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株式会社ジェイ・エム・エス

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「若手の発想」が会社の未来をつくり出す先進の事業探索が今、走りだした

〜「自分たちの10年後」を見据え、「未来志向の事業」につなげていく〜

 これまでにない新しい事業を展開するためには、いったい何が必要なのか――既存事業の成熟期を迎えた企業にとって、そこからさらに新しい発想を得ることはなかなか難しい。ジェイ・エム・エスは、このテーマに対して“若手の発想”を活用した新規事業開発にチャレンジしている。若手の自由な発想力を伸ばし、未来志向の事業につなげるための方法とは。そして、実現化のために必要な「経営層の理解」をどのようにして得ていったのか。その活動の軌跡と今後の展望をお聞きした。

「クリエイティブな発想」で既成概念を打ち破れ!

 広島市に本社を置く総合医療機器メーカー、ジェイ・エム・エスは「輸液輸血」「血液透析・腹膜透析」「循環器」「医療用一般用品」という4つのフィールドで独自技術を持ち、製品の開発・製造・販売までを一貫して行っている。

 同社はここ数年来、「既存事業に加えて、今後どのような周辺事業を展開することができるか」を模索し続けており、社外のさまざまなセミナーに参加する中、2010年に参画したJMACの「将来の事業展開を考えるセミナー」が活動のきっかけとなる。

 このセミナーに参画し、のちにプロジェクトの推進役として事務局を担った中川宜明氏(研究開発統括 中央研究所 研究管理室室長)は、「セミナー講師とディスカッションする中で、『新たな事業展開をするときに、知識のある人が中心になってもなかなか殻は破れない。その人たちがしっかり仕組みをつくって、若手の柔軟な頭で考えていく展開をすべきではないか』との話に共感し、そこから、『若手の発想をどう活かせるか』ということを具体的に考えてみようと思ったのが活動のきっかけでした」と語る。

JMS

研究開発統括 中央研究所 研究管理室 実験室 デザイン包装室 室長
中川 宜明 氏

 後日改めてJMACと話し合いを重ね、支援を依頼することに決めた中川氏は、「やはりわれわれは技術者ですから、『技術目線を活かし、医療の現場で本当に何が必要なものかを提案する』という方向性を軸に、当社に合った支援プランを構想の段階からしっかり打ち出していただけたところがよかったですね。この活動で、若い技術者が自らクリエイティブな発想ができるような仕組みをどうつくっていくか、そのきっかけを生み出せるメンバーも選出して、実現に向けて若手目線でトライしていこうとスタートしました」と語る。

 こうして2011年、ジェイ・エム・エスはJMACをパートナーとして、“若手の発想”を活かした新規事業開発への取組みをスタートした。

「10年後にどうなりたいか」を本気で考えたことはあるのか?

 活動にあたり、まずは将来のテーマ創出に必要な“考え方”や“手法”を習得するところから始めた。まずは何を目指したいか。医療現場の視点に立ったビジョンの構築法、また現実と結びつける「仮想カタログ」展開をジェイ・エム・エス流にカスタマイズして将来開発したいものを製品カタログとして描き、チームで練り上げていく。

 通常の研究業務に加え中長期で行うこの活動では、将来の幹部候補への期待を置ける者や、自ら手をあげた者など、+αの活動に入れる“やる気のあるメンバー”を集めた。しかし、それでも最初のころは、宿題をやらされているという“やらされ感”や、「コンサルタントは外から見て好きなことを言うだけでしょ」という雰囲気があったという。

 ところが、実際にコンサルタントが入ってくると、メンバーの意識は徐々に変わっていった。中川氏はその様子を、「『あなたたちは10年後に自分たちが経営に参画した際、どうなりたいか本気で考えたことがありますか』と自分たちの痛い腹の底を突かれても反論ができないんですね。そういうところに火をつけると奮起するメンバーたちが集まっていたので、『それなら、やってみようじゃないか』とモチベーションは上がっていきました」と語る。

 そしてメンバーたちは、ディスカッションを重ねるにつれ、コンサルタントに強い信頼を寄せるようになっていった。「次回までにココをもっとつめてきて」とチームに宿題が出る中でメンバーの連帯感は強まっていき、活動はさらに加速した。

 メンバーの意識改革について中川氏は、「上からの指示に従って動くのではなく、『将来は自分たちでつくっていく』という発想に切り替えていくには、非常に時間がかかります。本に書いてあるような概論を話すより、『実際に自分たちで考え、形にしてフィードバックを受けて、さらに別の角度から考えてみる』ことを繰り返す方が効果的だと考えていました。ですから、JMACには『ダメなところはダメ』とはっきり言っていただきました。この最初の段階で『自分たちが考えていかなければいけない』という発想をしっかり持てるようになって、自ら活動する行動力と共に、手法もかなり定着していきました」とその成果を振り返る。

