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大日精化工業株式会社

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 「個人プレー」から「チームプレー」へ――大日精化工業・ファインポリマー事業部は2015年11月、技術体制の強化を目指し、技術KIを導入した。活動開始から3年目を迎えた今、技術者の意識と行動は変わり、組織も大きく変わり始めている。技術KIを通じて開発現場はどう進化したのか。そして、組織間の高い壁をどのようにして取り払っていったのか。未来を見据え、10年後を支える若手技術者の育成にも乗り出した同事業部の、活動の軌跡と今後の展望を伺った。

製品開発の要は「人」技術KIで人材育成を強化する

 大日精化工業株式会社は1931年(昭和6年)、顔料の多くを輸入に頼っていた時代に、その国産化を目指して創業した。以来、「有機無機合成・顔料処理技術」「分散・加工技術」「樹脂合成技術」の3つのコア技術を駆使してさまざまな製品をつくり出してきた。

 今回、取材で訪れたファインポリマー事業部は、ウレタン樹脂合成技術と分散加工技術を用いた各種コーティング剤や接着剤等を供給している。この6年は増収増益を続けており、業績は順調だ。しかし、新製品の数が少なくなっているという課題を抱えていた。本活動を導入し、主導してきた佐藤浩正氏(同事業部 技術統括部 統括部長)は、改革に踏み切った理由をこう語る。「新製品をつくり出すのは人ですから、人材育成の強化を図りたいと考えていました。また、誰が何をしているかを見える化し、個人任せの『個人商店』から強い技術体制の『百貨店』に変貌したいという想いもありました」

 コンサルタントの選定にあたっては数社から提案を受け、比較検討した。その過程で、JMACの技術KIセミナーに参加し、技術KIが課題解決手法として非常に有効であると実感したという。「ファインポリマー事業部は『全員野球』をモットーにしています。そうした組織風土や組織課題を考えると、全員参加で力を合わせて取り組む技術KIの手法は合っているなと感じ、JMACに支援をお願いしようと決めました」(佐藤氏)

 こうして2015年11月、ファインポリマー事業部はJMACをパートナーとして、技術KIへの取組みをスタートした。

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ファインポリマー事業部 技術統括部 統括部長
佐藤 浩正 氏

課題の明確化で 「自覚」と「覚悟」を引き出す

 技術KIでは、チームで知恵を集め、力を合わせることで仕事の生産性を向上していく。これを日常業務の中で行うのが特徴で、技術統括部では全員参加で日常業務の効率化や生産性向上を目指している。

 実際の活動について、技術統括部第1部 部長の福井克幸氏は、「最初にかなりの時間をかけて個人面談をするようになりました」と振り返り、「それまではわれわれの方で研究テーマの振り分けをしていましたが、面談では『何がしたいか』『そのためにはどうするのか』『1年後はどのような形になっていたいか』といった問いかけをして、『自分で目標を決めて、そこに向かってガンバっていく』という形にしていきました」と説明する。その後、彼らはどう変わっていったのか。福井氏は「少なくとも、指示を待つ状態はなくなりました。最近では、『ここまでできました』『ここからはできませんでしたが、こう考えています。これでいいですか』という打ち合わせができるようになってきました。自分のやりたいことを宣言し、それに対して向かっていくことで、個人の責任を持つようになってきたのかなと思います」と語る。

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ファインポリマー事業部 技術統括部 第1部 部長
福井 克幸 氏

 技術統括部第2部 部長の廣瀬正純氏は、「最初は、若手にどこまで仕事を任せるかが非常に難しかった」と振り返る。そこで、業務をばらして見えるようにし、合意と納得をしたうえで、どんどん業務を任せていったという。その場では口を出さず、後でフォローするという方針をとり、時には我慢を重ねることもあったが、「彼らは技術KIで確固たる方針と根拠を持つようになったので、今では自信を持って『ここをやっていないから、ここをやりましょう』と言えるようになりました。リーダーとして育ってくれたなと思います」(廣瀬氏)

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ファインポリマー事業部 技術統括部 第2部 部長
廣瀬 正純 氏

