TIS株式会社
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「技術KI」を“re:Born”させて新時代へ
最近ではテレビCMでも目にするようになった国内大手のシステムインテグレーターのTIS株式会社(以下、TIS)。
会社単体で約5,500人の従業員が働くTISが、コロナ禍に直面して浮き彫りになった課題と、その解決策の導入に至った経緯を探る。
TISの課題
リモート化のコミュニケーション/VUCA時代における個人の成長/技術KIのさらなる展開
コロナ禍によって舞い込んだ幾多の課題の解決に向けて
創業は1971年。大阪市東区(現・中央区)にソフトウェア開発サービスを展開する会社として設立された。当時の社名は「株式会社東洋情報システム」。この社名の英語表記「Toyo Information System」の3語の頭文字を取って、2001年に「TIS株式会社」に変更し、その後国内外で事業を拡大してきた。
現在では東京、名古屋、大阪に本社やオフィス、福岡に支社を構え、グループ全体では60社以上、約2万人が働く一大グループ企業に発展したが、そんなTISにも“コロナ禍”が猛威をふるうことになる。品質革新本部エンハンスメント革新部の松崎美保さんはこう振り返る。
▲品質革新本部 エンハンスメント革新部 松崎 美保さん
「最初の緊急事態宣言が発出されたのをきっかけに、2020年3月に全員在宅勤務をするように命じられました。それ以前から会社として働き方改革に取り組んでいて、リモートワークも導入されてはいましたが、このコロナ禍で急速にリモート化が進みましたね」
東京2020オリンピック・パラリンピック大会に向けての訓練としてリモートワークはすでに導入されてはいたものの、基本は出社しての勤務だった。
「チームで業務することが多いので、リモート化によって、お互いの表情が見えなくなること、コミュニケーションの機会が少なくなることによるメンバーの孤立や疎外感を懸念しました。このコロナ禍におけるリモートワークでも、コミュニケーションをきちんと取って、チーム力の向上につなげたい。このリモートワークがいつまで続くかわからない中で、少しでも互いの表情や信条が見えるようにしたい。VUCAの時代と言われるようになって、一人ひとりの力がより大事になってきており、個々の力も伸ばしていきたい――そのような考えに至り、取り組みを始めることにしました」と松崎さんは言う。
KEY WORD① VUCA
「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った造語で、将来の予測が困難な状況を示す。「VUCA時代」と称されることも。
取り組みを始めるうえで着目したのが、TISが1995年ごろから全社導入した「技術KI(Knowledge Intensive Staff Innovation Plan:知識集約型スタッフの生産性向上)」だった。松崎さんはさらに続けた。
「20年以上展開し続けてきた技術KIが根付いていたので、この技術KIをベースにした取り組みを展開することになりました。その検討過程で『re:Born KI』というネーミングが誕生しました。2020年5月に緊急事態宣言が解除されて、コロナ禍が落ち着きを見せ始めたものの、コロナ禍の長期化を見据えて『この取り組みは続けた方がいい 』という話になって、JMACさんに声をかけさせていただきました」
こうして、JMACのサポートによるTISの「re:Born KI」が本格始動した。
“新たな取り組みの拡大”を後押しした社長の一声
前述のとおり、「re:Born KI」検討開始の背景には、コロナ禍による急速なリモート化によって、従業員が孤立感や疎外感を抱くのではないか、生産性や品質が低下しないかという懸念があった(下図参照)。
「re:Born KI」検討開始の背景
「今のメンバーであれば、これまでの関係性があるので何とかなりそうだが、4月に新入社員が入って、このままコロナ禍が進むとまずい状況になるのではないか、という先を見据えた危機感をもっていました。通常の出社勤務であれば自ずと見えてくる表情や会話も、リモートになるとなかなか見えてこない。あえて見えるようにしようと工夫をしていたものの、いざ問題が発生した時に気づけなくなる不安もありました。そんなマインド(心理)の面にフォーカスして、見えないところ(マインドも)見えるようにして、チームのみんなで共通認識化して、見えなかった部分を変えていく。そして、いつでもどこでもチーム力を発揮できるような組織風土をつくっていこうと考えました」と松崎さんは解説する。
「最高のチームをめざす」というTISインテックグループの方針のもと、これまでとは違った環境下でもチームとして明るく、 すっきり、スムーズにプロジェクトを推進できる仕組みづくりをめざすこととした。
2020年9月にJMACと契約締結した時点で、すでに現場で取り組みを実践しているチームがあったことから、まずはそのチームを取材。その結果を実践事例としてまとめ、新たに取り組みを始めようとするチームに紹介していった。
▲クレジットSaaSユニットのオンラインミーティング。打ち合わせの最後にはみんな「バイバイ〜」と手を振る。これも関係性を良くする一つの工夫だそう。