実現へのターニングポイント 「経営層のGOサイン」への道

 「仮想カタログ」研修を通して「将来こういうものをつくりたい」という想いを醸成してきたメンバーたち。次のステップでは、より専門的な領域で発想力の強化を図り、新規事業の実現に向けて取り組んでいった。

 もっとも、事業化を実現するためには「経営層のGOサイン」が必要不可欠だった。「経営層は当初、今までの路線とは違う新しい発想に対して相当違和感を持ったはずです。また、若者の提案はまだまだ情報不足の感が否めず、継ぎ足す必要がありました。会社として動くには『経営層の理解』と『提案のレベルアップ』の両方の課題をクリアする必要があったのです」と語るのは、自身も役員であり、事務局として経営層とのパイプ役となった佐藤雅文氏(取締役 研究開発統括部長 兼 中央研究所所長)だ。

JMS

取締役 研究開発統括部長 兼 中央研究所所長
佐藤 雅文 氏

 では、どのようにして経営層の理解を得ていったのか。中川氏はまず、経営陣に対し、将来担う開発人材の育成の重要性と、それを進める考え方の重要性を説明するところから始めた。さらに、経営層と活動を結びつけるため、「テーマ検討にマイルストーンを設け、一定の段階になったら役員も入れてそのテーマのGo/Stopのポイントを一緒に検討するという作戦をとった」という。

 佐藤氏は「2回目の説明を受けたころから、経営陣の様子は少しずつ変わっていきました。また、若い技術者たちは研究テーマ実現のために周辺情報を調べる中で初めて、ビジネスという単位で考えたり、もっと奥深い技術の探求ができたりしたようです。彼らは経営陣と技術者、両方の目線から考えることができるようになり、提案もレベルアップしていきました」と評価する。

 そうした中、この流れを一気に加速する出来事が起こる。メンバーたちが、ある新しいテーマの検討をした際に、事業そのものが抱える大きな課題を提案した。「これには経営層も非常に関心を持ち、『事業全体の早急な立て直しが必要だ』と大きく方向が変わりました。今、それをベースに改革が動いているところです」(佐藤氏)。

「+αの特別な活動」が自走で「ルーチンな活動」に!

 現在、この活動はすでに自走に入っている。3つのチームを結成したメンバーたちは毎月1回全チームが集まって互いの進捗や直面した課題をプレゼン、他のチームでの経験も活かしながら互いに切磋琢磨している。

「今では、メンバーが主体となって、将来自分たちが実現したい夢に向けての検討プランを具体化、マイルストーンを自ら設定し、能動的な活動としてその活動に対するどんどん自走していけるようになりました。われわれも活動プランとメンバーのやる気を考慮し、予算もしっかりつけて、JMACより指導いただいた観点をベースにメンバーへ助言するなど自立化を図っています」(中川氏)

 活動成功のポイントについて中川氏は、①「自分たちで考える」という発想に変えていくこと、②理想を現実につなげる考え方と手法を身につけること——の2点をあげる。とくに②については「将来こうしたいという理想を現実につなげるために『仮想カタログ』『樹形図』『ウォーターフォール』などの考え方や手法を定着させました」と語る。「ウォーターフォール」は、各工程を段階的に検討し、前の工程に戻らない開発手法で、現在では全事業にこの手法を根づかせていくことが事業改革の骨格にもなっている。

 佐藤氏は、「今ではメンバーたちが普通にこれらの手法を取り入れ、自分たちのルーチンで活動が動いているところが一番の成果だと思います。活動当初は+αの活動に入るということで、自分の職場での立ち位置に戸惑ったこともあったようですが、事前に問題点をしっかり抽出し、メンバーを含んで活動する前の段階がブレなかったところがよかったですね。当社だからこそ抱えている問題を最初にしっかり共有することが重要かなと思います」と述べ、「毎年、この活動に入りたいと手をあげる人が現れて、新しいメンバーを少しずつ入れています」と、活動が次世代そして未来へと徐々につながっている実感を語る。

活動から何を得たか? リーダーの声①

JMS

中央研究所 第4研究室
中尾 典彦 氏

これまでの活動とは違う試みを感じたので、最初は率直に面白そうだなと思いましたが、何をすればいいのかという不安もありました。年上、年下のメンバーたちの考えをまとめるのに苦労しましたが、議論することで研究室の“壁”を超えた検討会も可能になりました。技術的な課題解決にプラスして、マーケティングの要素や経営者の視点で見れるようになったので、今は国内だけですが、将来は海外をにらんだ開発を目指したいですね

