人的資本経営時代のキャリアマネジメント
これからのキャリアマネジメントにおける「学ぶ力」の重要度
- 人事制度・組織活性化
佐藤 達実
サステナビリティ経営に欠かせない自律的なキャリアの構築
今、改めて“人と組織”への注目度が高まっている。コロナ禍で浮き彫りになった格差の拡大、熱波や干ばつなど気候変動を含む地球環境の危機的状況、人類をおびえさせる国際的な紛争など、これらのことが私たちにとって身近な出来事として迫り、不安や危機感、生きづらさを覚えることが多くなっているのではないだろうか。
このような状況を踏まえ昨今は、株主偏重の経営に対する疑問符が投じられ、企業経営にも広く社会との対話を求める声が高まっている。数字に表れる業績だけでなく、無形資産や非財務への注目度が高まり、より高度化・複雑化する企業経営の核にサステナビリティ経営を据えようという組織が増えている。
「人的資本経営」は、このサステナビリティ経営を担う人や組織の変革ともいえ、その推進にあたっては、企業の目標(社会価値の実現)と個人の目標(個人の成長や自己実現)を統合させることが一層重要となる。なぜなら、双方の目標が統合されることで、従業員エンゲージメントや長期的なキャリア開発への意欲が高まり、結果として社内外でのコラボレーション(協働)が促進されやすくなると考えられるからである。
両者の関係は一見すると、パラドックス的なものに映るが、組織としての意図的な支援によって統合することが十分に可能だ。さまざまな施策が検討されているが、不可欠ともいえるのが「自律的なキャリア」マネジメントの支援であり、本コラムではそのあり方について論じるとともに、皆さまとの対話の契機になることを期待している。
キャリアマネジメントにおける「学ぶ力」
職業人寿命が企業寿命を上回る時代に
人口構造の変化や老後期間の長期化、テクノロジーの継続的・加速度的な進展等を背景に、医療や学校、ビジネスを取り巻く環境が変化し続けている。特に、生成AIやIoT(Internet of Things)、ビッグデータの活用など、テクノロジーの進展は目覚ましく、業務効率化や生産性向上が進み、企業の合併や統廃合を拡大させ、企業寿命の短期化(現在の25年程度がさらに短期化)を導くとされている(リクルートワークス研究所、2016)。
50年程度とされる個人の職業寿命が、25年程度とされる企業寿命を上回ることが前提となる社会では、1つの企業で職位と給与を上昇させ、直線的にキャリアを完結させる従来型のモデルが成り立ちにくくなっている。
今、ビジネスパーソンに求められるのは、自身の将来を企業に依存するのではなく、一人ひとりが自身のキャリアに主体的・自律的に向き合い、進むべき方向を決める「自律的なキャリアマネジメント」である。自律的にキャリアをマネジメントする人は、働く組織や環境が変わろうとも、汎用(はんよう)性の高いスキルや知識、積み重ねた信頼といったネットワークを駆使して、柔軟に強(したた)かにキャリアを構築しやすいと考えられる。
キャリアと学びの統合
今日のように変化が常態化する環境においては、個人の職業人生は長くなる一方、スキルが有効とされる期間が短期化し、一つのスキル・経験で活躍し続けることは困難である。そのため、「働くこと」と「学ぶ」ことを統合させ、学び続ける力が一層重要となる。
また、VUCA※の時代にあっては、知識やスキルが陳腐化する速度が高まる。私たちは変化に対応し、かつ変革を起こすために、知識やスキルを習得・向上することにとどまらず、必要なことを必要な時に学ぶ術を身につける必要がある。
※ VUCAとは,Volatility(変動性・不安定さ),Uncertainty(不確実性・不確実さ),Complexity(複雑性),Ambiguity(曖昧性・不明確さ)がより顕在化している時代や社会を称する言葉(経済産業省,2018)
人がテクノロジーと共存し、職種やスキルを転換させながら、新しい知識やスキルを習得・向上させる。つまり、リスキリングの必要性が高まっており、学ぶ力の重要性は今後も高まると考えられる。それでは、私たちは何をどう学ぶのか? 学んだ後には、それらをどのように活かすのか?
私たちが長期的、計画的に学び、キャリアとどのように統合させていけばよいのか、次回コラムにてさらに皆さまと深めていきたい。
参考文献
リクルートワークス研究所(2016) Works Report2016 Work Model 2030――テクノロジーが日本の「働く」を変革する――
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