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サラヤ株式会社

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開発から販売、営業までの全プロセスの質を高めていく! ~グローバルに供給する製品の品質保証体制づくり~

「衛生・環境・健康」をモットーに定評ある自然派商品を開発、販売しているサラヤ株式会社では、海外事業の拡大に伴い製品・サービスの供給もグローバル化しており、従来の体制による品質問題への対応に不安を抱えていた。そこで同社の取締役品質保証本部長・根本三千夫氏、顧問・富田晋平氏(元品質保証本部長)の両氏は、全社品質改善活動のプロジェクトを立ち上げた。本活動の背景、仕掛けづくりによる意識の変化、今後の展望などをお聞きした。

日本の衛生改善から世界の「衛生・環境・健康」へ

終戦から6 年、ようやく主権を回復したとはいえ日本の衛生状態は決して良いとはいえず、赤痢などの伝染病が蔓延していた。その翌年、サラヤ株式会社(以下、サラヤ)の創業者・更家章太氏は、衛生状態の改善に貢献すべく、ヤシ油原料の「パールパーム石けん液」とそれを衛生的に供給する容器を開発、発売した。これがサラヤの歴史の始まりである。

以来、40 年以上のロングセラーとなっている「ヤシノミ洗剤」をはじめ、さまざまな消毒剤、体にやさしい甘味料などを次々と世に出し、世界の「衛生・環境・健康」に貢献する製品・サービスを提供してきた。とくに、2010年からウガンダで実施している「100 万人の手洗いプロジェクト」など、途上国での各種プロジェクトで感染予防に大きな成果を上げている。

事業規模も順調に拡大し、現在国内に製造2 拠点、開発研究2 拠点、営業拠点56、海外に営業17 拠点、製造6 拠点(中国・タイ・マレーシア)を有している。

現在では、コンシューマー事業、サニテーション事業、メディカル事業、そして海外事業の展開により、グループ全体で従業員約1,800 人、売上規模356 億円にまで成長した(2014 年10 月現在)。

グローバル化に対応できる品質保証体制の仕組みを

長年の研究成果による製品・サービス、衛生への取組みのノウハウは、今や世界中に受け入れられるようになった。しかし、それゆえの悩みも出てきた。

「今、海外での事業展開はどんどん話が進んでいます。一方で韓国のMERS 感染など、グローバルで対処すべきことに応えるサラヤの品質保証体制はどうなのか?グローバル化に対応できる仕組みがあるのか?ということにトップが危機感を抱いていたのです」と語るのは、同社の取締役品質保証本部長の根本三千夫氏だ。

vol59_3_01.png取締役品質保証本部長 根本三千夫氏

根本氏はサラヤの前職では品質保証のシステムづくり、プロセスの仕組みづくりに従事、またISO の審査員でもあり、その目から見ても「製品そのものだけでなく、プロセス全体の品質を保証する仕組みが十分でない」と感じたという。

たしかに国内であれば、品質問題が生じてもこれまでの従来のやり方の延長線上でクレーム処理もこなせるが、〈仕組み〉がないと海外で発生した問題に対しては、日本から飛んで行くことになる。何ヵ国にもなれば、これまでのやり方では通用しない。全社的にグローバルな品質保証体制づくりが急務になったのだ。そのためのプロジェクトの立上げと運営の専任として、根本氏に白羽の矢が立てられたのである。

「目先の問題の火を消すだけでなく、真の原因から是正する仕組み、原因を解析して同じ問題が再発しない仕組みが必要と切に思いました」(根本氏)。

顧問の富田晋平氏(元品質保証本部長)も「これまでの品質保証部は、実は" 失敗の後始末部門" だったのです。意識も原因追求による再発防止・未然防止型ではなく、まさに処理型だったため、意識改革の活動に取り組むことにしたのです」と語る。

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顧問 富田晋平氏

いざ社内で活動を展開しようとしても、さすがに内部の人員だけで実施するのは難しい。プロセス全体に関わるシステムづくりとなるので、やはり外部の力が必要となり、JMAC が活動を支援することになったのである。

