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JMAC品質経営研究所だより Vol.7
文化の違いは要求品質の違いとなって表れる

  • 生産・ものづくり・品質

宗 裕二

文化を理解しなければ、要求品質の違いは理解できない?

今、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に流行し、製造業にも計り知れない影響を及ぼしています。前回、アフターコロナの時代を迎え、モノづくり現場において求められている「コンパクトな製造工程を作るときの考え方」についてお話しました。今回は食生活で欠かせない商品を例に、「文化の違いが要求品質の違いに繋がる」という内容でお話ししたいと思います。

内における新型コロナウイルス感染症の蔓延で、私もテレワークの機会が増えました。テレワークをこなすうちに、「アメリカとも簡単に繋げるではないか」と考えるようになり、繋げてみることにしました。今では、カリフォルニア州ロサンゼルスにいる親友と、毎週末、Web飲み会を開催しています。日本とアメリカの生活環境の違いをリアルタイムで知り、意見交換することで、アメリカ人の考え方の違いや、行動の違いを改めて議論することができ、大変有意義な時間となっています。

少しの間、私もアメリカのロサンゼルスで生活していたことがあります。生活してみて初めて分かることが多く、興味深い毎日をウキウキしながら過ごしていたことを思い出します。その時感じたことは、「文化の違いが品質の違いとなって表れている」という事実です。当時のことを思い出し、ロサンゼルスにいる親友に写真を送ってもらい、身近な製品の品質について私見を述べたいと思います。

真はアメリカのスーパーマーケットでpic1.png一般的に売られているスライスチーズです。現地で生活していた当時、よく購入して食べていました。日本のものと比べて少々塩辛い味ですが、パンに挟んだり、サラダに入れたりするには程よい塩味です。初めて購入し、自宅に持ち帰った時、「大きく」、「雑な作り」で、「開けにくい」と感じたことを覚えています。

写真でもおわかりでしょうが、不ぞろいですし、扱いも雑で一部に凹みがあります。しかし、とにかく安いのです。おいしく食べる分には何ら問題はありません。2個セット5ドルで売っており、一つ16枚入りです。計算すると一枚当たり約15円(107円/1ドルで計算)となります。日本の一般的なスライスチーズは7枚入りで一枚当たり約38円となり、値段に倍以上の差があります。製品の違いなどによって価格差はあるでしょうが、ここまでの違いにはなりません。一枚当たりの重量は共に18グラム程で変わりません。

日本のスライスチーズも、良く見ると揃っておらず、多少乱れはありますが、それほど大きなズレはなく、あまり気にならない程度です。これは、枚数が少ないからかも知れません。最も異なるのが、フィルム一枚一枚に印刷されている注意書きとフィルムの厚さです。日本製品のチーズのフィルムは厚く、剥がして食べるときに扱い易いのですが、アメリカ製品はフィルムがとても薄く、特に注意書きの印刷が無いので、どこからフィルムを剥がせばよいかわかりませんし、とても剥がしにくいのです。pic2.pngしかし、慣れればどこから剥がせばよいか見当がつくため、少々苦労はしますが剥がせます。

一方、日本の商品は、とても親切にいろいろな注意書きが書かれており、剥がすポイントもよく分かります。フィルムに厚さがあり、取り扱いやすいと感じます。

日本のスライスチーズの方が、何かと親切で「日本の品質は素晴らしい」と言いたいところですが、そうとも限りません。実際に何人かの人に聞いてみたことがあるのですが、日本製品のような親切な注意書きは、「過剰なこと」なのだそうです。「印刷するコストを掛けるなら、その分安くして提供すべき」だというのです。「フィルムの良し悪しは商品の本質ではない。チーズは中身が重要であり、食べる部分にお金を払っているのだから」というわけです。確かに、一度フィルムを剥がす場所がわかれば、次からは特に困ることもないですし、薄いフィルムも徐々に剥がすのが上手になってくるので、これも困らないのです。

一度に多くの量を購入すれば、一つ当たりの金額は安くなるのは、言わばアメリカの常識なのだと思います。pic3.pngスーパーマーケットには、全く同じ商品でも購入する量の単位が異なるパターンが置いてあり、より多くの量を購入する方が一つ当たりの値段は安くなる設定となっているのです。日本でも大量に買うことで安く提供するお店はありますが、どこにでもある一般的なお店ではないように思います。また、食べるものは生活に欠かせない必需品ですから、アメリカではそうした製品は安価に提供することが常識となっているようです。こうしたことが背景にあると理解すると、スライスチーズに対する「要求品質」が日本と異なることが理解できるように思います。

メリカ文化の理解や、要求品質の解釈もごく一部の声であり、私の仮説に過ぎません。しかし、実際に生活することで、思いもよらなかったことに気付かされますし、自分との常識の違いを発見することができます。そうした発見が、その国の要求品質を生み出している背景を自分なりに理解することができれば、モノづくりの発想も変わってきますし、取引上の留意点も変わってくるでしょう。

テレワークの利便性も感じていますが、やはり、その地で実体験を通して感じる「空気」から手に入る情報も多くあります。早く、このCOVID-19の蔓延が収まり、活発な現地活動が始まることを願っています。

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