企業的農業経営が「魅力ある農業」を実現する
第4回 収益を管理して利益を倍増する
今井 一義
農業は天候に左右され、毎年、毎作、違う条件での栽培や作業になるため、収益管理は「どんぶり勘定」となっているケースが多い。「変化・変動が多い農業で、収益管理しても意味がない」「収益管理したら利益が増えるのか?」という話もよく聞く。われわれがコンサルティングする農業生産者においても、収益管理ができているといっても、「作物の原価はこのくらいでは?」という経験値がほとんどで、利益が出ているかどうかの把握は感覚的である。
企業的農業経営を志向するのであれば、各作物別の利益に加えて、時期別、圃場別の利益を把握し、利益最大化のための作付計画、作業計画、出荷計画を策定し、その実現に向けて、日次・週次・月次での管理サイクルを構築すべきである。
収益を構造化して重点課題を把握する
収益を管理するためには、何を重点に管理すべきか? を考える必要がある。すべての指標を把握して管理することは非効率なので、まずは、下図のように収益を構造化して、どこに問題があるのか? 何の指標を重点的に管理すべきか? を把握する必要がある。
JMACでは、作付面積当たり利益を管理指標にして、それを展開した指標で課題を把握することを推奨している。たとえば、労務費が多い場合は、面積当たり労務費を算出し、その低減策を検討することで利益最大化を図る。原単位を面積当たりにすることにより、前年と作付面積が変わっても、労働生産性の比較が可能になるため改善効果を測定できる。また、作物別の比較、圃場別の比較なども可能になり、課題を明確化することができる。
作物別の利益を管理する
作物別の利益を管理するうえで重要なことは、作物別のコストを把握することである。
売上高は、販売単価と収穫数量の情報を販売先から入手することで算出できるが、コストを作物別に把握することは、日々の日報管理がポイントとなる。たとえば、原価構成比が大きい労務費は、何の作物の、何の作業に、どれだけ投入したのか? を日々管理することで把握できる。また、農業機械費の原価構成比が大きい場合は、作物ごとに農業機械の使用時間を把握し、減価償却費を使用時間で配賦する必要がある。肥料・農薬についても、作物別の使用量を把握して配賦する必要がある。原価構成比が大きい費目については可能な限り内訳を把握して、コストドライバーを設定して配賦することが肝要となる。
週別の利益を管理する
通年出荷の場合は、週次の利益を管理して、作付をコントロールすることが有効である。
下図のように年間52週で、「収益性が高い時期」や「収益性が低い時期」を把握し、収益性が低いのはなぜか? 改善できないか? を考察する。改善できないとしても、計画時点で作付量・品種を変更するなどの施策を検討することができる。また、週次で、面積当たり収量やコストを把握し、原因を検討して改善につなげることで収益性の向上が期待できる。週次での改善サイクルを構築し、日々の従業員の改善が収益向上に寄与しているか? を説明すれば、改善推進の動機づけにも活用できる。
作物別・週別の面積当たりの利益を管理して利益を最大化
これまで個々の作物の収益向上を図ることを説明したが、複数の通年出荷の作物を生産している場合は、作付ミックスを改善することで利益最大化を図ることが可能になる。
下図のように作物別の週別の面積当たり利益を1つのグラフにまとめて分析することで、どの時期に、何の作物を作付・栽培・出荷することが面積当たり利益を最大化できるか? を把握できる。すなわち、収益性が高い作物を優先的に作付することで利益の最大化を図れる。
実際の事例でも、作物別に週別の利益を分析、改善して、さらに作付ミックスを考慮した作付・作業計画により利益を倍増することができた。また、経営者と管理者は、毎月の収益情報、生産性や面積当たり収量などの情報を共有して振り返り、改善を検討することで改善活動が盛んになった。管理者が収益向上のために、現場の従業員を巻き込んで、日々の改善、週次での振り返り検討会を開催するようになったのである。
収益管理レベルの向上は、収益向上だけでなく、経営者の意識を変え、現場管理者の行動も変え、改善を推進する基盤を構築することができるのである。企業的農業経営を推進するためには、経営者だけが収益を管理しているだけでは、現場を巻き込んで改善することは難しい。収益性の指標を現場レベルまで展開し、重点管理指標を設定して、同じ目標に向かって一緒に改善することが重要となるのである。
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