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那須ダイワ株式会社

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“負のスパイラル”打破に向かって改革進行中

那須ダイワ

業界大手のメーカーとして、豊かな創造力で最高の釣り具を生み出し続ける那須ダイワ。
フィッシングブームに乗って国内市場規模が増加傾向にある一方で、追い風に乗り切れない「負のスパイラル」を抱えている。飛躍するために改善すべきこととは何か。

那須ダイワの課題

IK活動の推進/人材の育成/技能の標準化/品質不良撲滅

市場増加でも、追い風に乗り切れない社内事情

釣り用品の国内市場規模は増加傾向にある。一般社団法人日本釣用品工業会の『釣用品の国内需要動向調査報告書』によると、2020年の国内出荷額は対前年比110.7%の1547億円となった。那須ダイワが主に生産している釣り竿の部門別を見ても同様で、釣り竿の国内出荷額は2021年で前年比119.4%を記録。2022年度も増加が見込まれている。

新型コロナウィルス感染拡大の影響で、旅行をはじめさまざまなレジャーが自粛されたことで、「3密」に該当しないレジャーとしてフィッシングに注目が集まり、既存の釣り人に加え、初めてチャレンジする人、しばらく遠ざかっていて再び始める人が増えたこと、さらにはリモートワークの普及でフレキシブルなワークスタイルが可能となって、平日釣りに行く人が増えたことがプラスの主要因と考えられている。

市場が増加傾向にある中、那須ダイワは追い風に乗り切れない事情を抱えていた。代表取締役社長・菅谷英二さんが述懐する。

菅谷英二さん

▲代表取締役社長・菅谷英二さん

「注文の数字はびっくりするぐらい伸びてきました。ところがコロナの影響で2020年3月頃から中国から輸入している部品が入ってこない状態になり、結果として生産が間に合わず、バックオーダー(注文を受け付けても在庫が間に合わず、出荷ができない、発注者が入荷待ちになっている状態)が増えるという状態になってしまいました。一時期はバックオーダーが数カ月分におよび、まさに一大事でした」

市場拡大の要因の一つとされるコロナ禍は、輸入に悪影響を与えるという皮肉な状況を生んだ。さらに続ける。

「バックオーダーを解消することも大命題でしたが、実は別の問題を解決する必要に迫られていました。私がここに来たのは2020年4月(親会社のグローブライドから出向で社長に就任)。それは工場で働く人たちに関すること。つまり人の問題です。社長就任以前から出張でここには来ていたので、状況はよくわかっていました。たとえば会議を見ていても喋っているのはトップだけで、みんなからは意見が出ない。組織全体になんとなくですが覇気を感じないのです。就任時は、ここは改革ありきだと思ってここに来ました。ただ、その時点ではまだJMACさんへの依頼はまったく考えていませんでした」

JMACにコンサルタントを依頼したのはこの年の8月。

「その後、社内にいろいろ仕掛けをしても納得のいく良い効果は得られませんでした。そんなとき、かつてタイの工場の立て直しを成功させた本社の常務が立て直しのサポートをしてくれたJMACさんのことに触れ、『那須ダイワもやってみるか』と、声をかけてくれたのです。」

JMACのシニア・コンサルタントの角田賢司が菅谷さんを訪ねたのは2020年8月3日だったと振り返る。事情を話すと8月の終わりには動き出した。

KEYWORD① 2021年前年比119.4%

那須ダイワが生産している釣り竿の分野別国内出荷推移。コロナ禍となったここ数年で需要が伸びていることがわかる

谷間の年齢構成解消へ 人材の確保・育成が急務

那須ダイワが抱える「人の問題」とは、次のような事情があった。「端的に言えば、人が増えないことです」(菅谷さん)

社員寮もなく、近隣にアパートもない。当然就職してくるのは通勤圏内の人。ところがこの地域は過疎地域に指定されたほど、人がいない。そもそも人が集まりにくい地域なのに「辞めていく人も多い」という。

さらに仕事の内容も人的問題に直結しており、那須ダイワの悩みを深くする。
那須ダイワのつくる釣り竿というのは、工程の多くが手づくりで進められる。それゆえに高品質で繊細な仕上がりを生み、釣り人から厚い信頼を得ている。しかし、人が集まらなければ、育つ従業員がいない。習熟しなければ層が薄く、習熟者への負担が集中し、工程の要所で滞ってしまう。そうして生産性が向上しない。バックオーダーを解消するためにも、人の問題への取り組みは不可欠だった。

