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生産技術者の未来実態調査

第2回 ものづくりの変革意思を盛り込んだ中長期の戦略がイノベーションの起点となる

  • 生産・ものづくり・品質
  • R&D・技術戦略

山本真也

生産技術部門として事業に貢献し、成果を創出するための要件の1つとして「ものづくり戦略」の策定とその内容の充実度(いかに具体的な改革内容を盛り込めるか)が挙げられます。

本実態調査では以下の実態を伺うことができました。

  • ものづくり戦略は69%の企業で作成している。
  • 内容としては事業の数値目標が主であり、PQCDS向上などの事業内の価値向上や財務目標が最も多い。
  • 具体的な改革内容を盛り込んだ内容の充実度という意味では「社会や顧客に対して新たな価値を提供するメッセージ」や「工程、製品、SCMを革新する方向性や施策」が当てはまるが、これらは30%前後の回答率だった。
  • 革新には人材基盤が不可欠だが人材育成が24%、エンゲージメント17%、体質強化活動14%とより少ない傾向にあった。

また、ものづくり戦略の分類と成果創出の関係性をみると、「工程、製品、SCMを革新する方向性や施策」「人材基盤」についての内容が充実しているほど生産技術部門として成果を創出している傾向が高くなっていることが分かります。

このことからものづくり戦略には「長期的」かつ「目指す姿への具体性をもった道筋を示す」ことが求められていると読み取れます。
 

規模別・業種別にみるものづくり戦略の達成度合い

実態調査の結果から、以下のことが見えました。

製造業全体では達成できているという回答は43%であった。
回答には計画の途上である場合も含まれると考えられるが、50%を割るのは低いと言える。
売上規模別のものづくり達成度は規模が大きくなるにつれて高くなる。
(大規模:5000億以上、中堅規模:500億以上、中小規模:100億以上、小規模:100億未満の4分類している)

業種別では精密機器と医薬品製造が71%と突出して高い結果であった。
どの他の業種は平均の43%と大きく変わらないか少々低い結果となっている。

  

達成しきれていない理由としてはあくまで仮説だが、以下のような要因が考えられる。

  • 掲げている目標値が理想を掲げすぎている
  • 末端まで組織全体で目標と戦略が浸透しきれていない
  • 近年ではコロナ等の不測の事態があった影響が大きい
  • 目標へ到達するための道筋に具体性が欠ける
  • 施策の実行、チェック、次のアクションといったPDCAが機能していない

 ものづくりの変革意思を盛り込んだ中長期の戦略

 実態調査から把握された事実を踏まえ、ものづくり戦略とはどうあるべきかを考えていきましょう。盛り込むべき7つの要素を下記に挙げます。

A 長期的な視点(10年~)を見据えること

ものづくり戦略は事業戦略を達成するための設計・製造における機能別戦略の1つの位置づけである。業界によるが、事業・新製品のロードマップは10年超えるスパンで作成されている。既存事業、数年先の市場投入、その先の世代を変えた新製品まで見据えた長期視点を持つこと。

B ものづくりの構造に踏み込んだ改革構想を描く

長期スパンで進化する製品の構造にあわせて工程・生産設備の構造をどう対応すべきなのか構想と技術課題を見出すこと。製品と工程を分離して考えると制約が生まれて大きな革新には繋がらない。

C 製品、工程、SCM(サプライチェーン)、人材、具体的に何をどう変えるのか意思を示す

改革構想が見えると、各領域別・領域をまたがっての連携課題が見えてくる。
製品、工程だけでなく購買・物流・生産管理などのサプライチェーンにおける課題、自社の生産方式や組織体制などを含めたマネジメントにおける課題を含めた広い視点でテーマを設定する。

D 構造変革(ドラスティックイノベーション)と継続的改善

改革には構造から大きく変革するドラスティックイノベーションとコツコツ小さな改善を積み重ねて基盤を強固にしているインクリメンタルイノベーションがある。大きなことを狙うだけでなく、両面がそれぞれ回ることが重要。見た目の良いドラスティックイノベーションだけでなく、基本こそ重要視した両面を織り込んだ計画を作りが必要と考える。

E 他部門連携とコンカレントを必須とした課題設定をする

各テーマ、特にものづくりの構造に踏み込んだテーマについては部門単独で遂行することはできない。どの部門同士がどう連携するのか、そのタイミングは源流段階であればあるほど情報が透明になり、制約を打ち破ることにもつながる。
役割を明確にしたテーマごとの実行計画を策定する。

F 大切にすべきWAYを維持するための活動体を入れ込む

このような長期視点で大きな改革にチャレンジするには組織風土、文化も大切である。恐らく自社独自の生産方式(〇〇Production Way)が存在するのではないだろうか。基本思想はぶれることなく日々のものづくり業務で大切にしていることは継続しなければならない。成果を出し、事業的にも成長している企業ほど、この基本部分はとても大切にしているし、自社戦略にも明確に明記している。

G 人材育成の場を入れ込む

最後に人材であるが、自社として自部門として目指すべき人材像を明らかにするとともに成長は実践の場が一番である。たとえ失敗があっても自主自立的に考え行動できる人材を高い目標を持たせてモチベーション高くチャレンジできる場を経営として設定いただくと共に、ロードマップに入れ込んで頂きたい。

まとめ

  • 世の中の変化スピードは速く、ものづくり戦略は長期視点で描き、変化に追随して進化を加えていくことが必要と考える。
  • ものづくり戦略には考え方を変える意思を示すこと。
  • イノベーションには日常改善を積み上げるコツコツ型のインクリメンタルイノベーションと考え方、構造を大きく変えるドラスティックイノベーションがある。
  • 両面が必要でそこには人材育成が不可欠。チャレンジの場づくりと失敗を許容しての人の投入を積極的に行うことが重要である。

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