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第28回 マーケティングの個別戦略を考える(9)

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

前回は、4P戦略の考え方を総括しました。

今回は、消費財について4Pの枠組みで考えてみます。
題材としては、国内大手アパレルメーカーのユニクロを採り上げたいと思います。ユニクロといえば、多くの方もご存じのように2009年度の2月度中間決算では553億円という過去最高益を更新し、厳しい市況の中でも高い集客力を武器に躍進している優良企業です。(2010年4月24日時点)

Product戦略:「ベーシック」「カジュアル」「高品質(機能的)」「センスのよいデザイン」で統一

Product戦略から紐解いていきましょう。
Product戦略を3つの視点:①コンセプト(モノの満足価値)、②パッケージング・ハード要素(サイズ・形・色etc)、③ネーミング・コンセプトメッセージ(情報ツール)で捉えます。

まず①コンセプト(モノの満足価値)ですが、ユニクロ製品は、「ベーシック」・「カジュアル」・「高品質(機能)」・「センスのよいデザイン」といったコンセプトで統一されています。またこのコンセプトは、製品だけでなく、店舗にも反映されており、「気軽に入店できる店舗設計」「エクセレントな接客品質」といった形で具現化されています。マーケティング戦略を考える上で、この製品コンセプトの部分が非常に重要ですが、ユニクロの場合、顧客理解に基づいて、徹底的にシンプルでシャープなコンセプトに落とし込んでいることが分かります。

次に②パッケージングについては、「カジュアルかつセンスのよい服」「パーツとして使える服(ロゴがなく他の服と組み合わせやすい)」「性別を問わないユニセックスな服」というキーワードが浮かび上がってきます。興味深いのは、一般的なアパレルメーカーとは異なり、コーディネートで販売せずに他の服と合わせやすい服、つまりパーツで使える服として販売しているということです。

③ネーミング・コンセプトメッセージも、やはり「シンプル」「ベーシック」「高品質(機能)」というキーワードで統一されています。「マイクロフリース」や「ヒートテック」「シルキードライ」「UVカット」など、機能を分かりやすくシンプルに表現した製品名になっていることが分かります。 ここで重要なことは、①コンセプトを基に、②パッケージング③ネーミングそれぞれについても、共通のキーワードで統一されているということです。

Price戦略:"本当によい物を安く"を実現するビジネスモデルとコスト構造

Price戦略について見ていきます。
Price戦略については、①プライスバリュー②プライスゾーン③コスト(流通マージン・リベートetc)で捉えます。

まず①プライスバリューですが、まさにユニクロが強みとする「低価格で高品質」というコア・コンセプトの部分といえるでしょう。製品だけでなく、店舗スタッフによる高いサービス水準を実現することで、さらなる付加価値を高めていることがわかります。

②プライスゾーンについては、顧客の低価格志向に対応しているユニクロですが、それを実現しているのが ③コスト(流通マージン・リベート)の部分です。ユニクロは、SPA(Speciality Store Retailer of Private Label Apparel:製造小売業)というビジネスモデルを確立し、商品の企画から生産、販売までの機能を垂直統合することで、中間流通コストを抑えることを可能としています。自社で製造販売することによる在庫リスクが発生しますが、手頃な価格で自社の求める品質の商品を提供することを実現できる構造になっています。

つまり、Product戦略のところで述べた、「高品質(機能)」・「センスのよいデザイン」といったコンセプトと、Price戦略の低価格志向のプライスゾーンとを、SPAというビジネスモデルで同時実現することで、「低価格で高品質」なプライスバリューを実現している、といえるでしょう。

Promotion戦略:マス媒体を活用し、特定商品に広告・宣伝を絞り込む

続いてPromotion戦略です。
Promotion戦略の捉え方にも様々なフレームがありますが、今回は①顧客認知、②顧客獲得、③顧客維持(ロイヤリティ形成)の視点で捉えます。