 佐藤氏が彼らの成長を強く感じたのは、「朝礼と夕礼」で各人が報告している姿を見たときだったという。「各人がYWT(Y:やったこと、W:わかったこと、T:次にやること)を明確に報告できるようになりました。以前は夕礼などやっていませんでしたし、朝礼もおはようで終わっていたので、こんなに進化するものかと驚いています」。また、技術KIを通じて技術者たちが「自覚」と「覚悟」を持つようになってからは、組織も大きく変わったという。「とくに若手技術者が自分のやるべきことを明確にして取り組み、近くに困っている人がいたら助けてあげるなど、組織内で責任ある行動がとれるようになってきました。やはり根底には『ものづくりで社会貢献したい』という思いがみんなにあって、個人も組織も成長して双方のイノベーションが進んできていると感じます」(佐藤氏)

 JMACチーフ・コンサルタントの星野誠は、「自覚と覚悟をみなさんに持っていただきたいというのが2年目の1つの焦点で、それが目に見えて風土になってきたところは素晴らしいですね。一人ひとりが変わりましたし、リーダーやマネジャーなど、それぞれの階層の役割意識もかなり変わってきたと思います」と語る。

組織の壁を越えて、ともに課題解決に挑む

 それぞれの部課で全員参加の技術KIを進める一方で、同事業部では同手法を活用した「中長期テーマの推進」と「若手技術者の育成」への取組みも開始した。

 「中長期テーマの推進」においては、「とくに重要なテーマ」や「中長期テーマ」の必達を目指す「テーマミーティング」を実施している。テーマ関係者が集うこのミーティングで、各テーマの状況を共有し、意見を出し合う。

 また、製品部門の重要テーマに関しては、他部門から専門知識を持った技術者をゲストとして招き、協力を仰いでいる。「KIを導入する前は、他部門との壁が非常に高く、自部門のみで活動していましたが、組織の壁を越えてゲストを呼ぶようになってからは、その壁をいかに低くするかという取組みも行っています」(佐藤氏)

 その結果、日常業務においても部や課を越えてアドバイスし合うようになり、アイデアも集まるようになった。この点について廣瀬氏は、「壁がなくなったのは間違いないと思います。その昔は『他部署に配合は教えない』という感じがありましたが、今はまったくそういうことはなく、若手同士で情報を交換しています」と話す。佐藤氏は「壁がなくなり、違う視点でものを見られるようになりました。自分たちだけでは視野が狭くなりがちなので、部外の人に来てもらい、まず壁を壊してもらって、いろんな考え方を加えていく。すごく相乗効果がありますね。横串が刺さってきたのかなと思います」と語る。

経営層と想いを共有し 未来をつくり出す

 「若手技術者の育成」においては、若手技術者が新技術開発に挑戦できる場として「未来会」を発足した。2016年6月に始まり、現在は3期目だ。

 「未来会」では自主性が重視されており、参加するかどうか、何を研究するかも本人が決めている。「こういう技術をやりたい」というシーズをもとにマーケティングや社外調査を行うメンバーもいれば、何をやりたいのか模索しながら仲間をつくってさまざまなことを調べ、何か新しいことをしたいというメンバーもいる。

 このように、かなり自由な活動ではあるが、年を追うごとにその内容は進化している。これについて、活動推進を担う事務局の橋本明弘氏(同事業部 同部 技術企画推進部 技術企画推進課 課長)は、「1年目は事務局主導による運営でしたが、2年目以降は参加者主導の活動に変えていきました。たとえば、2年目からはキックオフ時に経営層と参加者が宣言し合い、想いを共有して、双方で未来会の位置づけがズレてきていないかを確認しています。発表会の後には、経営層や管理職からのフィードバックや表彰を取り入れました」と説明する。

 佐藤氏は「未来会を通じて、若手技術者が市場調査をして、技術を使ってどうやって売っていくのか、ということを自ら考えるようになりました。『若手技術者の育成』と『未来会』と『MOT(技術経営)』がうまく融合していて、非常に成果が出る取組みだと思います」と語る。

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ファインポリマー事業部 技術統括部 技術企画推進部 技術企画推進課 課長
橋本 明弘 氏


