第5回 開発・技術マネジメント革新大会
- R&D・技術戦略
日時・場所
大阪大会 2001年6月4日 (千里ライフサイエンスセンター)
東京大会 2001年6月6日 (虎ノ門パストラル)
革新大会 全体レポート
本大会「開発・技術マネジメント革新大会」は本年で第5回目の開催となります。毎回、東京・大阪で300名近くの方々に参加いただく総合的な事例研究・交流の場になってきております。
基本テーマ
今回の大会では21世紀に向けて新たな革新に挑戦している企業のコンサルティング動向や平素の研究活動をふまえ、基本テーマを「価値創造革新に向けて」としました。
● R&Dビジョンの確立と魅力ある商品・事業の育成
・コーポレートテクノストックとコアコンピタンス経営
・R&D活動の新しい役割と6つの価値創造革新
・事業戦略・R&Dビジョン・R&D戦略の再構築
・将来競争力優位を確立するための技術戦略革新
● チャンスを育てる俊敏な事業と開発力の実現
・市場・顧客の変化を先取りする事業構造改革と開発革新
・開発スピードアップとコア技術強化戦略
・事業収益に直結した製品革新マネジメント
・環境配慮型の設計と開発支援環境の整備
● 事業戦略革新の進め方と企業変革能力の強化
・価値創造のための開発組織変革の進め方
・研究開発マネジメントのグローバル化戦略
を掲げ、活動を実践されている企業の方にご依頼し、貴重な講演をしていただきました。
貴重講演
『コーポレートテクノストック・モデル』によるこれからのR&DEマネジメント
-産業競争力強化を目指す次世代イノベーション経営-
北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科 教授 亀岡 秋男氏
基調講演では、『次世代R&D戦略』を大きなテーマに掲げ、「『コーポレートテクノストック・モデル』によるこれからのR&DEマネジメント」というタイトルで、北陸先端科学技術大学院大学教授 亀岡 氏より講演していただきました。
お話しいただきました内容は以下のような項目です。
・ 技術経営(MOT)のパラダイムシフト
・ コーポレートテクノストック・モデル
・ コーポレートテクノストック・モデルからみたR&D生産性の枠組み
・ 米欧の国際競争力の動向
・ 日本の産業技術の国際評価
・ 次世代イノベーションモデルの進展
・ 高度技術知識流通メカニズムとイノベーションプラットフォームの構築
・ テクノプロデューサーの時代
・ 新世紀の理想を目指す“競争力”とは
<全体要約>
1.R&DEマネジメントについて
後の技術経営(MOT)の方向として、「コンセプト創造」、「チームワーク」、「スピード」、「メトリクス」、「メソドロジー」、「R&Dインフラストラクチャー」が挙げられる。さらに、「今後のR&DEマネジメントの方策」として、「コンセプト創造-目標ターゲットを新しく生み出す」、「ストラクチャリング-繋がりを見つけて操る」、「メトリクス-測ることから進歩が始まる」、「メソドロジー(方法論)-自ら道具を創り極める」の4つが考えられる。また、「方法論」の1つとしては、「コーポレートテクノストック・モデル」を挙げている。テクノストック・モデルの特徴は、製品事業全体における技術の流れの中で、中間成果として創出される技術ストックをしっかり考えようというものである。
R&D投資では、投資したものが何倍かに返ってくるようなマネジメントが必要であり、効果的な投資を左右するものの1つが目標コンセプトである。陳腐化という概念と数値シミュレーションにより、どのような投資が効果的かを考えることが必要である。研究開発の生産性を考える時には、研究開発の成果がいくら製品に反映され、利益に結び付くかを考えなければならない。
2.「競争力」について
アメリカでは、競争力強化の「ヤング・レポート」が出て、研究開発に対する考え方が大きく変わった。競争力の定義が、実績(パフォーマンス)、活動インフラ(ポテンシャル)のいずれにしても、そのような基盤の上で企業が活動して早めに手を打ち、競争力を保つべきである。そのような中で、日本は本当の競争戦略をつくる必要がある。具体的に日本の競争力を強めるには、イノベーションエンジン論で提案する4つのエンジンで次世代のイノベーションを進める、戦略ターゲットをしっかり掴むことである。さらに日本の技術経営(MOT)、研究・技術開発のマネジメント力を強くしていくには、研究・技術開発のベンチマーキングが必要ではないかといえる。
3.「次世代イノベーション」をどういうモデルで説明できるか
イノベーション・プロセスは市場の成熟に伴って段階的に発展するといえる。大きくは、<リニアモデル(機能優先)>→<クラインモデル(性能重視)>→<アブダクション(仮説修正モデル:嗜好優先)>→<インタラクティブ>と進むが、途中から突然新しいサイクルが始まり機能競争に戻ることがあるということを理解しておく必要がある。
