TIS株式会社
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技術KIによる共通の業務推進基盤づくりで新たな風土・文化づくりに貢献
これまで様々な組織変革に技術KIを活用し、社内に広く浸透しているTIS株式会社。同社は2011年4月に3社合併した。それぞれの文化、風土の融合を図りつつ、合併シナジー効果を出そうと、全社的に技術KIを展開させた。その導入のプロセスや成果、今後の展望についてお聞きする。
技術KIが現場との距離を縮めた
TIS株式会社(以下TIS)は1971年に株式会社東洋情報システムとして設立以降、金融業や製造業をはじめとする幅広い業種の企業において、基幹システム構築、運用等を手掛ける大手システムインテグレーターだ。2000年に現社名へ変更し、その後も様々なIT関連企業とのM&Aを経て、事業規模を拡大。2008年4月には株式会社インテックホールディングスと同社とで共同持株会社「ITホールディングス株式会社」を設立した。現在は同グループの中核企業である。
TISは1995年頃よりQMS(品質マネジメントシステム)構築を本格化させ、技術KI(Knowledge Intensive Staff Innovation Plan:知識集約型スタッフの生産性向上)の全社導入を図った。
「当時、私は部長になる前くらいでした。技術KIに初めて触れ、それ自体の内容についてはすごくいいものだと思ったのですが、とにかく負荷が大きい。ネガティブにとらえる人が多かったのも事実です」と常務執行役員 後藤 康雄 氏は当時を振り返る。
常務執行役員 コーポレート本部
副本部長 後藤 康雄氏
しかし、負荷と労力が多い一方で、部下とのコミュニケーションが増え、現場との距離が縮まり、これまで見えてこなかった現場の実態と課題が見え始めたのも確かだ。
後藤氏はあるエピソードを語る。「2006年頃、私は事業部長だったのですが、報告上はうまくいっていると聞いていたあるプロジェクトについて、発表会の場で一社員が直接私に訴えたんです。『後藤さん、知っているんですか?このプロジェクト、トラブっているんですよ』と。勇気をもって言ってくれたことで、早い段階で手を打ちプロジェクトを修正することができたんです」
直接メールや口頭では言い出しにくいことも、一堂に会する対面の場だからこそ発信でき、建設的な議論ができるのだ。技術KIは現場との距離を縮め、適切な手を打つための有効なマネジメント手法だと後藤氏は話す。
3社合併!新生TIS誕生
そんな中2011年4月、TISはソラン株式会社(以下ソラン)、株式会社ユーフィット(以下ユーフィット)と合併した。ITホールディングスグループ内で親和性の高い3社ではあったが、当然企業文化や風土は3社3様に異なっていた。
「TISはどちらかというと、SI志向。我々から顧客へ提案し、受注してしっかり仕上げ、次の運用までつなげていこうというスタンス。ユーフィットもそれに近いところはありますが、大きく違う点は生い立ちが銀行系ということ。傘下の企業と一緒にシステム開発をやってきた経緯があり、顧客がある程度はっきりしていたんです。ソランは顧客がある程度コントロールする中で、役割をきっちり担うという仕事のやり方でした」(後藤氏)
そのためソランもユーフィットも比較的上意下達がはっきりした中での仕事が中心で、特定の問題解決手法を全社的に導入する必要性に迫られていなかった。つまり、それぞれの文化風土の違いにより、マネジメントスタイルも異なっていたと言えるだろう。
TIS流 組織・文化の融合は、技術KIで共通言語から
しかし、文化・風土は違えど、3社合併のシナジー効果を生み出す仕組みづくりが不可欠だった。
文化風土の違う人材が入り混じっていく中で、業務の標準プロセスであったり、企業文化の融合を早期に図っていく必要があった。そこで、共通のコミュニケーション手法として技術KIを全社に再展開した。
「現場でやる仕事の手順、考え方というのは統一した方がいい。技術KIのいいところは、直接仕事そのものに対して手順化をしていることで、どんな仕事にも適用できる点。我々の仕事は、チームで一つのソフトウェアを作り上げるものですから、個人の能力とチームとが両輪となり、生産性をあげていくものだと思うんです。そういうところに技術KIはとても役立つのではないかと」(後藤氏)
プロジェクト計画はある程度プロジェクトマネジャーが概略をつくるとしても、その内容自体はチームメンバーへと展開していかなければならない。その際プロジェクト背景やアウトプットが何であるか、そのチームの役割が何であるかを明確にする必要がある。また、さまざまなタスクや課題をばらし、どんな技術を使うのかといったことを議論しながら、仕事を細分化して見える化する必要がある。その上で、個人にタスクを割り当てていき、納得して進めてもらうような仕事の段取りが大切となる。その後はきちんとPDCAでまわしていけばよいわけだ。
「やっていること自体はオーソドックスだと思うんです。大切なのは同じ概念、同じ言葉で違和感なく仕事ができるかで、それができて初めて新たな知恵も生まれますし、コミュニケーションの活性化にもつながると思うんです。それを全社に展開していきたかったのです」(後藤氏)
技術KI導入の柱となった具体的施策とは?