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▲自主性が尊重される「未来会」。会社の未来を若手が真剣に議論する。(写真提供:大日精化工業)

 JMACの星野は、「こうした活動では、経営層の想いと事務局のサポート・運営がぴったりかみ合うとうまくいくはずですし、実際に良い取組みにつながっていると思います。また、自走化できるか否かの転換点は、与えられた枠を超えて、『自主的にどうしていきたいのか』を沸き起こしていけるかというところにあります。そうした意味でも、橋本さんはきちんと枠を与えて、少し窮屈になってきたらもう1回、『ではどうしたいんだ』というところをうまく引き出しながら活動を進めてくださっていると思います」と語る。

基盤はできた、次は全員で 勝てるチームづくりだ

 今後のビジョンと課題について事務局の橋本氏は、「活動の自走化に向けて今後も自分たちで考え、方向性を決めていきたいと思っています。テーマミーティングの改善が本年度の課題ですが、今後はテーマオーナーとだけではなく、これからの技術統括部をつくっていく若手リーダーとも一緒に考えて、同じ方向を向いてやっていく必要があります。とはいえ、自分たちだけではできないこともありますので、今後もJMACさんに相談しながら進めていきたいと思います」と語る。

 第1部 部長の福井氏は、「みんなで苦労しながら、小さいことでもいいから新技術開発の成功体験をつくっていきたいですね。それができていくと、とてもいい形でサイクルが回り出すのではないかと思います。将来、みんなで『あのとき、汗水流してこんな苦労したよね』と語り合えたり、個人個人が『こうやってあのときみんなに助けてもらった』と思えたりすれば、それが1番いいですね」と話す。

 第2部 部長の廣瀬氏は、「まずは中長期テーマの成功を目指します。そのためには組織力を強化して、全員で勝てるチームにしなければなりません。今、若手リーダーたちが少しずつ育ってきていますので、今後は彼らがさらなる成長を目指すことを期待して、活動を続けていこうと思っています」と語る。

今後のさらなる成果に期待 若手技術者を育て、未来を託す

 統括部長の佐藤氏は、活動の成果と今後への期待をこう語る。「組織間の壁がなくなり、オープンな雰囲気で何でも相談し合える技術体制になりました。技術開発も進み、特許の件数もかなり増えています。その事業成果は今後さらに出てくることでしょう。JMACさんには何でも相談でき、課題解決していただけるので、パートナーに選んで間違いなかったと思っています。課題解決に向けてのゲスト招致や未来会など、今やっていることの一つひとつはJMACさんのアイデアによるものです。今後は事務局がそういった創意工夫をしていかねばなりません。それもJMACさんと一緒にやっていきたいという想いがあります」

 今後のビジョンと課題については、「近々の課題は『中長期テーマの成功』と『若手技術者の育成』であり、将来的には技術KIによる活動の幅を広げていきたい」と語る。「未来会の見学に来た他の事業部から、『若手の育成にはすごくいい手法だ、ぜひ参考にしたい』との評価をもらうこともあり、技術KIの有効性が認識されてきたと感じています。当事業部の現場では、いかに人を育て、知的生産性向上サイクルの循環を良くしていくかを目指しています。その点、技術KIはとても良い手法ですから、これからも活用していきたいと思っています」

 「個人プレー」から「チームプレー」へ――ファインポリマー事業部の技術者たちは、強力にタッグを組みながら、今日も新技術開発に挑み続ける。

担当コンサルタントからの一言

技術部門の改革は職場づくりから

 仕事に追われる技術部門においては、改革・改善活動がやらされ仕事になってしまい、当事者が十分なメリットを感じられないまま、一過性で終わってしまうことがあります。幹部が掛け声をかけても、技術者一人ひとりの自分ごとにならないと改革は進みません。大日精化工業様では、幹部の想いと技術者の意思がつながり、自ら「良い職場をつくる」「未来をつくり出す」といった自覚と覚悟の風土を醸成できたことが本質的な活性化を生み出しています。大日精化工業様の企業理念である「人に興味を持とう」「新しいことに興味を持とう」「未来に興味を持とう」のDNAが伝承されています。


星野 誠(チーフ・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.67からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。

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