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人的資本経営時代のキャリアマネジメント

先人たちに学ぶキャリア構築に必要な「学ぶ力」の特性

  • 人事制度・組織活性化

佐藤 達実

前回は、働く個人が自律的にキャリアを構築するにあたって学び続けることの重要性が増していることについて述べた。今回は、その「学ぶ力」とは何であるのか?その特性について、先人たちの理論や研究をひもときながら考えていきたい。

動機づけ・学習方略・メタ認知

 はじめに、「自己調整学習」(Self-regulation of learning)を提唱したジマーマン(B. Zimmerman)は、学ぶ力の特性として、動機づけ、学習方略、メタ認知という3つを挙げている。それぞれの意味するところは下表のとおりである。

動機づけ 学習に対するやる気や意欲のことで、ある行動を引き起こしたり持続させたりする。
学習方略 自らの思考や行動、感情を考慮したうえで、目標達成のために学習内容や状況に応じて方向性を選択したり実行したりすること。
メタ認知

自分の学習状況や理解度などをモニタリングすること。

メタ認知した自分を動機づけ,学習方略に生かしていくという点で重要とされている。

ストレッチな経験と振り返り、仕事の意味づけ

 ビジネスパーソンの学びが、学生や生徒と異なるのは経験を教材とすることである。コルブ(Kolb,1984)の「経験学習モデル」はご存じの方も多いのではないだろうか。このモデルは「具体的な経験」(concrete experience)、「内省的な観察」(reflective observation)、「抽象的な概念化」(abstract conceptualization)、「積極的な実験」(active experimentation)という4つのステップから構成する。

 経験学習サイクルを通じて、人は経験を素材に学ぶことができる。しかし、同じ経験を重ねたとしても、成長する人としない人、あるいは成長速度の速い人と遅い人というように差が生じる。経験から効果的に学べるかどうかは、ストレッチ,リフレクション,エンジョイメントという3つの特性の違いにあるとして、その重要性が指摘されている(松尾,2011)。

ストレッチ 挑戦的で新規性のある課題に取り組む姿勢
リフレクション 行為を振り返り,知識やスキルを身につけ修正すること(行為後に振り返るだけでなく,行為の最中に内省することも含む)
エンジョイメント 自分の取り組む課題にやりがいや意義を見つける姿勢。単に課題を楽しむということにとどまらず,経験や課題を自ら解釈し,意味づけすること

 つまり、試行錯誤や振り返りから引き出される教訓の質が高まり,結果としてやりがいや意味づけが深まる。これら3つの特性は相互につながり,循環して,経験から効果的に学ぶことが可能となるのである。

「開かれた学び」の特性

 上述では、ひとりの学び手が効果的に学ぶ特性に焦点をあててきた。昨今は、「学び」が個人の頭の中で完結するものというより、人どうし、あるいは人と道具、人と環境などという「関係性」のなかに生じるものとする考え方が広がっている。

 例えば、同じ目的をもった学び手で構成する実践共同体(コミュニティー)に参加することで、他者との違和感を通じて、自己のアイデンティティーを変化させたり、専門性への自覚を促されたりという効果が確認されている(荒木,2009)。

 また、社会や組織が抱える課題も、かつては専門性の高い特定の個人やチームに任せれば解決できたものが、昨今では高度に複雑化し、多様な専門家がコラボレーション(協働)しなければ解決できない状況となっている。このような状況を踏まえて、共同性や社会性といった特性も、仕事を通じて学ぶうえで重要性を増している(美馬,2008)。

コミュニティーへの参加  挑戦的で新規性のある課題に取り組む姿勢
共同性 深い学びにつなげるためにコラボレーション(協働)しようとする姿勢
社会性 社会的に意味のあるものであることを学ぼうとする動機づけ

 以上、先人たちの研究から、学ぶ力とは何で、どのような要素があるのかをひもといてきた。次回は一歩踏み込んで、自律的にキャリアを構築しようとする働く個人にとっての学びにフォーカスしていく。

参考文献
松尾睦(2011). 職場が生きる人が育つ「経験学習」入門 ダイヤモンド社
美馬のゆり(2008). 学習環境の構築と運用 佐伯胖 学びとコンピュータハンドブック 東京電機大学出版局

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