業務改革を同時実現する『基幹システム再構築』推進
第5回 基幹システム再構築の方式とそのトレンド
- 業務改革・システム化
福井紘彦
前回は、基幹システム再構築プロジェクトにおける業務改革の必要性を述べた。
今回は、近年、基幹システム再構築時に志向されている「Fit to Standard」について述べたい。
Fit to Standardとは
これまで、基幹システムを再構築する際は、自社で実現したい要件を明らかにし、それらの要件をいかに満たせるかが重視されてきた。要件に合わせ、スクラッチの場合ゼロからシステム開発を行い、パッケージシステムを活用する場合カスタマイズやアドオン開発を行うといった具合だ。そうすることで、自社がこれまでやってきた業務(その多くが、独自性の高いものや、複雑なものだったりする)に対応できるようにしてきた。この考え方は、「Fit&Gap」と呼ばれ、「システムを業務に合わせる」アプローチである。
一方、「Fit to Standard」とは、「カスタマイズやアドオン開発を極力行わず、パッケージシステムが持つ標準機能を最大限活用する」といった考え方であり、「業務をシステムに合わせる」といったものだ。近年はこのFit to standardを志向する会社が増えてきている。
Fit&GapとFit to Standadは、主に以下の違いがあると言われる。
DX化の第1歩=Fit to Standard
では、なぜFit to Standardが注目されているのか。
その理由は大きく3つあると考えられる。
- 事業環境変化スピードの高速化
- SaaSを代表とするクラウドサービスの拡充
- IT人材不足(2025年の崖)
基幹システムの場合、プロジェクト立ち上げからカットオーバーまで少なくとも1年、一般的には2年程度要する。プロジェクト立ち上げ時の事業環境や、その時点の課題を前提とした要件でシステムを構築したとしても、カットオーバー時にはその要件は既に陳腐化してしまっている可能性がある。事業環境変化が激しいこの時代において、業務のやり方は常に見直しが必要であり、基幹システム類も柔軟性をもって迅速に変化に対応できることが必要となる。
近年、SaaS等クラウドサービスが拡充したことで、それら柔軟性と迅速性を実現できるようになった。
SaaSを利用した場合、それらサービスのアップデートは自動的に行われ、ベンダーへのアップデート作業依頼やアップデート後の動作検証等を自社で行う必要性が基本的には無い。加えて、カスタマイズやアドオン開発をした場合、当該箇所の仕様を十分に理解した上でのアップデート対応が必要となる。そのため、開発ベンダーへの依存度合いが高まる訳であるが、開発ベンダー側もIT人材(エンジニア)が不足している状況にあり、迅速な対応が困難になっているケースを耳にする。
また、それらの仕様を開発ベンダーへ的確に伝達する自社のIT人材が不在のケースもある。
経済産業省のDXレポート※では、所謂「2025年の崖」の背景の一つとして、「既存システムの過剰なカスタマイズによる複雑化・ブラックボックス化」を指摘している。Fit to Standard志向は、DX化の第一歩と言えよう。
実現させる機能の見極めとトップによる啓蒙が重要
一方、Fit to Standardとは「何がなんでも標準で片付けよう」という考え方ではない点に留意が必要だ。無理に標準へ合わせた結果、顧客へのサービス水準の低下等、自社の競争力や優位性が損なわれてしまうリスクも想定される。自社の強みを消さないためにも、システム標準に合わせる部分とそうでない部分の見極めが重要となる。
そこで、システム化を図る上での要求要件を層別し、本当に必要なものを明確にする工程がキーになる。一般的には、MoSCoW分析と呼ばれる手法を用いる。たとえば、以下の様な観点で確実に実現すべきものを見極める。
- 「法令順守(要件が実現しない場合、法令違反となる)」
- 「製品・サービス品質担保(要件が実現しない場合、製品やサービスの品質・安全性が損なわれる)」
- 「重要顧客へのサービス水準維持・向上(要件が実現しない場合、売上に大きな損失がでる)」
- 「業務効率への大きな影響(要件が実現しない場合、業務効率が著しく損なわれる)」
これらのうち実現できないものは、別途アドオン開発や他システムとの併用、ローコード/ノーコードアプリでの開発等を検討する。
3、4で考える際は、現状に引っ張られることなく、前回(第4回コラム)で述べたように、業務改革の視点も含め、精査することが大切である。
「取引先がNGを出すだろう」と固定概念にとらわれることなく、一度は相手方に改善提案をもちかけてみるのも良いだろう。ある企業で請求書類を電子化した際は、「ずっと紙でやってきているし」と半分ダメ元で交渉をしたところ、約8割の取引先が電子化に合意してくれたという事例もあるそうだ。
最後に、Fit to Standardアプローチでは、現状の業務手順を大きく変える必要のある場面も発生する。そうすると、現状のやり方に慣れ親しんでいる現場からは反発の声が挙がったり、新たな業務手順が定着するまで一時的に業務効率が低下したりするリスクが想定される。このアプローチを採用する際は、経営層が同じベクトルを向いた上で、各部門(特に実務担当者)へ丁寧な説明をおこない、業務改革への理解と協力を仰ぐことが重要だ。
次回以降は、基幹システム再構築の推進ステップや各ステップにおける課題に関する発信を予定している。
※引用
経済産業省「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf
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