Indian Ocean Tuna(IOT)
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「全社戦略展開プロジェクト」で企業変革、体質を強化 ~オーナーシップで活動を推進、さらに高い目標へチャレンジ~
2012年7月セーシェル共和国を代表する大手製造業IOT社で「全社戦略展開プロジェクト」が始動した。コスト削減や業務効率向上、企業変革等を視野にスタートした本プロジェクトは、JMAC 支援のもと全社でどのように取組まれていったのか。始動から1年余り経過したこれまでの状況と今後の展開についてご紹介する。
課題は「効率的なオペレーション」
パリに本社を置くMarine World BRANDSグループ(以下MWBグループ)は、ヨーロッパを代表するシーフードメーカーである。英国、フランス、イタリア、アイルランド、オランダを主な市場としている。
MWB グループはツナを中心とした缶詰や、高付加価値製品を中心に扱っているが、サーモン、サバ、イワシ、シーフードペーストなど幅広い製品を生産・販売している。売上高は約900億円、5000人の従業員を有するヨーロッパでも有数の企業である。
MWBグループはヨーロッパとアフリカに4つの生産拠点を持っており、インド洋に浮かぶ美しい島国セイシェルにあるIndian Ocean Tuna(以下IOT)社はその内の一つである。セーシェル共和国は、アフリカ大陸から1,300km ほど離れたインド洋の115の島々からなる国家で、観光と漁業を中心に発展してきた国である。
そのセーシェル共和国においてIOTは、ヨーロッパの大手スーパーには必ず置いてある高級・普及版ツナ缶の製造や、プライベートブランド(PB)の製造なども手掛けている。
そんなIOTであるが、グローバルベースの監査法人の会計士からIOTに転じた代表取締役社長JoramMadnack 氏は、日頃から同社のオペレーションをもっと効率的にしたいと考えていた。
代表取締役社長JoramMadnack 氏
このような状況下、MWBグループの親会社であるThai Union Frozen(以下TUF)社のマネジメントがある日IOT を訪れた折、JMAC に支援依頼することを薦められた。実はタイに本拠地を置くTUFではJMACの支援により、2010年から約3年間「全社戦略展開プロジェクト」を展開しているところだった。
ついに始動! IOT の「全社戦略展開プロジェクト」
紹介から程なく、2012年7月JMAC のチーフ・コンサルタントの石田恒之と泉本保彦がセーシェルのIOTを訪れた。最初に、全経営メンバーを集めてJMAC が「全社戦略展開プロジェクト」の概要説明を行い、その後、Madnack氏が、IOTの戦略、経営指標、会議体や意思 決定方法などの現状と主要課題に関する説明を行った。さらに、各機能部門長からも個別に、現状と課題のヒアリングが行われ、IOTの「全社戦略展開プロジェクト(Company-wide Strategy Deployment)」が始動する。
Madnack 氏は当時を振り返り「目標を立てて徹底的に実行するという内容の提案を受け、これは行けると確信しました。彼らは、常に組織全体に気を配り、船から魚を下ろす作業、冷凍庫、魚の選別、調理、加工、パッケージング等すべての工程もしっかりと把握してくれました。その後コンサルティングで滞在する度、必ず現場に足を運び、現場の様子を把握し確認してくれていました」と語る。
また、今回のプロジェクトに関してこう評価する。「JMACのコンサルティングスタイルで私が特に評価しているのは、全社がコミットするところから始まるという点です。当然ながら私が社長として会社の経営目標にコミットします。その目標を、生産部門、技術部門、品質部門、コマーシャル部門といった各機能部門の長に展開していきます。さらに、現場管理者、一般社員全員にまで目標を展開し、全社員が目標を理解した上で活動を開始する点には非常に信頼感が生まれました」と。
泉本は「『全社戦略展開プロジェクト』は、昔日本でも盛んに行われた『方針管理』と、コンセプトにおいて共通している点があると思います。IOTメンバーの方々は、全社一丸となって目標に向かって努力を積み重ねてくれました。『方針管理』の日本語の書籍が最後に出版されたのは1990年代ですが、それ以降は日本よりも、むしろ欧米諸国に於いて真剣に取組まれていると思います」と語る。
プロジェクト始動でIOTはどう変わったのか?