当然ながら、仕組みづくりの答えは一つではない。同じTISに所属する部署やチームといえど、その中にいる従業員も、抱えている案件や課題も異なるため、部署やチームごとに最適な仕組みを構築することが必要だった。
たとえば、チームのめざす姿や状況を技術KIの手法をベースに確認できる「チーム状況確認シート」や、現在のチーム状況を俯瞰的に確認できる「チームレベルアップシート」を作成して、毎月振り返りを実施。 それによって、チームの現状や目標を全員で認識できるようにしたケースもある。
そんななかで今年、大きな追い風が社内に吹いた。
これまでは、過去に技術KIに取り組んだ経験のあるチームや「re:Born KI」に対して興味を示すチームを中心に導入支援をしてきたが、全社的な風土として「re:Born KI」を定着させたいという思いで「それ以外のチームにも広く届けていこう」と、次の段階に踏み出す作戦を考えている矢先のことだった。
岡本安史社長から「re:Born KI」を全社に導入するようにとのメッセージが出されたのだ。「re:Born KI」の価値に強く共感してのことだった。
「驚きましたがうれしかったですね。なんていいタイミングだ!と思いました」と松崎さんは言う。
松崎さんとともにこの取り組みを推進する川野いずみさんも、この4月に現場から品質革新本部エンハンスメント革新部に異動してきた。
▲品質革新本部 エンハンスメント革新部 川野 いずみさん
「この『re:Born KI』の取り組みを会社全体に広めたいという思いで、異動しました。現場で働く仲間の声に常に耳を傾け、取り組みに反映することを大切にしています」と川野さんは言う。
しかし、エンハンスメント革新部で「re:Born KI」を推進するのは、川野さんと松崎さんを含めて数人しかいない。
そのため、JMACも定例ミーティングに参加し、伴走支援をしている。
「人数が決して多くない中でも効果的に推進していけるのは、JMACさんの存在が大きいですね。時に同じ目線で寄り添いながら、時に第三者的な立場であるべき姿を示しながら、議論をサポートいただけているので助かっています。」と川野さんは言う。
心理的安全性の醸成も「re:Born KI」全社展開のカギ
「re:Born KI」を導入したチームからは「チームの仲間と、時間を取って話ができてよかった」という声が聞かれるという。従来の出社勤務であれば、幾度となく顔を合わせて他愛もない話をする。そのこと自体がリモート化によってなくなっていたのだ。川野さんはこう話す。
「顔を合わせて話すことで安心感や相互理解につながっていたんですよね。朝会などの定期的なミーティング以外に、コミュニケーションの機会を設ける。それによって互いに興味、関心をもつことにつながるし、協力も進みます。さらに、些細な会話から問題を見つけてミスの防止につなげることもできますね。こういうチーム状態が、心理的安全性が高い状態と言えると思います。この心理的安全性がこれからの時代に重要な要素になってくると思います。」
KEY WORD② 心理的安全性
組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のこと。組織行動学を研究するアメリカの学者エイミー・C・エドモンドソンが1999年に提唱した。
心理的安全性の醸成に向けて、先ほど述べていた「現場で働く仲間の声に耳を傾ける」なかでも、メンバーの本音を引き出すようにしているとも、川野さんは話していた。
「re:Born KI」の全社展開ははじまったばかりだ。川野さんは今後に向けて、「自分の気持ちや考えを、まず言ってみる。それが進化の第一歩だと感じています。その“場”をいかにつくれるかが重要だと思います。一つでも多くのチームがその“場”を自分たちでつくれるようにサポートしていきたいです」と話す。
松崎さんは「この『re:Born KI』が何のための取り組みなのかを知ってもらうことが大事だと思います。まずはチームの状況やニーズを確認しながら、対話をして、小さなところからでも取り組み始めてもらえるように推進していきたいです」と抱負を語った。
TISインテックグループでは、心理的安全性の醸成をベースとした各種チーム力向上の取り組みをkaika(開花、開化)と名付けている。一人ひとりがあたりまえのように意思と意見を出し合い、これまでにない成果をあげ続けられる”最高のチーム”づくりを目指す。
グループ全体が、そんな“最高のチーム”でいっぱいになることを願いつつ、「re:Born KI」の今後の展開に期待したい。
▲松崎さん(左)と川野さん
担当コンサルタントからのひと言
長年、技術KIに取り組まれてきたTISさんは、事業環境の変化に応じて、技術KIの意味合いを捉え直し、単なるツールではなく“自分たちの当たり前の働き方”として、常に進化し続けています。新たに「re:Born KI」の7つのチーム力を定義し、現場目線の実践ガイドブックをつくったり、チームの課題に応じてきめ細やかな支援をしたりするなど、推進メンバーの徹底した現場目線のフォローアップによって現在進行形で全社に拡がりを見せています。今後は、取り組みに共感してくれた仲間とともに、新たな働き方の文化をアップデートしていきます。
仁木恵理(JMACチーフ・コンサルタント)
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