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生産技術者の未来実態調査

第4回 生産システム革新における生産技術者の役割

  • R&D・技術戦略
  • 生産・ものづくり・品質

藤井広行

「生産システム」の認識は時代によりどのように移り変わってきたか

 生産システムの認識の始まりは、1980年代に普及したトヨタ生産システムであろう。当時、高収益を上げていたトヨタのものづくりを学ぼうと多くの企業がトヨタ詣を行なった。その結果、多くの企業で自社の頭文字を使った〇PSと名付けた生産システムの名称がブームになり、トヨタをまねる企業やトヨタを参考にしながら独自の生産方式を軸にかかげた生産システムが構築されるようになった。

ここで取り上げる生産システムとは、QCDの最適化を狙った工場全体のものづくりの仕組みと運用を指す。事業特性に応じた生産方式をコンセプトに、「生産管理」「流れ生産」「高効率生産」を目指す仕組みと運用を構築する活動である。部分機能の改善と対比して、「全体最適化の取り組み」とも言われている。

 1980年代になると、高度成長が終焉し、多品種化が進んできた。折しもバブル期に差し掛かったこともあり、生産管理のコンピュータシステム化と任意の位置停止ができるサーボ機構をもった産業用ロボット化や、AGVを活用した工場内物流システムが導入されるようになった。また、一気通貫と呼ばれる「仕掛り最小化」をめざした工程編成の改革、改善が行われるようになってきた。

そのような取り組みは、CIM(computer Integrate Manufacturing)と呼ばれていた。当時は、生産技術者が大いに活躍できた時代であった。

 しかし、1990年代のバブルが崩壊すると、生産システム革新ブームも一気に冷え込んだ。多くの製造業は、自社のものづくり改革を推進するより、コストダウンに走るとともに、安価な労務費を求めて主に中国進出に舵を切った。量産品や労働集約品は海外、多品種製品は国内という構図ができあがってきた。そのために、多くの生産技術者が海外工場へと派遣された。その結果、生産技術者は分散されていった。

 2014年、ドイツでインダストリー4.0が提唱された事によって、国内の多品種生産で悩んでいた多くの企業が再び生産システムに注目するようになってきた。IoTブームがやってきたのだ。コンピュータ技術の発達によって、多品種の中でも個別単位での生産管理・工程管理はでき、設備の制御とつないだコンピュータによる統合型の生産システムを目指すようになってきた。これは「スマートファクトリー」と称されている。

 ドイツのインダストリー4.0は、コンセプト主導であったが、日本の先進企業の中には実際の工場にスマートファクトリーとして実現したところが出てきた。2010年代後半になると多くの企業でスマートファクトリー化の挑戦が始まった。しかし、今現在においても一部の先進企業を除いて、「スマートファクトリー」と呼べる水準には達していない。スマートファクトリー化の第一歩として見える化に取り組まれている工場が増えてきてはいるものの、見える化のみに留まっているところが大半である。

スマートファクトリー化において生産技術者は何をすべきか

 スマートファクトリー化が思うように進んでいかないのは、スマートファクトリーを推進できる生産技術者が不足しているからである。
製造技術はものづくりの基幹であるため、工程毎の専門技術者は品質を軸にして各社で育成・配置されているが、生産管理、ものの流れ、自動化や作業改善に精通した生産技術者が極端に足りない。海外派遣によって生産技術者が分散している事もあるが、コンピュータを活用した高度の生産管理や工程制御技術、自動化を推進できる作業・設備など高度な統合した生産システムを描ける生産技術者が見当たらない。

 さらに、技術が高度化しているため、外部のITベンダーや設備メーカーに依存せざるをえず、工場の生産技術者もエンジニアから導入エンジニアとして活躍するようになり、越えねばならない課題をブレークスルーできる物理・化学・工学を駆使できる技術者は稀有になっている。

 筆者は、高度化したスマートファクトリーを工場の生産技術者で構築する事は、現代では無理な水準に達していると思っている。専業のITベンダーや設備メーカーに依存せざるを得ないという現状がある。では工場の生産技術者の役割とは何なのか。それは、「自工場の特性に応じた生産システムの革新、構築の推進役」に徹する事だと考える。

 スマートファクトリーと言わずとも生産システムには、仕組みと運用が重要である。ぜひ、仕組みの改革と運用のルールづくりに、工場の生産技術者がもっと貢献していただきたい。

生産システムの仕組み

生産システムの仕組みとは、大きく分類して次のようになる。

  1. 工程設計:ものづくりの根幹である工法、製造技術、設備を決める。
  2. 生産管理の仕組み:事業特性に応じた生産管理の仕組みを再構築する。
  3. 短サイクル生産の為の品種切り替え時間の短縮:日々改善の取り組める現場体質が重要になる。
  4. 流れ生産を志向した工程編成:流れ工程編成は、方法、設備の改造、革新が伴い最も技術的ブレークスルーが必要となる取り組み。製造技術に特化した生産技術者の出番。
  5.  部品物流:組み立て工程に部材をJIT供給する仕組み。
  6. 作業設計、自動化の仕組み:少人化された作業改善には、IEを活用。ハンドリングの自動化はIEと自動化技術を活用。自動化技術は、設備メーカーの知恵を借りるのも現在では必要。

多品種化が進む中では、限りなく市場の変動要求に対応できる仕組みが必要である。この整理をなくしてしまうと、スマートファクトリーはうまくいかない事が多い。スマートファクトリー推進の前に事業特性の応じた生産管理の仕組みを整理した上で、スマートファクトリー導入を図っていただきたい。

生産システムの運用

生産システムの運用については、次の項目を挙げたい。

  1.  生産システムの前提となる生産基盤のルールを順守
    生産管理、設備管理、日々改善、品質管理、5S,安全衛生管理 等
  2.  製造品質の基本である作り込み品質、製造技術の明確化と順守
    仕組みが充実した生産システムにおいても、品質が安定していなければ、仕組みも機能しない。製造標準を順守すれば、不良が発生しないところまで、製造条件・製造標準を見極める。

上記に挙げた仕組みと運用を、より進化させるのが生産技術者の役割である。自工場の事業特性を把握した上で、上記の項目をどのように引き上げるかを検討していただきたい。

 筆者は、生産システムの革新を進めるために【5年先を見越したグランドデザイン】を描くことを推奨している。スマートファクトリーを目指そうとした場合、フィジカルな生産システムが充実できてないと、スマートファクトリーは機能しない。DXの推進は多くの工場で取り組まれるようになってきたが、いまだ見える化を超えられない工場が多数ある。

 それに答えを出せるのは、自工場のものづくりに一番精通しているのは生産技術者であり、専業ITべンダーや設備メーカーではない。自工場のフィジカルな生産システムを充実させられるのは生産技術者の役割である。

仕組みと運用力の革新対象

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