新製品イノベーションが起きるためには、洗練された高度技術知識の流通機構の整備が重要となる。しかしそれだけではなく、イノベーション創出には、もっと強いコンセプト創造力をもった、新しいタイプの人材、テクノプロデューサーのような人材の育成が重要であり、それをサポートする社会的基盤の整備が強く求められている。
Aセッション
次世代R&D戦略
「事業貢献を高めるための技術戦略と革新展開」
オリンパス光学工業株式会社 常勤顧問 澤村 一郎 氏
Aセッションでは、『次世代R&D戦略』を大きなテーマに掲げ、「事業貢献を高めるための技術戦略と革新展開」というタイトルで、オリンパス光学工業株式会社 常勤顧問 澤村氏より講演していただきました。
お話しいただきました内容は以下のような項目です。
・ 企業環境の変化
・ 企業経営要素
・ 経済環境変化に伴う企業戦略の方向性
・ 経営戦略
・ FOCUS21
・ これからの企業経営
・ 戦略構築
・ 経営戦略(99経営基本計画社長方針)
・ 技術戦略の構成
・ 市場・事業環境分析
・ 自社事業分析
・ 技術マネージメント
・ 技術戦略
・ 活力ある人と組織
・ 技術戦略編成
・ 技術開発計画編成
・ 技術戦略編成プロセス
・ 分野技術戦略
<全体要約>
オリンパス光学工業は、「戦後50年の大きな節目を迎え、歴史の転換点現象が複合的に噴き出している。従って、個々の企業が従来持っている基本的資源を今までとは違う発想で活用することが求められる。具体的には『個々の企業がマーケットの中で独自の戦略によって市場の価値を実現する』という"変化に挑戦する自己改革"を断行すべきである。」との基本的な考えに基づき企業革新に取り組んでいます。そして、この「根本的な再構築・革新」を実践すべく、企業戦略として、「グローバル化した世界経済の中でユニークな商品を開発し、提供し、高付加価値を実現しています。市場価値構造によって、高生産コストを上回る創造性を生み出し、マーケットにおけるNo.1を確保する」ことを明確に打ち出しています。こういった経営の基本方針のもと、企業に明確なグローバルビジョンが必要との認識に至り、「長期に達成したい会社の姿」として「FOCUS21」を策定しました。
FOCUS21は要約すると、
1.経営の基本的考え方 -ソーシャル・インの実現-
2.ソーシャル・インの目指す姿 -価値創造企業-
3.事業展開の基本的考え方 -価値創造企業実現に向けて-
の3つから構成されています。FOCUS21の最大の特徴は経営戦略、特に事業戦略と技術戦略を「同時構想・同時実現」しようとしている点です。これまでの「戦略論」ではまず事業戦略を策定し、その後に技術戦略をつくるパターンが一般的ですが、オリンパスでは「技術戦略策定方針」を明確にするという所謂、技術ビジョンをまず打ち出しました。
技術は事業目標達成のための単なる手段のみならず、企業発展・事業創造の「源」という認識をしています。つまり、事業と技術は企業経営の「両輪」という認識です。
まず、事業戦略については市場・競合・技術動向調査と自社現状調査結果をデータ化し、ポートフォリオ分析、為替レートの売上高に対する開発効率の分析、他社との比較分析シートを活用したライバル比較分析等を行い、事業目標の設定と事業課題の明確化を行いました。
一方、技術戦略の根幹となる基本的な考え方は「事業ニーズに基づく選択と集中」です。その考え方に基づき、新規事業の創成・既存事業拡大のための技術・脅威に対するリスクテイキング先行技術を進めるための「先進技術開発計画」と、差別化と新しい価値を創造する技術を進めるための「基盤技術開発計画」の2つに大別して計画を立案しています。その過程では全社技術マップを多大な労力をかけて構築し、その中から重要技術・優先課題テーマを抽出しました。具体的には「中核技術」(光学技術等)、「先端・基盤技術(実用化に向けての応用技術)」を設定し、投資対象技術の絞り込みを行うとともに、「成果重視」の思想で事業部移管・検証テーマの拡大のための経営資源の再配分を行いました。
そして、「技術移管プロセスの改革」に向けて、研究開発から事業化までの開発サイクル短縮の実践を行っています。加えて、「活力ある人と組織づくり」に向けた成果主義の人事制度、留学制度、学位・資格取得や発明考案に対する奨励制度の拡充を行っています。