全社戦略展開プロジェクト』推進メンバーとコンサルタント(石田/泉本)
オーナーシップはこうして生まれた
プロジェクトは始動から1 年余り経ち、当初は困難だと思われていた目標達成が見えてきたという。「『全社戦略展開プロジェクト』は、今では我々の血となり、自分達の体を巡っていると様々な場面で実感しています。目標達成だけでなく、何よりも社員全員が成長し、この改善の気持ちを持ち続けてくれると信じています」とMadnack氏は語る。
この改善活動が現場に浸透した仕掛けのひとつは、コンサルタントが現場のチームミーティングに入りファシリテーションを行ったことだ。さらに、ファシリテーションの仕方をメンバーに教えていった。これによりミーティングの質が劇的に変わったという。
泉本は「例えば、本プロジェクトでキャプテンと呼ばれる部門長がメンバーを集めて議論するWeekly Meetingに我々も参加するのですが、ただ座って侃侃諤諤の議論をするだけで終わってしまいそうになることもありました。そんなとき、私が前に立ち、メンバーが発言する度にホワイトボードに発言内容を箇条書きにしていきます。そして、皆がそのペースに慣れた頃、その役割をキャプテンに渡していくのです」とその方法を語る。
ある日Madnack氏は泉本に次のように語ったという。「このプロジェクトがどうして上手く行っていると思いますか?私はオーナーシップだと思っています。このプロジェクトを通じて、社員一人一人が、これは誰かがやるべきことだ、ではなく、これは私がやるべきことだと、皆が思うようになったからなんです。」
さらにMadnack氏は続ける。「JMACからは管理のツールを提供してもらいましたが、カスタマイズして進捗管理システムを開発しました。これは、ジェネラル(軍司令官)と呼ばれる二人のプロジェクトマネジャーに加え、財務部長にも協力してもらい、自力で開発したものです。
当初、このプロジェクトマネジャーは、コンサルタントが開発してくれるものと思っていましたが、業務を良く分かっているメンバーが、自分たちで開発するのが最良であるというアドバイスで、自社で開発をしました。結果的には、自社開発したことで、このプロジェクトに対するオーナーシップが社内に生まれるきっかけになりました」と。
また、オーナーシップが社内に生まれるもう一つのきっかけとして「JMACは、常に現場に足を運んで、管理職だけではなく、職長やオペレーターにも気軽に声を掛けてくれていました。そして、現場のチームミーティングでも、常に彼らと同じ目線で議論を引っ張ってくれたのです。それは、このプロジェクトが私や管理者のためだけのものでなく、社員全員のためのものであることを身を持って伝えてくれたのだと思います」とも言う。
進化はこれから!さらなるバージョンアップとグループへの展開!
JMACの12回目の訪問で、今回のプロジェクトが一区切りついたとき、プロジェクトマネジャーがこう言った「JMACは、私たちがお腹を空かせていたとき、魚をくれる代わりに魚の釣り方を教えてくれた。このことで私たちは一生暮らしていくことができる」と。
また、他のプロジェクトマネジャーは「このプロジェクトが始まった時、我々の会社は各部門がバラバラで、考えていることも共有できていなかった。しかし、1年余り経った今、我々は本当の意味で1 つになった」と伝えたという。泉本は、「当初は、丸一日では行き着けないセイシェルに月に1 度1 週間訪問するという大変なプロジェクトですが、この言葉を聞いて本当に報われた瞬間でした」と語る。
そして「このプロジェクトは、タイのTUFで実績を作った石田の、生産・会計の専門性に、私の戦略策定・執行の専門性とファシリテーションスキル、そして若手の分析力が総合力と なって実を結んだものです」と。
「全社戦略展開プロジェクト」は、売上高増加、コスト削減、品質向上、リードタイム短縮、企業文化変革等あらゆる目標の設定と展開を推進するが、IOTでは初年度、加工費削減だけに焦点を当てたことになる。
加工費削減の予算レベルに上積みしたチャレンジングな目標を掲げ、それをやり遂げることが確実になるところまで来たIOTだが、この1年は現状の問題解決に取組んできただけだと課題意識は高い。
今後は、現在の「問題」だけではなく、さらに高度な目標を掲げ、中・長期的な「課題」に取り組んでいく目標を立てているという。
Madnack 氏は「1年かけてこの活動を我社の血肉にしてきましたが、さらにこの体質を強化していくために、JMAC の力も借りながら、まだ手を付けていない、品質、リードタイム、在庫、企業文化の変革などさまざまな課題に取り組んで行きたいと思っています」と語る。
セイシェルでのプロジェクトの成功を受け、同じプロジェクトが今年3月からガーナのグループ会社でも始まり、泉本も石田も30時間以上かけて1ヵ月おきに現地に赴く。さらにバージョンアップしたIOTの「全社戦略展開プロジェクト」と他のグループ会社への展開が楽しみだ。
担当コンサルタントからの一言
「戦略」と「オーナーシップ」
私が戦略コンサルタントになった18年前、戦略をオーナーシップと結び付けようという人は少数でした。戦略という領域は、長く「左脳」が支配していた領域だと思います。つまり、データ、ファクト(事実)、論理、これらが戦略の領域でいつも繰り返し強調されてきました。しかし、ここ数年、感情、イメージ、モチベーションと言った「右脳」領域に触れること無しには、戦略執行は不可能だと思っています。 IOTのMadnack 社長が、「このプロジェクトが成功しているのは、オーナーシップがあるからだ」と語った時、私の思いが通じたと確信しました。オーナーシップとは、人の為でなく自分のためにやるんだという強い意志の表れと言えるからです。右脳と左脳の結合(マリアージュ)があってこそ、戦略は確実に執行されるのだと私は考えます。
泉本 保彦(チーフ・コンサルタント)
※本稿はBusiness Insights Vol.50からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。
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