JMAC を選んだ根本氏は「上流の設計品質に課題を抱えていて、真の原因への対策を打っていくうえで、物事の基本をしっかり理解して進めていくべきだと思っていました。さまざまなコンサルティング会社を比較しましたが、JMAC のアプローチ方法がわれわれの思いにマッチしていると判断したのです」と語る。

JMAC シニア・コンサルタントの亀ケ森昌之は「両氏が指摘するように、設計から生産、営業、販売という流れの中で、やはり" 連携" という部分がまだまだでした。個々人は非常に一生懸命に取り組んでいても、品質問題は組織で対応ができないと効果も弱いのです。その点、問題をテーマ化して全社で進めていきたいとするサラヤさんの熱い思いは、最初から伝わってきました」と語る。

ボトムアップ型の活動でプロセスの質を高めていく!

こうして2014 年、サラヤ全社の品質改善活動プロジェクトがスタートする運びとなった。品質リスクマネジメントプロジェクトと名前を付け、その推進組織として社長をトップに品質保証本部が事務局となり、工場から管理間接部門、海外工場も含めて40 以上の部門が参画している全社活動である。富田氏は「トップダウンではなく、ボトムアップ型で活動に取り組みたい」と期待を寄せている。

活動はJMAC の支援のもと、全社的に品質のリスクをすべて洗い出す作業から始まった。大きなものだけでなく、こんな心配がある、恐れがあるというレベルまで含めて約500 項目を洗い出した。それを最重要50 項目に絞り、さらにA ランク、B ランクに分類して具体的にアクション・プランに落とし込んだ。現在は、短期のもの、中期のものそれぞれのアクション・プランの実施段階にある。

500 もの項目が出されたことに対して、根本氏は「海外工場も含め、よく出してくれたと思います。うれしい意味で意外でした」と振り返る。

実は従業員から項目を出してもらうに当たって、亀ケ森と根本氏でちょっとした「仕掛け」を施していた。

「自分だけで処理できることだけでなく、もし他の工程でこうやってくれたら助かるんだけど......、ということを書き出すようにお願いしたのです。そうしたら、お互いに持ち寄って、これはウチで、これはそちらで、とみんなで書き出すようになったのです」(亀ケ森)。

根本氏も「自分たちだけでは解決できないことをトータルで考えるようになりました。他のせいにするのではなく、自分たちができていれば、次工程が助かるということの本当の意味がわかってきたようです」とプロセスの質を高めていく意識づけが浸透していることを評価している。

組織に" 横串し"をさして全体最適の成果をねらう

根本氏が何度も強調する「プロセスの質を高めていく」ためには、部門間の「困りごと」を解決していく必要がある。サラヤも事業拡大とともに、急速に組織が大きくなり、それに対応できる仕組みの構築が追いついていないことを根本氏も感じていた。

「組織が大きくなり縦割りが進むと、会社全体の戦略が本当に実践されているかどうかが、見えにくくなります。個々の製品の品質というより、製品やサービスを生み出すプロセスの質そのものを高めていくには、組織に" 横串し"が必要でした」(根本氏)。

その横串しの機能として本プロジェクトの推進組織である「品質保証委員会」を立ち上げ、JMAC の支援を入れてトータルで質が上がる仕組みづくりを目指したのである。大まかには、根本氏の品質保証本部が中心となって活動の仕掛けやビジョン展開を行い、JMAC は個々のアクション・プランの進め方や、個別テーマへのテクニカルなアドバイスを実施する支援体制になっている。

「当社は、いい指示があればいい仕事をきちっとこなす企業文化があります。今回のプロジェクトはJMAC の指導・アドバイスが的確だったので、いい活動になっていると思います」(富田氏)。