また、新製品開発においては、経営・事業構想の実現に向け、「どのようなユーザー・市場に新製品(技術)を提供するか」という観点に立ち、製品コンセプトの設定をまず行い、このコンセプト実現のための「技術の研究開発(段階)から生産(段階)までの全運用過程に対する戦略的・戦術的運用管理」の技術マネジメントを強化しています。要するに、オリンパスは経営戦略を基軸に事業と技術を表裏一体のものとして戦略策定から日々の革新活動までの一貫した経営システムを構築し、そのシステム完成度を日夜高めるマネジメントに取り組んでいます。事業と技術のコンカレント革新が今、求められているということでしょう。
Bセッション
開発設計革新
「俊敏開発マネジメントによる開発戦略革新」
-Agility Motor Centerへの挑戦-
セイコーエプソン株式会社 TP生産技術部 部長 天野 和幸 氏
Bセッションでは、『開発設計革新』を大きなテーマに掲げ、「俊敏開発マネジメントによる開発戦略革新」というタイトルで、セイコーエプソン株式会社 TP生産技術部 部長 天野氏より講演していただきました。
お話しいただきました内容は以下のような項目です。
・ エプソンのプリンタのロードマップ
・ 事業環境・取り組みの背景
・ 活動内容とポイント -活動の枠組み
・ 活動成果と今後の課題
・ 活動成果補足
・ 開発戦略革新に取り組んでみて
<全体要約>
セイコーエプソン(株)TP(ターミナルプリンタ)生産技術部では、売上の伸び悩み、技術力の分散/低下、繁忙状態の恒常化と厳しい状況下にありました。取組み事例は、製品ロードマップ作成とミッション、ビジョン(Agility Motor Center実現)の明確化、更にビジョン実現のために2軸シナリオを作成し、俊敏開発マネジメントを通して開発戦略革新を図ったものです。活動の枠組みは事業構造、組織、製品構造の企画力/組織・チーム力/開発遂行力/技術力の4つの力を強化して行くものです。
活動のポイントは、
1.総合力発揮部門を超えた連携力強化→皆で考え、行動する!その共有化。「見える管理による課題の
共有化、データをもとに話をする」といった皆で考える、徹底して考える環境をつくる等考えることに対する
「タフ」さが重要です。評論家にさせないためにも自分達で作り実施させることです。
2.階層別の取組み→部課長チーム、製品別チームを作って活動に取り組んだのが活動を継続させるポイン
トになり、特に課長クラスがその気になって活動を引っ張ったのが良かった。
3.開発基本コンセプト、自分達のやりたい想い"夢"を仮想/ビジュアルで表現→一部の部署が作った線引
き計画から可視化(写真、図等)し、共有化した計画へ。課題ばらしをして、しっかり計画を作り、自ら作った
ものに対しては、評論家的な行動はできないので本当に内容に関して考えるようになった。
4.全員参加(開発設計者にとらわれず)→開発設計、技術、品質保証、製造(海外現法)全員の活動。
結果として生産の立ち上げ段取り・教育計画まで含めた課題ばらしによって量産段階での問題が発生しな
くなりました。
等である。
活動成果としてミッション"なくてはならない存在"を達成、プリンタの商品開発目標の達成や、モーター標準化による業務効率化の達成が上げられ、開発リードタイム1/2やコスト半減を実現しています。そのほかにも"できない"から"どうやり遂げるか"への意識面の変化や各階層での役割、考え方、行動のランクが上がるなど状態の変化があります。結果成果はプロセス変化があって初めて実現されるもので、やはり基本動作が重要であることは言うまでもありません。
最後に、開発戦略に取り組んでみての所感として
1.明るく元気にやること。 暗くては継続できない。
2.ありたい姿を明確にし、見える状態にして皆がゴールとステージターゲットを共有化することが大切。
3.人は"気付く"ことで大きく成長する。見えにくいものが見えるようになることでの気付き、実際に体験する中からの気付き、グループ・チームで議論している中での気付き等、気付きの重要性が活動として体感できたとのことでした。
Cセッション
組織・人材開発戦略
「増収増益型商品開発事例」
-オムロンにおける光電センサ開発の取り組み-
オムロン株式会社 センサ事業部 川島 一仁 氏(大阪)・中西 弘明 氏(東京)
Cセッションでは、『製品・サービス革新』を大きなテーマに掲げ、「増収増益型商品開発事例」というタイトルで、オムロン株式会社 センサ事業部 川島氏(大阪)、中西氏(東京)より講演していただきました。
お話しいただきました内容は以下のような項目です。
・ センサ事業部の紹介
・ 商品革新活動の体系
・ 商品コンセプト 顧客満足の最大化
・ コンカレント開発
・ 原価企画
・ 取り組み内容
・ シナリオ事例
・ 商品革新 目指した技術
・ 技術革新 基本性能
・ 技術革新 環境への配慮
・ コスト革新
・ 市場把握
<全体要約>
