新価値創造マネジメントの新潮流
第2回 ソリューション志向の新事業開発が求められている
高橋 儀光
前回は、国内企業向けのアンケート調査結果から、従来のMOT論だけでは研究開発部門が思うように役割発揮ができていない企業が増えている実態について解説しました。今回からは、研究開発部門の開発成果を事業貢献に繋げていくためのマネジメントの切り口について解説していきます。
なぜ、従来のMOT(技術経営)論だけでは事業貢献が難しいのか
従来のMOT論では、「良いモノをたくさんつくれば、売れて儲かる(事業貢献)」ということを暗黙の大前提としてきました。
「良いモノをつくる」ことと事業成果とがリニアに繋がっていた時代は、研究開発部門も生産技術・製造部門も、「良いモノをつくる」ことだけに前を向いて全力疾走していれば、事業成果は自ずとついてきました。この時代は「良いモノをつくる」ために、自社技術の強みの棚卸し・把握を行い、それを起点にマーケティングリサーチを行い、自社の強みと世の中のニーズとがマッチングするところで、コストパフォーマンス面から採算性の検証を行い、事業機会を見出すという、MOTの基本的な進め方で事業成果を創出することは可能でした。ですが、今日の成熟市場においては、「モノ」はすでに市場に広く普及・充足しており、「良いモノ(低コストで、かつ高品質)をつくる」ことと、事業成果とは必ずしもリニアな関係ではなくなりました(下図)。
「良いモノをつくる」ことを考える前に、お客様のパートナーとなることを考える
このような時代では、自分たちの技術の強みを活かして「良いモノをつくる」ことを考える前に、お客様にとって欠かせないパートナーになるためにはどうしたらいいのかを突き詰めて考える必要があります。つまり、「モノ」提供だけのサプライヤーの一社から脱却し、お客様のプロセスのなかにサービス提供を通じて深く入り込むことで、コスト重視の過当競争の外に出ることが重要になります(下図)。
お客様のパートナーになるためには、お客様が個別に抱えている課題・悩みについてお客様以上に考えて、その解決策を一緒に考えていくことが必須になります。これは一見すると、従来までのMOT論・開発の考え方と同じようにも思えますが、まず良いモノをつくり、それを展示会などでアピールし、そこでモノの存在を知ったお客様自身が自分たちの課題解決にどう役立つのかを考えてくれることを期待するやり方と、お客様の課題をお客様の立場に成り代わって突き詰めて考えていくやり方は、まったく次元が違います。
「モノ」+「サービス」で、お客様の課題解決(ソリューション提供)を考える
お客様の課題ありきで考えていくと、その課題の解決策が「モノ」だけで完結することはまれで、サービス提供と組み合わせることが必要になるケースが多く出てきます(下図)。
「モノ」と「サービス」がセットになってはじめて、お客様の課題が解決されるときに、自社にとってのビジネスチャンス・新しい事業機会が存在するのです。これは、B to C/B to B to C(一般生活者向けの最終製品)であっても、B to B(法人・産業向けのプロセス製品・部材提供)であっても同じです。
技術シーズありきの「プロダクトアウト」の対義語として、お客様のニーズありきの商品企画・開発を「マーケットイン」という言葉を用いがちですが、真の意味での「マーケットイン」とは、モノの新規需要・市場規模ありきで事業化を考えるのではなく、お客様の困りごとありきで事業化を考え、その解決策・ソリューション提供の対価として事業規模が想定されるという考え方です。
たとえば、そのソリューションを提供することで、お客様が独自でやる場合と比べて、ランニングコストが年間150万円浮くとします。「モノ」のイニシャルコストが仮に300万円として、その固定資産の償却期間が3年間としますと、定額法で約100万円です。これであれば、お客様は経済的な合理性からもそのソリューション導入を社内説得できるでしょう。冒頭に説明した、従来までの事業の採算性評価である、競合他社よりも安くて高品質な「モノ」をつくれば、1個当たりの粗利は下がっても量が出ることを見込めるため回収できると考える利益創出のメカニズムとはまったく異なる点に着目してください。
仮にこのソリューション提供の「モノ」の製造原価が仮に100万円であったとしても、お客様は悩みの大きさからすれば300万円までは出せるのです。それにも関わらず、製造原価100万円に販売費率3割として、販売価格を143万円くらいに設定してしまうのが、前回で説明しました開発リソースを投入して機能・性能を上げても、市場の販売価格は下落する一方となる状況をつくり出していると考えられます。
情報ネットワークも物流のインフラも充実した今日では、お客様にとって「モノ」はいくらでも選択肢があり、安くて良いモノを世界中から調達できます。しかし、自分たちの困りごとを自分たち以上に真剣に考えて、解決策を提案してくるところとはなかなか出会えません。そのようなところと出会えたときには、単なるモノ提供のサプライヤーではなく、一緒にビジネスをつくっていくパートナーとして扱うことでしょう。
ソリューション志向の研究開発へ舵を切るのは困難が伴う
誤解がないように述べますが、ソリューション志向の研究開発といっても、従来からMOT論の基本ステップである、自社技術の強み把握は必須です。モノづくりの強みに立脚しない、サービス提供のみのソリューションは短期的には事業成果に繋がっても、早晩に競合にキャッチアップされてしまい、結局はコスト優先の過当競争に戻るだけです。あくまでも自社の強みがある「モノ」に「サービス」がセットとなることで、お客様にとって真に価値あるソリューション提供となり得るのです。
次回は、ソリューション志向の研究開発の重要性に頭では気がついていても、なかなかそこに向かうことができない要因について考察します。
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