技術KI導入の柱となった三つの施策
TISでの技術KIの取組みの歴史は長く、過去にBusiness Insightsでもご紹介した「『Newちけっと』活動(Vol.39)」のように、その効果や威力を実際に経験してきた幹部も多い。
「前の『Newちけっと』の時は段階的に導入しましたが、今回は3社合併により全体で技術KIを実施するわけで、少しでも評判が悪いと推進できない。満を持して取り組む必要があったのです」(後藤氏)
具体的な施策は三つ。一つは11部門を対象にした半年間のコンサルティングで、もう一つがリーダー向け基礎研修、そして、三つ目は社内の「推進役研修」だ。
現場部門での円滑な双方向情報伝達と業務課題解決を狙いとしたコンサルティング実施にあたっては、TISとJMACコンサルタントで対象部門ごとに具体的な目標づくりを喧々諤々やりあった。「目標づくりにおいては、現場でのヒアリングも実施。私と事業部長も入り、その内容を聞いてレビューを繰り返し、合意と納得の上で計画と目標をつくっていったんです。ですから、最初の段階は2ケ月を掛け、かなり丁寧なスタートだったのではないかと思います」(後藤氏)
その際担当したチーフ・コンサルタントの中村素子は「今回は部門ごとに活動するため、それぞれの事業部長とこの活動でどこを目指すのか、そのためにどういうコンサルティング方針でやっていくのか、「そこまでやるか」といわれるレベルまで踏み込んだ計画を策定しました」と話す。
また、技術KIを受け入れる共通基盤づくりを狙いとしたリーダー向け基礎研修については、実施目的や目標を設定し、カリキュラムも一から開発。大規模な基礎研修実施へと一気に進めた。中心となった、コーポレート本部人事部人材育成室長 竹川智子氏は言う。
コーポレート本部 人事部
人材育成室長 竹川 智子氏
「ユーフィットもソランも、こういう手法の研修は過去に一度も実施したことがありませんでした。リーダー層に『これはうちのチームでも使える!』と実感していただける形にアレンジして作り込みました。研修の評判は上々。最初の取っ掛かりとしては、狙いどおりの感覚をもってもらえたと思います」と振り返る。
半年間のコンサルティングとリーダー向け基礎研修、そして推進役研修、三つの施策が連携して相乗効果を出したと言える。
成果は随所で出はじめた
今回、技術KI導入の背景には桑野社長の意向もあるが、ラインの風通しをよくすることも目的の一つだった。
「合併したのですから、当然ラインで人材が入り交ざるわけですね。そんな中、経営層から様々な指示が出た時、うまく現場に伝えていけるのかという大きな課題がありました」(後藤氏)。
事業部長から現場の人まで参加する技術KI発表会は、様々なメッセージを伝える有効な場となった。
また、現場サイドでの成果例について「あるチームではリーダーに仕事が集中し、抱え込む状態になっていました。部下が若いから任せられないと思われていたので、ではこういうやり方でやってみたらどうかとタスクの見える化を提案しました。すると、部下は書き出されたタスクを見て状況を把握し、自ら積極的に仕事を引き受けにいく姿勢にかわりました」と竹川氏は一例をあげる。
「結局、今まで彼らも相談するところがなかったと思うんです。ところが話せば事業部長も他の人も反応し、アドバイスし、一緒に考えてくれる。それを実感すると色々な情報を積極的にあげるようになった。結果的にコミュニケーションが活発になり、風通しもよくなったんです」と後藤氏は話す。
これまでマネージャー層が部門の問題について話合う機会が多くなかった部門でも、複数のチームでマネジメントKIを実施するなど、自分たちから発案し、行動するにまで至っている。これも成果の一つと言えるだろう。
技術KIの更なる定着を目指す
今後の課題について後藤氏はこう話す。
「かつて『ちけっと活動』の時もそうでしたが、何事においてもマンネリ化は避けられない。それを打破し、上手く定着させることが最大の課題です」
TISでは技術KI定着のため、各部門に推進リーダーを置き、研修を受けた推進役が技術KIを部門内に深く浸透させけん引している。
「我々の仕事はお客様満足度を向上させることが必須です。顧客満足度をあげることで次の領域確保につながりますし、ひいてはお客様が競争相手に勝って事業を拡大し、また我々に仕事を任せてくださる。お客様の成功こそが我々ビジネスの成功なのです。今後はこれまで以上にお客様の視点に立った要素も、技術KIの中に組み込んでいきたい。そういう面からの支援もJMACさんにお願いしたいと思います」と、展望について後藤氏は語った。
2011年、3社合併を機に「チーム力向上施策」と銘打って展開された今回のTIS技術KIは、これまで一定の成果を上げつつも、まだ会社全体に浸透し、真の威力を発揮するプロセスの途上だと言えよう。
今後も技術KIを、同社がさらなるシナジー効果を発揮しつつより一層の風土・基盤づくりの武器として活用し続けていくことを期待したい。
お話いただいた方
後藤 康雄氏 / 竹川 智子氏
担当コンサルタントからの一言
継続的に改善し続ける組織への第一歩は「見える化」から
IT・情報システム業界は、時代をけん引し急速に成長拡大してきました。成熟期に差し掛かった現在では、一人ひとりが成長しながら生産性の高い仕事の進め方をすることが求められています。TISさんでは「個人の急速成長」と「チームで戦う力」の両輪をバランスよく展開されています。
その結果、職場の中に次々とドラマが起こり、継続的に改善し続ける風土へと変わっています。
中村素子(チーフ・コンサルタント)
※本稿はBusiness Insights Vol.49からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。
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