オムロン株式会社では、社憲を「われわれの働きでわれわれの生活を向上しよりよい社会を作りましょう」とし、これを実現する経営の基本精神として「顧客満足の最大化」「たえざるチャレンジ」「株主からの信頼重視」「個人の尊重」「良き企業市民の実践」「倫理性の高い企業活動」の6つを上げています。そして「機械にできることは機械にまかせ、人間は創造的な分野での活動を楽しむべきである」という企業哲学のもとに、社会ニーズや課題を追求し、最適化社会の実現にむけてチャレンジし続けています。
今回、事例紹介頂いたセンサ事業部は、センサ、スイッチ、リレー、表示器、PLCまで豊富な商品ラインナップを揃えている事業体です。事例の対象は「FA用光電センサ」で、FA市場向けの製品なので過酷な使用環境と合理的な価格を要求され、従来からVE活動が継続的に行われています。まさに成熟領域と言える商品を対象にし、従来に比べ約二倍の急速な売上拡大を達成した活動について紹介頂きました。成果としては、性能の倍増、部品点数半減、部品種類数半減、そして売上・収益が倍増されているが、具体的な数値(増収額、原価、性能値)や開発項目については本稿では伏せさせて頂きます。
1.商品革新活動の体系
増収増益を得るには市場ニーズ対応、コスト革新、技術革新の同時実現による製品革新が必要です。商品革新活動を行うにあたって、開発コンセプトを顧客満足の最大化とし「得:コストパフォーマンスの提供」「楽:使いやすさの提供」「優:優れた性能 環境に優しい」に展開、これを根底に「製品・生産技術革新」「市場・顧客のニーズ把握」「コスト革新」の三つとこれを繋ぐ「コンカレント型開発マネジメント」の四つを設定しこの体系下で活動を推進しました。
2.取り組み内容
当初から性能倍増(従来比の検出距離2倍)とコストパフォーマンス提供(従来以下)などがうたわれており高いハードルを超えることを要求されています。これらの目標を達成するには従来のやり方では到達し得ない、つまり習慣を打破することが必要とされます。このため、以下の五つをかかげ徹底しました。
1)スタンス:3つくす
「3つくす」とは、見つくす、考えつくす、やりつくすの三つです。これを行動の基準に置き、市場把握、コスト革新、技術革新にのぞむスタンスとして徹底し、ゼロからの発想を行うことを新しい習慣としました。
また、「3つくす」を自問自答し(本当にやりきったか、もう無いか)次のアクションに移ることでモレの無い課題解決ができました。
2)共通の考え方:顧客視点
市場・顧客のニーズ把握を徹底するということは、顧客視点に立つということです。この活動では参加メンバー全員が顧客訪問を行い、ニーズ把握と製品のコンセプト設定に参加しました。これにより、今までややもすると抽象的にニーズだといわれていたことが、具体的な仕様や数値として展開され、またコンセプト決定に全員が参加したことにより、自分で見て納得して実行することで要求仕様、原価、開発期間などの目標にこだわりが持て、また共通のものさしが持てる様になりました。
3)検討視点:コスト開発
コストは下げるものではなく、新たに開発するものとし、「ゼロから出発 なんでもあり」という高い自由度の視点から検討を加えていきました。特に、これにより従来はあまり行っていなかった「コストの為の先行技術開発」に本格的に取り組むことができました。
4)検討プロセス:ゼロからコストデザイン
発想を転換するために、コスト目標を削減値として置かずに、もらえるコストとして絶対値を設定しました。つまり、もらえるコストの範囲であれば使ってもかまわないということになります。この目標設定に続き、コスト発生要因調査(今のコストになっている前提条件、制約を洗い出す)改革視点(前提条件・制約条件を解除しもらえるコストの範囲におさめる)、シナリオ作成(課題を明確にし、実現する姿を明確にする)を行いました。これにより、全てを必要性から設定でき、難度の高い技術開発や生産技術開発、大幅な工程の変更に対して具体的な課題展開を行い、予め必要な検討やリソースの設定を行い目標の達成にむけた行動計画の展開・実施が可能になりました。
5)フォーメーション:三位一体(設計・生産技術・購買)
コンカレントに開発を行うには、参加者間や部門間での壁を取り除かなければなりません。これはコンカレントという掛け声をかけることでなく、実際に行動をともにすることです。本活動では全員参加での顧客訪問以降~量産までを、共通の目標と共通のものさしを持ち、シナリオを共有することでコンカレント推進をスムーズに行えました。これら五つのポイントを確実に実行することにより、かつて経験したことの無いような高いハードルであっても達成できる方策展開ができます。オムロンではこれを総じて「勝利の方程式」と呼び新しい習慣として定着させています。
Dセッション
