JMAC品質経営研究所だより Vol.20
品質に関する考え方や、モノづくりにおける品質思想を共有することが、
品質に関する文化づくりに寄与する
- 生産・ものづくり・品質
宗 裕二
監査方式による改善活動の推進
品
質コンプライアンス問題が「日本の製造業の信頼を揺るがしている」と言われるようになってしまった。私の仕事の範疇もコンプライアンス問題発生後の信頼回復をご支援する機会が増えたのも確かである。私共を信頼していただき、支援を要請していただくことは大変ありがたいことであるが、決して喜ばしいテーマではない。
信頼回復のご支援をする方法の一つとして、監査方式を使った改善活動の推進がある。不適切な事象を発生させてしまった現場で、原因と思われる状態を仮説として想定し、その仮説を検証する目的で想定した現場で事実を確認する。事実が確認出来れば、立てた仮説は正しかったと理解する。他の職場や他の事業所でも同じような仮説が成り立ち、同様の状態が存在するのではないかと想定できる。
こうした仮説と検証は、一通りではないので、複数存在し、検証した事実を確認するための項目を「監査項目」として設定した「監査項目リスト」を作成することが出来る。そして、そのリストに基づいた監査を実施する。この監査項目は既に検証して「問題あり」と判定された項目であるため、初回の監査では大抵の他職場・事業所では多くの項目で「不適合」となる。不適合だらけのボロボロの状態がスタートラインである。そして、不適合となったことを監査側と被監査側が互いに確認し、期限を切って改善を約束する。
このようにして監査を実施することで、不適切な事象を発生させる原因となる状態の総点検となるし、確実な改善推進ともなる。
監査基準の社内公開がキーポイント
こ
の「監査リスト」は、元々、不適切な事態を二度と発生させないための是正処置として、確実に対策を実施することが出来たことを確認するために作られた。同時に、ステークホルダーに対して、「既に対策実施済であること」をご報告するためにも使用できるものとして使いだしたものである。
しかし、結果としてはそれだけでなく、改善活動の推進にも大きく寄与することが確認できた。つまり、不適切な事象の原因だけでなく、ありたい姿を達成するために必要な課題を「監査リスト」に取り入れ、新たな項目とすることで、ありたい姿を達成するための革新活動の推進の道具と成り得ると言うことである。事実、この方式でご支援しているある企業では、将来の発展に向けた革新活動としてその内容を変化させ、ありたい姿の達成に向けて現在も活動中である。
このような「監査リスト」を使う改善活動の推進方法は、特に新しいものでもなく、当たり前のことなのだろうと思う。しかし、外してはならないいくつかのポイントがあると思う。その一つが、こうした「監査リスト」の公開であろう。
世間様に対して公開するのではなく、監査する側(例えば本社の品質保証部門)と監査される側(例えば事業所)との間で公開状態とすることである。こうした公開によって、何を重点として改善を進めるべきであるか、何を監査されるのかなどがお互いの認識として共有される。
また、どのようなことを期待するのか、期待されるのか、と言った意思疎通の必要性も生み出す。既にこうした方法を取られている企業にとっては、当然のことかも知れないが、その重要性は認識できていることだと思う。
期待することを文章に表現することは意外と難しい。「監査リスト」であるために、表現される文章は短いものである。こうした短い文章で期待することを書き切ることは非常に難しいのだと思う。その短い文章から期待されることを読み取ることも難しい。必然的に監査が実施される前に、監査側と被監査側が緊密なコミュニケーションを取らなければならない。
特に監査を受ける側は、具体的に行動しなければならないので「監査リスト」の内容理解が不可欠である。おのずと「監査リスト」は、抽象的な表現を避け、何を監査されるのか具体的にイメージがつくような書き方も必要となる。同時に、「監査リスト」の内容説明の機会も監査を実施する前に必要となる。
前述の通り、初めてスタートする時点ではボロボロの状態であるが、いつまでのボロボロでは何の意味もない。2回目の監査以降では「合格ライン」に居る状況を作り出したい。何をすれば監査合格ラインになるのか、やるべきことがわかっていなければ駄目である。
品質に対する文化づくりに資する
監
査を良く知る人にとっては、何をいまさら言っているのかと思われるかも知れない。本来の監査は「何事も無く終わって欲しい」存在ではないことを改めて認識しなければならないと思う。使い方ひとつでとても役立つ手法なのだ。監査と言うとISOの認証取得監査を思いこされる方は多いかも知れない。
しかし、認証取得を目的とした監査と、今回述べた改善・改革を目的とした監査とでは大分異なるのだろう。本来のISO認証取得監査も品質マネジメントシステムの向上を目的としたのかも知れないが、品質保証体系を既に構築していた日本では、大きな改善に繋がる内容ではなかったのだと思う。まったく役立たなかったわけではないが、大きな改革とはならないであろう。
しかし、公開された品質マネジメントシステムの基準を確認することで、自社の品質マネジメントシステムの弱点を見つけることは出来たであろうし、「公開された基準」であることの有用性はどなたも理解されていることであろう。
自社の弱点をリスト化した公開された「監査リスト」を、監査側と被監査側が確認しあうことで起こるコミュニケーションには大きな意味があると考えている。弱点だけではない。自社、あるいはグループが目指すべき方向を共有する道具としても有効であろう。品質に関する考え方や、モノづくりにおける品質思想などを共有することは、品質に関する文化づくりに大きく寄与するものであると思う。
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