2021年12月調べの那須ダイワ社員の年齢構成は下図のとおり。
25~45歳の合計が16%。働き世代の35~40歳にいたっては0%で一人もいない。その前後の世代の人数が多く、年齢構成としては谷間型になっている。熟年と若手に偏った、この歪な年齢構成こそ那須ダイワの悩みを物語っている。

年齢構成

「この状態から2025年には図の右のような構成にしたいと思っています。そんな構想を持ちながら、増産もしていかなければいけない。それで、私もいろいろ焦ってしまうんですね。それが現場のリーダーにも伝わって…かなり言い方もきつくなってしまい、それで辞めていく人も多かったですね」

悪循環となって、問題はより一層深くなる。
担当となったコンサルタントの有賀真也は、そんな那須ダイワの状況を見て「負のスパイラルに陥っている」と指摘。資料(下図)をつくって解説し、理解・協力を説いた。

負のスパイラルからの脱却

「工場内をちらっと見るだけでわかっちゃって、ずばっと核心を突かれましたね」(菅谷さん)

菅谷さんや幹部社員に理解を得て、有賀は「脱負のスパイラル」へのサポートを始める。


コンサルタント有賀

会議に出席して指導する担当コンサルタントの有賀真也(中央)

スタッフが自発的に生産性向上活動を進める見守り指導

改革の基盤としたのはIK活動の推進。IK活動とは「今を変えるImaKaeru」「意識改革IshikiKaikaku」の意味を持つ那須ダイワ生産性向上活動の標語。活動内容は幅広い。個人の意識の変化、仕事への取り組み方はもちろん、周囲との連携、チームワーク、部署を越えた共通認識やルールの取り決めなど、やることは山ほどある。

コンサルタントの有賀は、品質不良撲滅対策として塗装・組立品質改善チームの発足を指導。現場のメンバーで構成したチームは現在も毎週、時間を決めて、各種調査・分析、改善施策の立案・実行を進めている。

分科会の設立にも関わった。
「分科会のメンバーは、こういう活動にはまったくの素人。JMACさんがうまく導いてくれました」(菅谷さん)

こうして、生産性向上WG(工程改善チーム・5Sチーム)、改善アイデア具体化・実現分科会、生産管理仕組み改善分科会、標準化推進分科会、人材育成マネジメント分科会、塗装/組立品質改善プロジェクトの、6つの組織が組まれた。

KEYWORD② IK活動

取材中に不良対策チームが緊急招集。不良の原因を至急探る。これもIK活動のひとつ

IK活動

技能の標準化は積極的に推進した。手順書を作成したり、習熟者の動画を撮ったり、そのノウハウをアドバイスし、習熟者育成に努めた。その進行中、菅谷さんは有賀の言葉に最初は懐疑的だったとか。
「せっかく改善活動を覚え始めたメンバーを交替させてみましょうと提案されたのです」

経験値が上がれば、担当者はどんどん改善活動に慣れて腕が上がる。
「私ならテーマが完結するまで替えません。なんでだろう、と思いましたね。後からわかったのですが、特定の担当者に頼った場合、その人が現場を離れたら、戻ってくると仕事が溜まっているわけです。すぐに補える分量だったとしても、これが続けば負担を感じるようになる。しかも、仕事を覚えて面白いと思っていてもマンネリを感じたら嫌になってしまうこともある。だからどんどん替えていきましょうと。多くのスタッフが工場のさまざまな改善課題を共有することはベクトルを合わせるうえでも有効である。また、意識の高い社員の交替は他の社員への影響を与え、IK活動の普及にもつながると。なるほどなと感心しましたね」

新鮮な血液を循環させるような指導。新陳代謝は組織にも大切なことだ。
IK活動が目指すもののひとつにあるのは社員の自主性の向上。自走するという表現の方が的確かもしれない。菅谷さんも気にかけている案件だ。だから「もしJMACさんと契約更新できなかったとしても、自走できるように」と想定して改革を進めている。そしてコンサルタントの有賀も、そのつもりで指導を行い、基本的には見守る立場に徹している。

そんな指導が功を奏し、スタッフから自発的に始めた活動が続々と生まれる。塗装・組立改善チームによる「キズパトロール」と「ホコリパトロール」は好例だ。塗装課課長・遠藤崇史さんが解説する。
「キズパトロールは、4人1組のメンバーで毎週、工場内を巡回します。製品の置き方や並べ方、置き場所、台車、傷防止カバーなど、チェックシートに従って確認します。結果は現場作業者に伝わるよう、掲示物の作成や具体的な置き方の指導を実施しています」
「ホコリパトロール」は、目に見えないホコリを見つける活動。ホコリは塗装作業の天敵で、ホコリが付着すると不良の原因となる。塗装エリアは常にクリーンな空間が保たれているので、繊細な点検が行われている。