環境配慮設計と開発革新
「環境配慮設計への取り組み」
-富士通における製品適用事例-
富士通株式会社 生産システム本部 実装テクノロジ統括部CAE技術開発部 課長 酒井 晃 氏
Dセッションでは、『環境配慮設計と開発革新』を大きなテーマに掲げ、「環境配慮設計への取り組み」というタイトルで、富士通株式会社 生産システム本部 実装テクノロジ統括部CAE技術開発部 課長 酒井氏より講演していただきました。
お話しいただきました内容は以下のような項目です。
・ 製品開発手法
・ 当社をとリンク法規制、業界自主基準
・ 当社の環境への取り組み
・ 当社のグリーン製品評価手法
・ LCAの技術
・ リターナブル包装材の開発
・ 製品開発への環境対応影響度
・ 製品開発の環境対応ポイント
・ 設計の適用ステージ
・ 3D設計の評価例
・ ノートPCの解体性評価
・ グリーン調達データベースの構築
・ リサイクル率と有害物質含有の評価例
・ 環境ラベルの算出の仕組み
・ システム作成による効果
・ 今後の適用
<全体要約>
1.富士通の環境への取り組み
富士通では、経営会議(主宰:社長)の下に環境本部を設け、環境担当役員統括の環境対策委員会を組織化 する等、全社的推進体制を構築するとともに、環境行動計画を策定し、連結対象の204社を含むグループ全体で、環境対応に取り組んでいます。
2.製品開発関連の環境への取り組み
特に、動脈系の取り組みとしては、以下の項目を推進しています。
(1)製品開発・設計段階における環境対応
a.グリーン製品の開発推進
b.LCA(ライフサイクルアセスメント)技術の導入
c.リサイクルを考慮した包装技術の開発
d.有害物質の使用自主抑制
(2)グリーン調達の推進
3.製品開発への環境対応の考え方
環境配慮型(環境負荷の少ない)製品を開発するにあたり、"開発・設計の早い段階から対応すること"と"できる限り、設計者の工数負荷を少なくすること"が重要と考えます。そこで、富士通では、"何でもかんでもやるのではなく、できるものからやる"という考え方に基づき、以下のような施策を講じています。
(1) 評価ツールの簡素化・標準化(LCA評価、解体性評価等)
(2)データベース化(環境負荷DB、グリーン購入DB等)
その結果、"製品機能設計と同時期に、しかも少ない工数で評価できる"設計環境を実現しています。具体的には、3D-CADで、スピーディにかつ実用的に使用できる評価ツールを自社開発し、設計DR時に適用しています。
4.ノートPCへの適用事例
新型ノートPCの開発にあたり、この評価ツールを適用し、LCA評価(環境負荷試算等)、解体性評価(解体シミュレーション、解体時間算出等)を実施した結果、たとえば、LCA評価では、評価工数だけでなく、解体指示書の作成工数等で、大幅な低減効果(△80%以上)を得ました。
5.今後の適用に向けて
評価ツールとして解決すべき課題は、以下のとおりです。
(1) 再生コスト、廃棄コスト等の環境コストへの対応
(2) 解体手段が異なる他業種製品への対応
(3) 化学物質の算出・調査仕様の共通化への対応(グリーン購入DB)
(4) 業界の標準化に準拠した環境ラベルへの対応
6.まとめ
環境対応(環境配慮設計)は、地球環境負荷低減のため、もはや、やらなければいけない状況にあると認識しています。そこで、どうせやるなら"早くやった方が勝ち!"だと思います。企業として、早期に環境対応へのガイドラインを策定し、推進体制を整え、ツール開発等のしくみづくり(システム化)を行うべきだと思います。ただし、どこまでやるかについては、"初めから完璧を追究せず、できることからやり、しかも負荷をかけないやり方でやる"のが肝要かと思います。
Eセッション
Delight Companyと事業戦略革新
「DaWaによるドイツ企業変革への取り組み」
-Making Company Changes Durable-
International Management & Innovation Group GmbH Dr.Matthias Hartmann
Eセッションでは、『Delight Companyと事業戦略革新』を大きなテーマに掲げ、「DaWaによるドイツ企業変革への取り組み」というタイトルで、International Management & Innovation Group GmbH のDr.Matthias Hartmannより講演していただきました。
お話しいただきました内容は以下のような項目です。
・ IMIGグループの紹介
・ ダワ・プロジェクト
・ デザイン・フィールド
・ スターティング・ポジション
・ パラダイムの変化
・ 収益をもたらす成長のビジョン
・ 製造企業に求められるものは増えている!