横串しの効果が出て、活動も自走できる状態になるまで3 年はかかるのでないかと根本氏は見ているが、「今の勢いでいけば、もしかしたら2 年くらいでは」(亀ケ森)というくらい現場からの「本気」が伝わるようになった。

活動前は、何かが起これば現場ですぐに解決してしまい、後のレポートに残らないことがあった。そのため、検証が不十分になることが少なからずあったという。本活動では、JMAC の指導のもと、レポートとして記録するということを定着させつつ、「なぜ発生したのか?」をロジカルに分析するようになったのである。

「なぜ起きたかを深く掘り下げて真の原因を特定して、解決方法を探っていくと、技術的なこと、あるいは生産計画までさかのぼって考えるようになりました。自分たちの問題がロジカルに展開していくことで、何をどう変えたらよいかがわかってくるので、現場も本気で向き合うのです」と語る根本氏は、意識改革が着実に進んでいることを実感しているようだ。今後は研究開発と営業という二大部署をしっかりと巻き込む活動にしていくことがカギになると見ている。

「それぞれがバラバラに動いてしまうと、自分たちの部分最適だけになってしまいます。トータルで全体最適を見る横串しのポジションを担っていきたいと常に思っています」(根本氏)。

活動を安定させてさらなるチャレンジへ

当初、根本氏はサラヤの企業文化からして、活動には多少は「厳しい指導」があったほうがいいと考えていた。短期で早く結論を出したかったという自身の本音もあったが、意識改革という面からも多少の刺激が必要だと思っていたのである。一方、亀ヶ森は、矢継ぎ早に教え込むことをせず、焦らずじっくりと従業員に向き合って、さまざまな気づきを「引き出す」ことにした。

亀ケ森によると、「ああしなさい、こうしなさいと、まるでトップから言われるような状況をつくってしまうと、なかなか実行されないこともあります。こちらから指示するより、なるべく聞いてあげて、困りごとを共有するような作戦にしたのです」とのこと。

「結果として、そのやり方がよかったのです。受ける側の声をしっかりと聞いていただき、問題点を引き出してもらっているんだなとわかりました。商品開発部をはじめ各部門は今すごくいいムードになっています。これを壊さないように、このような指導を長期でお願いできればと考えています」(根本氏)。


vol59_pic04.jpg活動がスタートしてまだ1 年に満たないが、「活動に参画するメリット」を享受できる「場」づくりは成功したと言える。全社員が活動そのものに期待しているのである。

今後の方向性や課題について両氏は「活動の土台がしっかして安定してくれば、部署によってはより専門性の高いコンサルティングの導入も検討していきたいですね」(根本氏)、「まだまだ基礎的な技術力が弱い部分もあるし、研究所の成果を実生産に移すときの製造工学を研究から製造の技術スタッフは修得する必要があります。この部分でもJMAC の支援が必要になってくると思います。サラヤの製品は、信頼で成り立っています。信頼は品質から生まれます。事業規模が拡大しても信頼を維持しなければなりません。そのために全社品質改善活動は欠かせないのです」(富田氏)と語る。

活動が定着するにつれ、意識改革が進み、開発から販売までのプロセス全体の質が向上していく――本活動の成果により、サラヤの「衛生・環境・健康」は、これまで以上に社会に大きく貢献するに違いない。

担当コンサルタントからの一言

品質をつくり上げる合理性と柔軟性の両立

企業の組織構造が、事業環境や戦略、テクノロジーに適合して変化するように、品質を維持・向上するシステムも、状況に合わせて見直す必要があります。グローバル拠点で製造を行い、グローバル市場に製品を送り出すことで、商品開発から販売までの各機能には新たな課題が生まれ、機能間の整合と調整がより複雑かつ高度になります。品質マネジメントシステムの合理性を維持しながらも、柔軟な対応を行う、包括的なマネジメントが要求されています。サラヤでは今、それをつくり上げ、ランクアップした品質を提供し続ける、新たなマネジメントレベルへのシフトが始まっています。

亀ケ森昌之(シニア・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.59 からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。

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