キャリア面談で人は変わる!イノベーション人材とキャリアプランの密接な関係
- R&D・技術戦略
大崎 真奈美
面談のひと工夫でイノベーション人材を育てる
さわやかな新緑から恵みの雨の季節に変わろうとする6月、新入社員研修がひと段落してくるという会社も多いだろう。皆さんの目には彼・彼女たちがどのように見えるだろうか。キラキラ輝いているだろうか。そして、彼・彼女たちはどのような夢や目標を描いて、入社してきたのだろうか。
イノベーション人材とキャリアプランは密接な関係がある。イノベーションとは誰もが「無理だ」「非常識だ」「うまくいかないよ」と内心思うような挑戦に取り組む行為だ。それは実際に難しさをはらんでおり、本当にゴールを迎えられるかわからない。
ある医療機器メーカーでは、明確な顧客価値が実現できる見込みのあったテーマにもかかわらず、30年の研究開発を経て経営判断で中止せざるを得なかった。チームで涙を流しながら幕引きを迎えたそうだ。
面談の工夫の必要性はすべての業種・職種で重要なことだが、このコラムでは 筆者が日ごろ行っている研究開発領域を例にお話をしたいと思う。
人生の多くの時間をかける研究・開発であるからこそ「自分は何を実現したいのか」を定期的に振り返り確認することが大切だ。そうでないと、何か障害があればすぐに辞めてしまいたくなってしまう。
しかし、大企業の研究・開発部門に入ってくる人の多くは「自分は何を実現したいのか」ということについて言語化することに慣れていない。技術者・研究者という役割以上に自分の人生について考えさせる、ということが会社のマネジャーの役割なのか、と戸惑われる方もおられるかもしれないが、イノベーションへ挑戦させるのであれば大事な要素ととらえてもらえるとうれしい。
もちろん、すでにキャリア面談を行っている、という会社も複数ある。すでに行っているという方は、次の要素も聞いてみるとなおよい。
① 自分自身は長期目線(10年単位)で何がどう変わることに貢献したいか
② ①について現状をどう認識しているのか(貢献の対象、自分自身の貢献)
③ ①についてどのような不安・悩みがあるのか
④ もしリソースや環境、周囲からの期待に何の制約もなければ②についてどんな目標にチャレンジしたいか
上記4点について、一つずつ解説してみよう。
「期待」という他人の正解ではなく自分の本心を大切にする
「①自分自身は長期目線(10年単位)で何がどう変わることに貢献したいか」は、その人の本心を引き出す質問だ。多くの人は「期待に応える」ことに慣れすぎていて、「何をやりたいか」と聞かれたときに、本当にやりたいことではなく今ある業務について「このテーマの成果を出すこと」とか、一般的に期待されていると思われる像を想像して「生産性を向上できるようになりたい」とか、世の中で言われているような「脱炭素に貢献したい」といったことを答えがちである。
しかし、このような誰でも同じ回答をする正解ではなく「自分は」どうしたいか、という本心に向き合うことは、本当の自分自身に気が付く喜びにつながり、自分のやる気を引き出すために非常に重要な要素だ。
「今の仕事・今の環境・今の期待・今のリソースといった正解の制約を取り払う」という要素を取り払うために「長期」という前提を置く。もし、それでも教科書的な返答があったら、「期待されていると思うこと」を書き出してもらって、その上で「これらの期待が全くなかったらどうしたい?」と聞いてみるのも有効だ。
「貢献」の姿で自分の喜びとお客さま・仲間の喜びが共振する
どう「貢献」したいかは、顧客目線・社会目線を引き出す言葉だ。自己成長・技術の発展はもちろん大事だが、それだけでは事業として成立しない。この貢献のインパクトの大きさは必ずしも重要ではない。大きな夢を語る人もいれば、明日のことを語る人がいるかもしれない。
ただ、「喜んでもらいたい」とか「自分の作った商品で脱炭素を実現したい」といった、誰もが語れる内容だと意思にかける。小さいかもしれないかかわりを通して、喜んでくれるのはいったい誰なのか。その人は、何と言って感謝の言葉をあなたにかけているのだろうか。一人でもいいからそんな像が浮かぶと、共感の輪を広げることができる。技術者は、技術者だけでは想いを実現できない。共感の輪を広げて、社内の人やサプライヤー、お客さまと協力して実現できるものだ。
問題と不安を見つめる
「①について現状をどう認識しているのか(貢献の対象、自分自身の貢献)」は課題を発見させる質問だ。顧客や社会にはどんな課題があると「自分は」認識しているのか。そこに対して自分自身は今どのように貢献できていて何ができていないのか。
現状の課題を見つける姿勢につながる「①についてどのような不安・悩みがあるのか」は、本心に向き合う質問だ。特に技術系の人たちは悩みや不安と言った弱々しい部分を見せることが苦手だ。「なれない顧客ヒアリングをするのが不安だ」「いつまでも答えが出せないのが不安だ」といった言葉ではなく「顧客ヒアリングをするためにはまだまだ準備が足りない」と漠然とした終わりのない課題形成をしてしまったり「それは事業部の人が嫌がるだろうから無理だ」と冷静に他人(ひと)ごとにしてしまったりすることがある。
弱い本心に向き合わないと、どれだけ課題対応しても結局動けない、ということがある。逆に一度不安を口に出してしまえば、「じゃあ慣れている人をつけようか」と対策は変わるかもしれないし「勇気を出して頑張る」ということかもしれない。じつは不安に向き合って認めてしまった方が対策コストはかからないことが多い。
具体的な行動につなげていく
「④もしリソースや環境、周囲からの期待に何の制約もなければ②についてどんな目標にチャレンジしたいか」は、現状の中で当面の目標設定を促す質問だ。①~③で自分のビジョンが見えてくると、具体的になればなるほど、実現をしたような喜びを感じてしまい、実際に行動するという現実に向き合わない、ということも生じる。
だから、自分のやりたいことは現実の中でどう取り組めるかを考える。この際に、対象者自身がうまく答えられないようなら、アイディアを出すのはまさに上司の仕事だ。「こんなテーマをやってみたらどうだろうか」「まずは基本的な伝える力を、今のテーマの中で高めてみようか」などである。
古今東西最も効果的なことは自ら変わること
今回は、中長期にわたる開発に必要なキャリアプランについて触れた。イノベーションは期間がかかるし、ちゅうちょしたくなることがたくさん起こる。それを乗り越えていくために管理職ができること、という視点で記した。
では、管理職である皆さんは、ご自身のキャリアについてどう考えているだろうか。これまで何を実現し、これからはどうしたいのだろうか。年齢など関係ない。今回①~④の質問を自分に問いかけ、少しでも一歩踏み出すこと、そしてそれを若い技術者・研究者にも示していくことが、大きな刺激につながるのは間違いない。
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