・ 自己変革能力と混乱予測制御能力の度合い
・ 変革が可能な企業とは
・ 永続性のある自己変革能力のモデル
・ 差別化
・ 新たな組織構造
・ 製品バラエティ曲線の変化
・ コア・コンピタンス
・ ダワ・ベンチマーク・スタディ
・ 評価の対象分野
・ EVAとMVAの増加
<全体要約>
1.IMIGグループ紹介
50名の高い資質を持った従業員が、企業に利益をもたらす成長のパートナーとして、「リソースをベースとした事業戦略」「統合イノベーション・マネジメント」「工場及びレイアウトプランニング」「情報技術、ソフトウェア・ソリューション」等のテーマに取り組んでいます。
当社の理念は、我々を取り巻く環境の中で唯一変わらないものは"変化するということである"と言う考え方をベースとした「企業の変革能力と成長戦略」であり、組織(原動力)、技術(統合)、製品(可変要素)、人(モチベーション)から構成される。IMIGの中心的な活動領域は、”Consulting””Services””Products”である。
2.ダワ・プロジェクトの紹介
(1) ダワ・プロジェクトの概要
・ ドイツ産業を強化するための応用研究プログラム"Manufacturing of the future"における"leading edge
character"を推進するキープロジェクトの一つとしてドイツ政府からスポンサーとして支援を受けている。
・ フラクタル・アプローチとDYNAPRO理論に基づいたものである。
・ 製造業のパートナーとイノベーション・パートナーを結ぶ卓越したネットワークとしてデザインされている。
・ IMIGはパートナー間のコーディネーターとして推進している。
(2) ダワ・プロジェクトの目的
・ 企業に永続性のある変革を可能にする変化に対する従業員に必要不可欠な能力の開発。
・ 永続性のある変革能力の戦略的差別化。
・ 製品とプロセスにおける可変要素の効率的な展開。
・ 効率的な製品イノベーションによる持続可能な経済成長の実現。
(3) デザイン・フィールド
・ イノベーションと効率化
・ "イノベーション・ロードマップ"、イノベーションにおける柔軟性、継続的なマルチ・プロジェクト・マネジメント、
変革に対するコンピタンス
・ 製品とプロセスのフィールド -可変要素の効率的創造、製品プログラム評価、"顧客から顧客へ"のプロセス、
市場における積極的な姿勢
・人財と知識のフィールド -学習フィールドとしての企業、内省的経験、変革に対するコンピタンス
・ 戦略と構造のフィールド -潜在能力とリソースに基づく学習戦略、構造、プロセス、そしてモジュール、自己
組織、市場における積極的な態度
(4) 変革が可能な企業とは?
・ 目的志向…顧客サポートにおいてビジネス上の目標をコミュニケーションする
・ 透明性……プロセス(決定と実行)全体における透明性と情報の流れ
・ 一貫性……実施、責任、及び権限の一貫性
・ 活動の余裕…職務記述書の代わりに活動する余裕を
・ 変革向きコンピタンス…前提条件と変革への準備の確保
・ パフォーマンス志向…パフォーマンスは成果をあげねばならず、尊敬と評価の対象とならねばならない
・ 柔軟性…組織の業務に一致した技術的インフラと人材リソース
(5) ダワ・プロジェクトは何が新しいのか?
