JMAC品質経営研究所だより Vol.8
その国の常識を知らなければ「クレーム」「品質」を語ることはできない!
- 生産・ものづくり・品質
宗 裕二
二か月以内なら返品可能なのがアメリカ人の常識!?
前回は、日米の食卓に欠かせない「スライスチーズ」を例に、「文化の違いが要求品質の違いに繋がる」という内容でお話ししました。
今回も引き続き、アメリカの買い物行動にまつわる内容について、ご紹介したいと思います。
前回もお話ししましたが、Web飲み会をロサンゼルスにいる親友と相変わらず続けています。
先日、その友達からある写真を送ってもらいました。「デルアモ」と言う、かつては世界一巨大だったショッピングモールの駐車場の写真です。新型コロナウイルスの影響で、一時は閉鎖され、大型トラックなどの出入りを閉鎖していた駐車場には、既に多くの車が駐車しています。混雑具合からして、ほぼ、従来通りのお客様が買い物をしていると見受けられます。
駐車場を見ると、必ず停まっている車のタイプが「ピックアップトラック」です。5人乗りですが、オープンの荷台があり、アメリカ人が大好きなタイプの車です。
日本ではあまり見かけない車ですが、アメリカでは使い勝手がよいと人気があるのです。彼らは、買い物した品物を自分で持ち帰ります。当たり前と言えば当たり前なのですが、冷蔵庫や洗濯機などの大型家電製品も自分で持ち帰るのです。それがアメリカでは常識であり、誰もが行う生活上の「当たり前」なのです。大きな物を自宅へ持って帰るには、このピップアップトラックが便利だと言うわけです。
大型家電製品だけではありません。机や椅子、ベッドなども持ち帰ります。さらに、ホームセンターへ行けば、とにかく何でも売っています。
写真は、あるホームセンターの「ドア」売り場です。その売り場の前には「窓」が売られています。アメリカ人はD.I.Y.が大好きです。自宅のリフォームを自分で行う人が多いので、ほとんどの家周り用品が手に入ります。自宅リフォームのためのテレビ番組も人気です。「壁をぶち抜いて二つの部屋を一つにする方法」だとか、「ウッドデッキの作り方」など、日曜日には必ずと言って良いほどどこかのチャネルで放映しています。
もちろん、これらの「ドア」や「窓」も、購入したら自分で持ち帰ります。それだけではありません。こうした大型商品を持ち買った後、実際に自宅に据えて見たり、取り付けてみたところ、自分で考えていたイメージと異なり、気に入らなければ、「購入から二か月間の間はいつでも返品可能」なのです。
購入時に受け取ったものすべてを返せば、同等の品物と取り換えてくれるか、または、返金してくれます。いろいろなお店には必ず「返品用の窓口」があり、ここへ自分で返品したい商品の梱包材も含めた「全て」を持ち込めばよいのです。食品を除くほぼすべてのものが、購入から二か月以内であれば、返品可能であることがアメリカ人の常識となっているのです。従って、購入時の梱包資材である段ボールや中に入っている緩衝材、取り扱い説明書やビニール袋に至るまで、きちんととってある人が多いようです。万が一返品するときには必要となりますから、ちゃんと取ってあるのです。
アメリカのクリスマス商戦は、日本でも必ずと言ってよいほど話題になります。どれだけの消費があり、景気が良いとか悪いとかと評論されるわけですが、多くの人が頂いたプレゼントを返品して現金化するとも言われています。一説によると6~70%が返品されるとの話もあります。通常買い物をするとレシートがついてきますが、アメリカのレシートは金額部分だけが切り取れるようになっており、プレゼントなど、品物を差し上げる場合には、この金額部分を切り取って相手に渡します。もらった人は、レシートを見て、どこのお店で買ったかという情報を入手できますので、レシートを含めてそのお店の窓口にもっていけば、現金化できるというわけです。事実を検証していませんので、6~70%が返品されるかどうかは定かではなく、都市伝説の類かも知れませんが十分にあり得る話だと思います。
「常識」の違いとクレームに対する意識の違い
少々場面が変わって、サンタモニカのハーバーに面したレストランで、アイスコーヒーを頂いた時の話です。 アイスコーヒーにストローがついていました。ストローでアイスコーヒーを頂こうとすると一向に口の中に入ってきません。スースーと空気ばかりが口に入ります。どうやら、ストローに穴が開いているようです。そこで、私はウェイターに声をかけ、ストローに穴が開いているから取り換えてくれと頼みました。ウェイターが新しいストローを持ってきてくれたのですが、なんと、またもや穴が開いており、飲むことができません。再度、ウェイターを呼んだところ、「お前はストローがよほど好きなんだな。こうして飲めばよいじゃないか!」と言い、グラスを直接口につけて飲む格好を見せました。そして、なんと、20本ほどのストローの束を持ってきてテーブルの上に置き、「どうぞ!」と言って不機嫌そうに踵を返しました。私たち日本人の常識とは明らかに異なりますよね。私の専門は品質管理なので、ストローの不良品情報を伝えたいという気持ちが働いたのですが、その意志はまったく伝わりませんでした。
食品でない限り、二か月間は返品可能なアメリカの仕組みは、「気に入らないから返品する」と言う状態と、「欠陥があるから返品する」と言う状態を明確に分けることがありません。理由はともあれ、とにかく二か月間は返品出来るわけですから、「欠陥があること」をいちいち伝えることは求められていないようです。返却窓口で「壊れているから・・」と担当者に伝えても、その情報が有効に使われるかどうかは甚だ疑問です。
消費者もクレームに対しては寛容で、「新品はいつでも(二か月間ですが)交換してくれるし、お金も返ってくる。自分で運ぶことは常識だから問題ない」のでしょう。社会環境である「常識」が、目に見えないところで大きく異なるアメリカ社会で、クレームに対する考え方が大きく異なることは容易に想像できます。
一本当たりの単価が安いストローでも同じで、例え一本であっても穴が開いていれば交換可能ですし、返金を求めることも可能です。但し、自分で購入したお店の返却窓口へ持ち込まなければいけませんので、たった数セントの為に、ガソリン代をかけてわざわざ行くかどうかは本人の選択次第と言うことです。「ストローに穴が開いていれば、捨てて他のストローを使えばよいし、安いものであれば、そんなに気に留めることもないだろう」と言う方が、常識的な考えなのでしょう。
その国の(或いは地域の)常識を知らなければ、クレームについて語ることができず、品質についても語ることができないのだと思います。
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