新価値創造マネジメントの新潮流
第1回 研究開発部門は新しい価値を生み出しているか
高橋 儀光
企業が持続的に成長するためには、常に新しい社会・顧客価値を創造し続ける必要があります。本コラムでは、この新価値創造のマネジメントが、従来までのオーソドックスなマーケティング理論やMOT(技術経営)論だけでは、通用しなくなっている状況について考察し、今後のR&Dのマネジメント変革のヒントを述べていきたいと思います。
第1回となる今回は、国内企業向けのアンケートによる実態調査の結果から、研究開発部門を取り巻くマクロ環境について考察します。
「第8回 新たな価値創りに関する実態調査」を実施
「新たな価値創りに関する実態調査」は、日本の研究開発現場の実態と事業貢献のための取組みの実態を把握するため、約670社の研究開発部門を対象とし、2015年7月〜10月31日までに回答のあった149件の質問票について集計・分析を行ったものです。本調査は1994年から隔年で実施し、2013年に実施した「第7回 新たな価値創りに関するアンケート調査」に続くもので、過去の分析結果との比較・考察も含めて、今後の企業における新価値創造に対する新たな視点を提供することを目的としています。
回答企業の構成は下表のとおりです。比較的大企業を中心に、さまざまな業種から回答を得ています。
機能・性能開発をすればするほど付加価値を創出できなくなる実態
1994年の第1回調査から20年間にわたり、企業の新商品の売上高や粗利率、生産量、コスト、市場価格、機能・性能を調査してきました。1990年の水準を100として、各値を補正したものが以下のグラフです(下図)。
このグラフから、2015年の機能・性能は、1990年の水準の2倍以上となっている一方で、2015年の市場価格は1990年の水準に比べて、半分以下にまで減少していることがわかります。
ここから読み取れるのは、開発リソースを投入して機能・性能を上げても、それが販売価格、すなわちお客様への付加価値に転化できていないという状況です。厳しい見方をすれば、むしろ商品開発をすればするほど、市場競争を激化させ、市場価格の下落を加速させる悪循環に陥っているのです。機能・性能向上と市場価格とのギャップは、調査のたびにますます拡大する傾向にあります。
もう1つ、研究開発部門の置かれている厳しい現実を示すデータを紹介します。自社の新商品開発における研究開発部門の貢献度についての調査項目を、2009年、2012年、2015年で比較してみました(下図)。
これによると、研究開発部門の開発成果で商品の競争力が向上したと考える企業の比率は、51%から42%、さらには33%と、調査のたびに低下しており、企業内における研究開発部門のプレゼンスの低下が懸念される状況です。
コンサルティングの現場でも、経営幹部の方と意見交換しておりますと、研究所をプロフィットセンターとして独立法人化する、もしくは本社スタッフ部門から切り離して、事業部に編入するといった動きも加速しているように感じます。
新価値創造において研究開発部門が果たすべき役割は依然として大きい
このように、研究開発部門に対する社内プレッシャーが増しているのは確かですが、それは研究開発部門が企業内に必要でなくなっているかというと、決してそうではありません。従来から変わらず、企業の新価値創造の起点となるのはR&D部門です。それを裏付けるデータとして、自社の商品力の競争力についての質問で、「市場・業界においてトップ水準である(ダントツ商品)」と回答した企業を商品力(高)の企業群とし、それ以外を商品力(低)の企業群として、研究開発部門の役割発揮度合いを検証したグラフを以下に示します(下図)。
商品力が高い企業群は、商品力が低い企業群と比較して、明らかに研究会開発部門で開発された技術の採用比率が高くなっていることがわかります。この傾向は過去の3回の調査でもまったく同様であり、厳しいプレッシャーの中でも研究開発部門が役割発揮している企業は、強い新商品を生み出しています。
従来からの王道の研究開発マネジメントでは通用しない時代へ
なかなか研究開発部門が思うように役割を発揮できていない企業が増えているのは、研究開発部門のマネジメントを怠る企業が増えているからでしょうか。詳細は割愛しますが、マーケティングや技術開発の取組み状況を調査した項目からは、むしろマーケットインでの市場調査・商品企画や、中長期を見越した技術ロードマップ策定による先行技術開発など、従来のMOT(技術経営)の王道のマネジメントにしっかりと取り組む企業は、過去の調査結果よりも確実に増えており、8割方の企業はしっかりとマネジメントを実践しています。
となりますと、従来までのMOT論だけでは、成果の創出が難しくなっているというのが実態といえます。もはやマネジメントのあり方を根本的に見直す必要があるのではないでしょうか。
次回以降、これまで多くの企業で新事業開発をコンサルティング支援してきた経験も踏まえながら、新価値創造のマネジメントの新潮流について述べていきます。
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