「3人1組で毎週行います。壁、床、台車などに特殊ライトを当てて、ホコリやゴミがたまっていないかチェックします。ホコリを見つけたら清掃方法を改善します」(遠藤さん)
これらパトロールのスタッフは持ち場を中座して行うため、自分の仕事がたまることになる。つまり持ち場の周囲の人たちの理解が必要となる。なかには作業場を離れることに「気まずい」と思ってパトロールに向かう人もいるらしい。
それでも自発的に続けた結果、2021年11月には社内全体の検査不良率減少の最高記録更新。その成果がしっかりと数字に表れた。

KEYWORD③ キズパトロール

製品の置き方や並べ方、置き場所、台車、傷防止カバーなどを確認し、結果を掲示板で告知する

キズパトロール

KEYWORD④ ホコリパトロール

塗装の天敵となるホコリを確認する活動。特殊なライトでチェックし、ホコリを見つけたら清掃方法を改善する

ホコリパトロール

「人の問題」解決の手掛かりとなる若い芽は育っている

IK活動をベースにJMACが指導してきたコンサルタントは、現場での視点からはどのように見えたのだろうか。マスキングエリアのリーダー・中津川歩さんに聞いてみた。

津川歩さん

▲中津川歩さん

「以前、5S活動のリーダーをさせていただき、改善活動の大変さは重々体験しました。活動するにあたって、どうしても自分の作業の時間が取られてしまうので、正直きついと感じたことは何度もあります。それと定位置の管理や整理整頓など、周囲に教育を徹底することはそう簡単なことではありませんでした。ただ、改善を実行して職場がきれいになって、生産活動がスムーズになったときにはやってよかったなと。私は社内の年齢構成でいうと谷にあたる世代。立場的に人材も育成します。指導しているときは自分の作業が遅くなるので、その葛藤はありますが、一人前になってくれると嬉しいし、充実感があります」

次は印刷機械担当の齊藤翼さん。入社4年目の若手だ。

齊藤翼さん

▲齊藤翼さん

「IK前はあいまいでしたね。IK後は意識が変わって、より深く数値を追うようになりました。習熟度が上がって、ねらいの数値に近づいてきた。今はそれをやりがいに感じています。なぜ改革をするのか、その意味を理解することは仕事の中身を理解することにつながり、より仕事の面白味を感じています。若い戦力としてこの会社に貢献していきたいですね」

那須ダイワの抱える「人の問題」は、一朝一夕では解決できない課題かもしれない。しかし、それを解決してくれる手掛かりとなる若い芽は確実に力強く育っている。管理職の立場から見つめる遠藤崇史さんも目を細める。

遠藤崇史さん

▲塗装課課長・遠藤崇史さん

「会社がこれからどんどん良くなると実感しています。みなさん、能動的、自主的に活動に参加しているし、若手が発表できる報告会では、その言葉や熱量がすごくよくなってきました。仕事に良い影響が出れば、間違いなく自分の給料にも反映されます。そうなればやってよかったなと思ってもらえるはず。だからこそ絶対IK活動は続けないといけません」

飛躍の第一歩はスタッフが自走できる組織へ

改革を進めておよそ1年半が過ぎた現在、那須ダイワはどのような結果を得たのだろうか。菅谷さんは言う。

「経営に関わる数字というのは、期待する伸びはありません。確かに自主的な意識の高い社員が増えて職場の雰囲気は良くなっています。でも、せっかく彼らが自分の時間を削って活動を続けていても、今の給料は一緒。やはり生産性がもっと伸びないと収入も上がらない。みんなが潤えば人材が定着しやすくなると思いますし、そこは冷静に見つめています」

まだまだ課題は残るも、これまで以上に手ごたえは感じている。
「JMACさんの指導で標準化をどんどん進めて、初級作業者の生産性が178%も上がるという結果を得ました。私も標準化が生産性にこれだけ影響することがわかりませんでした。パトロールによる不良品減少の記録更新も良い材料です。JMACさんが毎週足しげく通ってくれたおかげで、気がついたら知識が増え、考え方が変わり、力がついてきています。今が踏ん張りどころです。飛躍の第一弾としては、JMACさんの指導がなくても自走できるようにならないといけませんね」

※社名・役職名などは取材当時(2022年3月)のものです。

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