・ 永続性のある変革に対する能力を獲得する自己能力から開始し、定着された設計フィールドで体系的に作用
する。
・ 潜在能力の利用と利用可能なリソースの間のダイナミックなバランスを実現するための学習戦略を構築する。
・ 実行可能な"イノベーション・ロードマップ"を効率的なイノベーション・プロセスの基本コンセプトとして構築
する。
・ 企業、特に定義された市場セグメントにおいて意図的な混乱を発生させることにより市場に対して積極的に
影響もたらすスターティング・ポイント。
・ 実用テスト、及びプロジェクトへの平行移動。
(6)ダワ・プロジェクトの方法と手段
・ イノベーション・マネジメント→イノベーションと効率化のフィールド
・ プロジェクト・マネジメント→イノベーションと効率化のフィールド
・ナレッジ・マネジメント→イノベーションと効率化のフィールド人財と知識のフィールド
・シナリオ・マネジメント→戦略と構造のフィールド
・自信の製品を分析評価する方法→製品とプロセスのフィールド
・従業員のマネジメントと適応力の判断→人財と知識のフィールド
・マーケット・リサーチ→戦略と構造のフィールド
・企業戦略の開発→戦略と知識のフィールド
Gセッション
研究開発の国際化マネジメント
「市場のグローバル化と戦略的研究開発」
日本大学大学院 グローバルビジネス研究科 教授 菅澤 喜男 氏
Gセッションでは、『研究開発の国際化マネジメント』を大きなテーマに掲げ、「市場のグローバル化と戦略的研究開発」というタイトルで、日本大学大学院 教授 菅澤氏より講演していただきました。
お話しいただきました内容は以下のような項目です。
・ 理想と現実
・ 技術移転とアウト・ソーシング
・ 最近の競争から学ぶ
・ 失われる日本企業の競争優位性とコア・コンピタンス
・ 1970年代にゼロックスが直面したバリアー
・ どのようにしてキヤノンは新たなビジネスに参入するためのリスクをマネイジしたか
・ マーケットでの競争要因
・ 技術的なインパクトを評価するためのガイダンス
・ 技術開発でのアウト・ソーシングが必要な背景
・ テクノロジー・マネジメントの重要性とアウト・ソーシング
<全体要約>
開発期間短縮、コア・コンピタンス創造、イノベーションマネジメントの推進といった経営からの要請課題がある中で、技術開発におけるアウトソーシングの必要性が高まっている。技術マネジメントの観点からはアウトソーシング促進とコア・コンピタンス創造の両面を追求するマネジメントが求められていると言える。コア・コンピタンスによる競争優位の研究に基づき、アウトソーシングを成功に導くマネジメント論の紹介がなされた。
(1) 最近の競争から学ぶこと
情報化による産業構造の変化は、事業における競争優位の要件を変えてきた。日本大学の客員教授であるJohn Stopford氏は、グローバルな社会あるいはグローバルな経済の中での競争の考え方について下記のようなことを提言されている。
・資源の豊かさや財政力があるということより、研ぎ澄まされた明快な戦略が重要となる
・新規市場であること、強力なライバルがいることは、決してリスクとは言えない
・新たに創出される市場は、従来の技術や市場の範囲を超越した見る目が求められる
・プロダクトを中心とした競争力ではなくなり、コア・コンピタンスの競争となる
(2) 失われつつある日本の競争優位性とコア・コンピタンス
ビジネススクールにおけるケーススタディーの題材として、最近は日本企業が取り上げられるケースは殆どなくなってきた。日本の競争力低下を示す一現象でもある。
・これまで日本が優れていた「低コスト」「高品質」なモノつくり技術は、米国企業のベンチマークの対象となり、学ばれ、吸収され、その差はなくなった
・最近ではコア・コンピタンスに関するケーススタディーが増えているが、日本の企業で過去に取り上げられたのはソニーのウォークマンの新製品開発技術であり、比較的最近では花王がP&Gとの戦いということで題材とされているくらいである
(3) 事例研究―キヤノンの競争戦略
キヤノンとゼロックスの競争で、キヤノンは後発でありながら、勝者となった。キヤノンが新たなビジネスに参入するためにとった技術的リスクマネジメントの中で、可能な限りの模倣、ライバルのパテントの徹底研究、ゴールの絞込みとともにコア・コンピタンスをベースにした製品開発が重要な要素であった
(4) 技術のインパクト評価の重要性と評価手法の開発
コア・コンピタンスで自分の技術の競争力を評価するとか、ベンチマーキングして強み弱みを比較するということはなされているが、アウトソーシングの際に問題となるのが、技術的なインパクト評価である。スイスのビジネススクールのIMDと一緒に研究を進めているCTI(Competitive Technology Intelligence)はインパクトを評価する手法である。CTIは以下のステップで進められる。
1)目的遂行のために重要な手段として、特質・特性に影響を与えるかもしれない技術を明確にする
2)重要性がもつ性質・特性を維持または改善するための技術的な可能性についてのランクあるいはレベルを明確にする
3)競争のためのインパクトを決定する(BASE、KEY、PACING、Exploratory)
4)競争相手を比較するためにベンチマーキングを利用する
(5) 戦略的なアウトソーシングのすすめ
・技術移転とは、レディメイドの技術を提供者から利用者へ移すプロセスである。アウトソーシングは、R&Dの成果技術の利用者が提供者に、技術のカスタムメイドを委託し、調達するプロセスである。
・技術開発には、開発期間短縮、コア・コンピタンスの創造、イノベーションマネジメントといったことが求められており、アウトソーシングが有効である
