第61回 事業タイプとキープロセスを心得ておく
- 経営改革の知恵ぶくろ
神奴 圭康
今回は、事業タイプに応じてキーとなるプロセス(重点改革対象の基本プロセス)があることについて、お話しします。 このことを知っていると、ビジネス・プロセスの見える化がより容易になります。 また、改革の焦点を心得ておくことも可能になります。
3つの事業タイプ分け
多種多様な事業も次の3つの事業タイプに分けられることを、「第39回 事業ユニット発想の裏ワザ」でご紹介しました。
1.顧客密着型事業
少数特定顧客に密着して、商品・サービスを提供する事業。 「顧客密着型」の商品・サービスは顧客仕様が中心となる。ただし、標準・セミ顧客仕様もある。
2.顧客開拓型事業
多数特定顧客を開拓して、商品・サービスを提供する事業。 「顧客開拓事業」の商品サービスは標準・セミ顧客仕様が中心となる。ただし、顧客仕様もある。
3.市場開発型事業
多数不特定顧客の市場を開発して、商品・サービスを提供する事業。 「市場開発型事業」の商品サービスは標準・セミ顧客仕様が中心となる。ただし、顧客仕様もある。
これら3つの事業タイプを参照することが、事業ユニットの設定や事業特性・KFSなど事業の本質理解に役立つことをお話ししました。 同様に、ビジネス・プロセスの見える化の容易化や改革の焦点の把握も可能になります。
事業タイプに応じたキープロセスとは
上の表は、事業タイプの特性・KFSに対応したキープロセスを示したものです。 キープロセスは、事業タイプの特性・KFSから導き出していますが、BPR業革において重点改革対象となる基本プロセスを指しています。 以下に簡単にご説明しましょう。
■「顧客密着型事業」のキープロセス
「顧客密着型事業」は、BtoBの市場で少数特定顧客(大口)を対象とした事業です。 少数特定顧客との密着力がKFSであることから、トップ営業やアカウント営業(顧客専任営業)による営業プロセスがキープロセスとなります。 属人ウエイトが高いプロセスであり、その見える化は容易ではありません。
また、顧客仕様の商品・サービスの課題解決提案力もKFSですので、生産財企業であれば、顧客の課題解決につながる顧客と連携した技術開発プロセスがキープロセスとなるでしょう。 顧客および自社の技術開発プロセスの見える化が必要です。 さらに、設計・調達・生産などの関連部門が連携し、商品・サービスを提供する日々のオペレーション・プロセス(設計・調達・生産プロセス)も、キープロセスです。
「顧客密着型事業」のKFSは、顧客仕様の商品・サービスの課題解決提案力ですが、その根底には特徴のある技術力が必要です。 技術力が特徴のない一般的な水準ですと、俗に言われる「下請型事業」となる可能性があります。 この場合は、顧客の要求する品質・価格・納期・柔軟性に対応するために、日々のオペレーション・プロセスを徹底的に改革して、ライバルに対抗することが求められます。
■「顧客開拓型事業」のキープロセス
「顧客開拓型事業」は、BtoBの市場で多数特定顧客(大口と中小口)を対象とした事業です。 多数特定顧客が属する市場のセグメンテーションにもとづき、ターゲット顧客を決めて開拓する直販力やチャネル力がKFSとなります。 したがって、マーケティング活動を中心とした市場顧客開拓プロセスがキープロセスです。 また、商品・サービスをシリーズで市場に投入していくために、商品・サービス企画開発力もKFSとなります。 このことから、迅速な商品・サービス企画開発プロセスもキープロセスと言えます。
さらに、標準仕様に顧客の要望する仕様を反映する、セミカスタマイズ提供力もKFSとなりますので、営業の引合・見積・契約プロセスもキープロセスです。特に、セミカスタマイズについて、顧客要望をよく確認して見積設計を行うサブプロセスがキーとなります。 同時に、標準仕様にセミカスタマイズ仕様を加えた商品・サービスを供給する、日々のオペレーション・プロセス(設計・調達・生産プロセス)もキープロセスです。 その他には、顧客との信頼関係づくりの一環としてのアフターサービス・プロセスも、キープロセスと言えるでしょう。
「顧客開拓型事業」のキープロセス改革については、「第54回 生産財ビジネスの事業システム改革例」を参考にしてください。
■「市場開発型事業」のキープロセス
「市場開発型事業」は、BtoCの市場で消費者(生活者)を対象とした事業です。 消費財メーカーを想定した時に、次のようなことが言えます。
多数不特定顧客である消費者(生活者)の属する市場のセグメンテーションにもとづき、ターゲット顧客を開発するチャネル力やプロモーション力がKFSとなります。 したがって、消費者(生活者)の心理研究を含めたマーケティング活動である市場顧客開発プロセスが、キープロセスとなります。
また、標準仕様の商品・サービスを中心に、品揃えやNo.1商品を目指した商品・サービス企画開発力もKFSです。 このことから、迅速な商品・サービス企画開発プロセスもキープロセスとなります。 消費者(生活者)や小売業と連携して商品・サービス企画開発をすることが、改革の焦点となっています。
さらに、標準仕様の商品・サービスを得意先である小売業や卸売業に営業する力もKFSとなりますので、日々の営業プロセスもキープロセスとなります。 営業を支援する店頭フォローや消費者とのコンタクトなど、営業支援プロセスもキープロセスです。 同時に、店頭起点の商品・サービス供給力もKFSであり、日々のオペレーション・プロセス(調達・生産・物流プロセス)もキープロセスとなるでしょう。
その他には、耐久消費財事業の場合には、顧客との信頼関係づくりの一環としてのアフターサービス・プロセスがキープロセスと言えます。
この「市場開発型事業」のキープロセス改革については、「第53回 消費財ビジネスの事業システム改革例」を参考にしてください。
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