活動から何を得たか? リーダーの声②

JMS

中央研究所 第3研究室
大住 和馬 氏

参加しているメンバーの話を聞いて、面白そうだと手をあげて途中から加わりました。リーダーになったときは一番年下で、メンバーの意見を調整するのに苦労しましたが、JMACやバイオデザインの手法でベクトルを合わせることで、議論も活発化してまとまるようになりました。リーダーとしての責任感も生まれ、これからの市場を見る力も得たので、まだまだこの力を伸ばしたいですね。これからも継続して実践していきたいと思います。

活動から何を得たか? リーダーの声③

JMS

中央研究所 第2研究室
岡本 恭典 氏

将来を見据えて若い人たちが活動していくことの面白さを感じました。目に見える成果は5年10年先かもしれませんが、その間に人が育つことに意義があります。私のチームは個性の強いメンバーばかりで、誰がリーダーでもおかしくないくらい、みんながサポートしてくれたので、ひとりで悩むという感じはなかったですね。自分としては、世の中の動向の精密なデータを集め、分析してチーム内に発信できるようになったことが収穫です。

各世代が想いをつなぎ自分たちの10年後をつくっていく

 新しい世代が自ら会社の将来をつくっていく環境が芽生えた今、ジェイ・エム・エスは本活動で培った発想力や手法を基盤として、さらなる挑戦を続けている。

 たとえば、国が推進し、産学連携で取り組まれている「バイオデザインプログラム」への参画も新しい挑戦のひとつだ。このプログラムの目的は、現場目線でニーズの本質をつかみ、それを医療機器のイノベーションにつなげるところにある。中川氏は「これまでの、『何が必要ですか。競合他社より少しでも良いものを』といった顕在するニーズから、医療現場で当たり前にやられる行為に潜む潜在ニーズを技術者自らが見出していくことで、起承転結の転を変えていく取組みの重要性を感じています。われわれにはJMACに教わった考え方や手法という実現に結び付ける手段のトレーニングを積み重ねており、これとバイオデザインの考えの融合がポイントです」と説明する。

 続けて中川氏は「普通は、『10年先のことを考えても何が起こるかわからないから無駄ではないか』と思いがちですが、『10年先にはどうしたいか』をしっかり考えて現実路線に落とし込んでつなげる、という発想に切り替えができるようになってきました。『このテーマでこんなことができる』とワンランク上の提案ができるようになり、いくつかのテーマはすでに具体化しています。メンバーたちには、これからもさらに積極的に取り組んでいってもらいたいですね」と期待を込める。

 佐藤氏は、「こういうことを考えて取り組んでいく人間を代々つくっていくことは非常に重要で、われわれにとっての一番の課題だと考えています。JMACには引き続き事業全体の見直し改革に力を貸していただいていますが、われわれ自身が将来に対する危機感を持ち、若手のみならず各世代が『自分たちの10年後をつくっていく』という継続した会社にしていかなければなりません」と未来を見据える。

 人・事業・未来――人と事業をつなぎ、未来につなげていく――“若手の発想”を活かし、未来志向の事業展開を目指すジェイ・エム・エスの新しい挑戦は、今始まったばかりだ。

バイオデザインプログラムを実践してみて

井手氏:以前は技術のシーズ目線での研究でしたが、バイオデザインによってニーズを常に意識するようになりました。自社だけでなく外部の力を積極的に取り入れる発想も出てきました。
林氏:ニーズのウェイトが重くなり、ニーズの言葉の意味をもっと突き詰めて考えるようになりました。社内にいながら“起業家”として事業を起こすチャレンジが可能になったと感じます。

JMS

中央研究所 第4研究室 井手 純一 氏(写真左)、同・第1研究室 林 裕馬 氏

担当コンサルタントからの一言

今日の研究開発者に求められる起業家精神

かつては、ある技術を特許化して儲けるモデルが主流でしたが、今日の成熟市場ではそれが通用しなくなっています。こうした流れの中、研究開発者には特定の技術分野を深掘りするだけでなく、起業家の目線で事業機会を捉え、自社ならではのビジネスの創出を求められるようになりました。ジェイ・エム・エス様は全自動透析システムをはじめ、数々の先駆的な技術開発で医療の発展に貢献してこられました。これからは一連の活動に参加された専門技術と起業家精神とを併せもった次世代リーダーたちを起点に、常に新しいビジネスを考えることが会社の「当たり前」になることで、さらに飛躍されることでしょう。

細矢 泰弘(シニア・コンサルタント)
高橋 儀光(チーフ・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.63からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。

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