・アウトソーシングを進める上で考慮しておく点は、外に出した自社の技術力を元に戻すことは難しい、開発者の自己完結型意識をどう乗り越えられるか、開発内容の流出といったことである
・アウトソーシングを成功させるには、自社の業界での存在位置が見極められている、指導的な地位を確保できる、アウトソーシングを管理する組織・体制がある、競争環境と技術動向に敏感に反応する組織・体制があることが重要
「R&Dの国際化」
Fujifilm Software California Inc. President. 高島 武和 氏
Gセッションでは、『研究開発の国際化マネジメント』を大きなテーマに掲げ、「R&Dの国際化」というタイトルで、Fujifilm Software California Inc.の高島氏より講演していただきました。
お話しいただきました内容は以下のような項目です。
・ R&Dマネジメント革新の考え方
・ 革新活動の展開
・ 必然性マネジメント
・ 源流型開発をめざして
・ 革新活動のレビュー
・ 活動結果の考察
・ 英国のR&Dマネジメントに学ぶこと
・ 効果的な協働開発を実現するには
・ 今後の国際的な協働開発の重要性と課題
<全体要約>
富士写真フイルムの開発部門におけるマネジメント革新活動の経験に基づき、赴任先の英国の関係会社で取組まれた5年間の改革活動の内容の紹介である。日常のマネジメント実践から得られた経験だけではなく、改革活動を仕掛けたことにより鮮明になった文化、教育、技術者のマインド、開発組織の日英の違いとその本質の分析は、手触り感があり、かつR&Dマネジメントの核心に関するものである。
(1)R&Dマネジメント革新の着眼と実践
開発マネジメント革新を「あたりまえ革新」と位置づけし、研究開発者が普段の実力を発揮すればよい開発ができると構想し、設計基準、設計ツール、部品技術、ネットワーク等の基盤整備と設計プロセスマネジメントやコストマネジメントについてダイレクトな支援活動を3年行い、開発期間短縮を実現した。
・プロセスの整流化として、曖昧ゾーンへの積極的介入により、技術のブレークスルーを図る
・要素開発から、企画、システム、設計、評価、量試における「基盤技術」の構築
・仮想カタログやQマップ、Cマップ、事前評価計画などによる見える管理
(2) 国の会社におけるR&Dマネジメント改革の推進
国内の3年間にわたる改革活動の経験を踏まえて、英国の赴任先にてR&D改革活動を5年間にわたって実践。成功したかそうでないかには共通性がある。うまくいったケースは2つあり、一つはコンセプト作成が重要な商品企画、二つ目はツール導入であり、ほとんど担当者の手間がかからないのである。うまくいかないのは、ターゲットに曖昧性があり、自らが課題を発掘し、解決のシナリオを描くようなことを行う改善行為である。日本とは大きな違いがある。
・商品企画革新、PDM導入、3D-CAD導入、解析技術力向上・・・成功
・プロセスマネジメント改革、ロバストネス設計、コストダウン・・・うまく行かず
(3)改革活動からの考察
通常のマネジメントの実践ではなく、改革活動を仕掛けることにより、英国人の考え方や行動の違いが見えてきた。これらのことを前提としたマネジメントが重要と考えられる。
・Culture Difference。英国人は完璧に「BusinessとPrivate」「SocialとPersonal」を使い分ける
・CorrectとIncorrect。「Individual & Independence」というのが価値基準であり、全体の動きに安易に
は同調しない
・Continuous Improvement。英国では継続した活動は苦手。Reset、Start again、Not invented Here
となる
・Product Oriented Management。私は財務です、私はProduct Managementです、という定義で
Market valueがありmobilityが高く、いくらでも動ける。製品知識や技術よりも優先する。
(4) 開発へ向けて
1)コミュニケーションギャップを埋める
Communication Gapを埋めるには、効果的なことをやるというときに、やはり1人ひとりが実力を持っているかということが、かなり問われる。また、Country CultureとCo-Operate Cultureというのを、本当に分けて議論しないと混乱する。
2)組織的機能のGapを埋める
SpecialistとProfessionalの差をどうするかである。縦割りのSpecialistは沢山いるが、Professionalは数えるほどである。問題があるとマネージャーを増やそうとする。またImplementは苦手。これらを補完するか音が重要となる。
3)曖昧領域のマネジメントをサポートする
成果をレポートできない仕事はやりたがらない。曖昧領域の処置は日本人にしかできない。曖昧な状態の中から解を見出し、ボトムアップするというのは向こうの文化にはない。
(5)まとめとして
これから国際的な協働開発をやろうというときに、やはりAllianceとか連合とか連結が重要になる。その中で、日本人のリーダーシップをどうするかの議論があるが、いろいろなGapを埋めていくエネルギーと、どうしてもやらなくてはいけないという胆力が求められる。英語力ではない。インターネットだけでは無理で、やはりFace-to‐Faceでお互いの腹を割る、ということを必ずやらないとうまくいかない。一方で、コンセプト構築力を日本人がどう作っていくか、Shared Leadershipのチームワークをどう実現していくか、というのは非常に大きな課題であろう。
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