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起こってからでは遅い、品質問題における「知らなかった」にどう向き合う?

  • 生産・ものづくり

平林 晃一

品質不適切行為が発生する土壌に、品質保証の脆弱さがある

 近年の品質不正による社会的問題化によって、「品質不正の発生を予防する取り組みを行いたい」という組織が増えている。意図的とは見えない品質不正については、緻密な品質保証の取り組みをしているが発生防止ができなかった事案と認識されるため、経営インパクトが大きいケースはあるものの、社会的な問題にはなりにくい。

 一方で意図的に見えるまたは緻密ではないと見えるような品質不正については社会問題化している。特に意図的に見える品質不正については、品質不適切行為というような表現が使われることがある。近年はこの品質不適切行為の事案が次々と報道されており、組織の信頼を揺るがすものであることから、その発生を予防したいという関心がますます高まってきている。

 筆者のコンサルティング経験および見聞から、品質不適切行為が明らかになった組織においては、品質不適切行為を検出できなかった要因として、<品質保証活動の脆弱さがあり、その品質不適切行為以外においても、正しい品質保証活動が確実にできていたとは言いきれないグレーゾーン>があったのではないかと推察している。このような認識から、品質不適切行為を予防するという取り組みをする際は、意図的な違反の防止策と共に、自社の品質保証活動の弱い所を直視して、品質保証活動の見直しを行うことが有効な取り組みになると考えている。

 まずは自社の品質保証活動で脆弱なところがないかを確認することが必要である。

多様な形で表面化する、品質保証活動の脆弱性

 メーカーの品質保証活動が正しく行われているかについては、外部から見ると容易に判断できるものではない。一般に、日本のメーカーはどこも緻密な品質保証活動を当たり前に行っていると認識されている。しかし、品質保証活動の緻密さにはばらつきがあるのが実態である。

 品質保証活動は、考え方(原理原則)に基づき科学的な根拠をもって構築されるものであるが、一般化された取り組みや他社の先進的な取り組みを取り入れて構築することが多い。自社における正しい品質保証活動についての検討が不十分な場合は、一見すると正しい品質保証活動ができているように見えるが、実態は脆弱な状態であることもある。

 さて、筆者は品質保証活動が脆弱か否かについて推察するために次のような項目をよく確認している。

QC工程表は機能しているか?

 例えば、QC工程表はあるが顧客説明用として活用しているのみで自社の製造品質保証の管理に使用していないケースは、一見すると体系的に工程および検査の管理を行っているように見えるが、実際は必要な管理・検査が抜けていることや、反対に過剰な管理・検査を行っている可能性がある。

抜取り検査の根拠は明確であるか?

 例えば、工程能力が十分高いことが証明できていない状態ではないにも関わらず、抜き取り検査で保証しているケースは、一見すると検査で流出防止しているように見えるが、実際は流出可能性がある抜き取り検査となっている可能性がある。

 これらの確認項目は、製造工程の品質保証方式の確立の側面での品質保証活動の脆弱さを確認する内容であるが、もっと全般的な日常管理の側面で、品質保証活動の脆弱さが表に現れてくる分かりやすい確認項目がある。それが「周知不足」による品質不具合の発生である。

日常管理が脆弱になりがちな周知の徹底

 日常管理では、作業者は初めての作業を行う前に標準文書に基づく教育を受けることが基本である。作業の変更があった場合も同様である。言い換えると、初めてまたは変更された作業の手順を標準文書で表し、教育によって周知し、作業を開始するということになる。

 品質保証活動が緻密であると言えるためには、まずは開始時もしくは変更された作業開始前に標準文書に基づく教育が確実に行われているかが問われる。この問いに対して、うやむやな実態を見受けることがある。例えば、標準文書を改訂したことを現場責任者に情報伝達することはできているが、その後の作業者への展開は現場責任者に委ねており、繁忙な現場において確実性が弱いことを見受けることがある。また、作業者が標準文書の改訂内容を確認したことを確実にするために押印またはサインを求めるケースも多いが、煩雑な管理になりがちであり、抜けもれが発生していることを見受けることがある。

 次に、品質不適合の対応として標準文書を改訂する前に暫定的な対応を行う場合に周知が確実に行われているかが問われる。この問いに対しても、うやむやな実態を見受けることがある。例えば、その問題の当事者である作業者に周知ができたとしても、作業者の変更があった場合に、その周知事項が伝達できていない実態を見受けることがある。

 このような周知の取り組みについて、筆者の経験では確実に行われている組織と不確実な組織があると考えている。不確実な組織とは、品質不適合が発生した場合、その要因解析をなぜなぜ分析で行った際、特定された原因に「知らなかった」が慢性的に多い組織である。このような状態は日常管理の側面で品質保証活動が脆弱な状態と考える。

しくみの改善で断ち切る!品質問題の原因「知らなかった」

 周知の取り組み不足はどのような背景があるのであろうか。筆者は周知を確実にするのは人の責任という考え方が背景にあるのではないかと考えている。品質保証を行うためには人の高い意識が必要であり、周知不足は人の意識の面に主な要因があると考え、人の意識向上の取り組みを優先し、周知不足を防止するしくみの改善に焦点をあまり当てなかったというような状況を推測している。

 品質問題の原因に「知らなかった」が慢性的に多い場合は、品質不適切行為の予防対策のための一つとして、周知不足を解消するためのしくみの改善に取り組み、それを断ち切ることが必要と考える。

周知事項管理ツールのご紹介

 周知不足の問題解消について、各社それぞれの状況に応じて、さまざmな工夫をされている。JMACではこれから改善を進める組織のために、周知事項を管理するツールを提供したいと考え、簡便な「周知事項管理システム」の開発に関する支援(監修)を行った。

 JMACのIoT7つ道具に認定しているツールであり、下記に参照先をご案内させていただく。改善の一手段として参考にしていただきたい。
JMAC監修「周知事項管理ツール」

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