。
芝田 邦夫(チーフ・コンサルタント)
※本稿はBusiness Insights Vol.51からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。
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