①顧客認知②顧客獲得については、TV-CF、交通広告、新聞・雑誌・チラシ、Webなど、マス・コミュニケーション媒体を積極的に活用しています。ここは他のアパレルメーカーと大きな差異は認められませんが、興味深いのは、"1シーズン・1~2アイテム"で、特定商品に絞り込んで訴求をしている点です。例えば、2009年秋冬は「ヒートテック」に絞り込んだプロモーションを重点投下していましたし、最近ですと「シルキードライ」「サラファイン」「UVカット・シリーズ」などに絞った広告展開をしています。また、各種媒体には男女の性差を問わず、かつ大人から子どもまで起用し、"みんなの服"というブランドイメージを提供していることもユニクロの特徴といえるでしょう。
広告媒体だけでなく、販売店舗での店舗設計、品揃え、店員スタッフの服装・接客対応なども、幅広い年代層に受け入れられやすい"カジュアルさ"を前面に出したものであることが分かります。

③顧客維持(ロイヤリティ形成)については、前述の高品質・高機能な製品そのものが顧客ロイヤリティを高める上での有効な販売促進になります。また、顧客満足度を考える上でも重要な「身につける喜び」をより高めるために、有名ファッションデザイナーのジル・サンダー氏と組むなど、"カジュアルさ"+αの価値である"センスのよいデザイン"をPRすることも忘れていません。
Promotion戦略についても、ユニクロのコア・コンセプトである「低価格で高品質」(Product戦略×Price戦略)をより効果的に訴求するために、適切なコミュニケーション媒体を選択して、訴求商品(機能)に絞った広告展開をしていることがよくわかります。

Place戦略: "みんなの服"をあらゆる顧客層が購入できる接点チャネルの構築・展開

最後に、Place戦略について考えてみましょう。
Place戦略は、①コンタクトすべきセグメント重点、②チャネル構成、③購買プロセスの深掘重点(新規・買替・買増)の視点で捉えます。

まず①コンタクトすべきセグメント重点ですが、Promotion戦略のところでも述べたように、ユニクロは、男女や年代を問わず幅広い層をターゲットに"みんなの服"というブランドイメージを提供しています。マーケティング戦略の基本であるセグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングがぼやけているように一見みえるのですが、ユニクロのマーケティング戦略をよく見ると、ユニクロは顧客のセグメントではなく、商品機能のセグメントを軸に戦略を展開していることが分かります。例えば、Product戦略のところでも紹介した「ヒートテック」「シルキードライ」「UVカット」といった機能でセグメントをしているのです。

②チャネル構成については、SPA業態の強みを活かした多様な店舗形態(ロードサイド店、ショッピングセンター/モールや百貨店内テナント店、Webオンラインショップなど)を取っており、リアルな販売接点については、誰もが気軽に入れる店舗構えを取っています。つまり、"みんなの服"をあらゆる顧客層が購入できるように顧客接点チャネルを構築・展開しています。

③購買プロセスの深掘重点(新規・買替・買増)については、新規のお客さまに対しては、Promotion戦略のところでも述べたようにブランドイメージの向上を図ることで認知・購買を促進し、一度購入していただいたお客さまには、製品そのものの機能・デザインによる満足度を提供することで、買替・買増に繋げています。このように、Place戦略についても、他のProduct戦略・Price戦略・Promotion戦略と結びつけながら展開されているのです。

以上、4Pの枠組みでユニクロのマーケティング戦略を捉えてみましたが、それぞれの"P"の中での整合性だけでなく、他の"P"との関係についても、相互に関係を持ち、整合性を取ってマーケティング戦略を構築・展開することの重要性がお分かり頂けたかと思います。

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(今回の原稿執筆に当たっては、CS・マーケティング事業部コンサルタント成舞 響さんに協力いただきました。)

次回テーマは、「 生産財企業における4P戦略事例 」についてお話しします。

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