今から「働き方」の話をしよう
第3回 「働き方改革」をはばむ課題
田中 良憲
前回は、オフィスワークの生産性向上を図る2つの方向性を取り上げた。
1つは、以前より取り組んできた「ビジネスプロセス改革」。仕事手順の見直し、情報システムによる自動化・簡略化や、アウトソーシングも含めた内外作化により、プロセスQCD(品質・コスト・納期)の水準を向上し、工数低減や作業リードタイムの短縮を目的とする。
もう1つは「働き方改革」。仕事の見える化、コミュニケーションをより良いものにすることで、「長時間勤務の解消・ワーク・ライフバランスの実現」「柔軟な働き方実現による労働力の確保」「女性活用も含めたダイバーシティ実現」などを目的とする。
両者とも顧客満足度や競争力の向上といった企業成果の獲得を最終目的としていることには変わらない。
今回は、最近企業で注目されつつある「働き方改革」に取り組む際の課題について述べる。
「働き方改革」の4つの課題
【課題-1】
そもそも「ワーク・ライフバランス」「ダイバーシティ」といった新しい取組みテーマについて、その成果に疑念を持たれている、認識していない点にある。経営トップ、社員に関わらず、目的が共感されない限り、働き方改革の着手にすら至らないという大きな課題がある。
【課題-2】
目的浸透の難しさである。社員それぞれが「自分自身の成果向上イメージ」を持っているため、それら認識ギャップを解消し、目的や目標を理解・浸透させることは難しい。とくに社員数や拠点数が多い大企業は対象が多いため、なおのことギャップ解消が難しくなっている。
【課題-3】
目的達成のための方法論の選択である。「働き方」とは「働く方式」「働くふるまい」であり、それを変えることは「ふるまいを変える」ことに他ならない。では「ふるまいを変える」にはどうしたらよいのか? ビジネスプロセス改革のようなはっきりしたメソドロジーは体系化されていないと考えている。
【課題-4】
目的達成後の評価の仕組みである。仮に改革活動の結果、長時間勤務が是正された、ワーク・ライフバランスが実現できたとして、誰が誰を評価するのか? 一般的に長時間勤務が是正されると、若手を中心にした社員は生活残業代がなくなるため、モチベーションが下がるとされる。改革活動に対して適切な評価が求められる。
これらの課題のために、大企業を中心にいざ「ワーク・ライフバランスやダイバーシティ」といった抽象度の高い目的、目標を掲げても、掛け声だけで終わる、実行が伴わない、あるいは活動が形骸化、頓挫している、という例が多い。また中堅企業では、テーマ認識が遅れ、目的、目標を掲げるまでにも至っていないのではないか?
待ったなしとなった「働き方改革」
一方で、企業の大小にかかわらず、この「働き方改革」テーマを真正面に受け止め、活動・成果を実現しなければ許されないタイミング・環境になりつつあることを、経営は認識しなければならない。
『内堀』事業継続の前提"優秀な労働力の確保"のための必須の活動
第一に、「優秀な労働力確保」という近い将来の課題に向けて「働き方改革」に取り組まなければ、企業・事業継続が危ぶまれるためである。何度か指摘したように、高度な情報を取り扱う職場では、これまでは「時間投入=残業」で何とか成果を維持しようとしてきたが、これからは「時間投入」を前提にした働き方は成立しない。
もっとも大きな理由は、目下のところの採用難・若手人材不足に加え、"制限なき時間投入が許される社員数"そのものが会社から少なくなるからだ。直近で想定されるのは、産休・育休を活用する社員が女性を中心にますます増えること。また、要介護世帯数増加による40代以上のベテラン社員の介護を理由にしたリタイヤが増えることだ。
とくに介護については深刻である。75歳以上の要介護認定者は現在全体の30%と言われ、40代以上の親世代である大量の団塊世代が70代に突入するのはあと2年である。ということは2年後以降、仕事を任せたいミドルマネジメント層社員の4分の1〜3分の1は要介護世帯主として時間制約が発生する、あるいは介護対応のために突然リタイヤするリスクが含まれているわけだ。
そのような事態に陥ったとき、残された「時間制約のない優秀な社員」があらゆるコアとなる業務をまかなう必要が出てくる。このような人材は"奇跡の人"と言ってよい。"奇跡"を期待する前に、今から長時間勤務をベースにした働き方を変えていく、改革していく必要があると考えてほしい。
『外堀』国の政策として"企業は長時間勤務抑制が求められる"
第二に、国の政策としてこの「長時間勤務の抑制」が正式に取り上げられているからである。
6月30日に政府から『「日本再興戦略」改訂2015 ―未来への投資・生産性革命―』が発表された。その一節に「少子化対策、労働の「質」の向上及び女性・高齢者等の一層の活躍促進」とあり、その内容を以下のとおり正確に紹介したい。
『当面の供給制約の対応という観点からは労働生産性の向上により稼ぐ力を高めていくことが必要である。その際、何よりもまず重要なことは、長時間労働の是正と働き方改革を進めていくことが、一人一人の潜在力を最大限に発揮していくことにつながっていく、との考え方である。(略)長時間労働の是正等を通じて女性が活躍しやすい職場づくりに意欲的に取り組む企業ほど「選ばれる」社会環境を作り出していくため、各企業の労働時間の状況等の「見える化」を徹底的に進めていく』
いかがだろうか?「働き方改革」の推進度によって企業が選ばれる時代が到来することは間違いない。もはや内も外も、「働き方改革」待ったなしという企業環境であることがおわかりだと思う。
次回は上記の課題をどのように克服するかを具体的に述べていく。
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