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第65回 「業績評価を革新する(2) ~『目標』評価モデルの作成~」

  • 営業・マーケティングの知恵ぶくろ

笠井 和弥

「目標」の評価への組み込み

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事例会社の営業本部の課長は、前回ご説明した現状を推理分析しながら、次のような整理をしました。 現行の「達成率」法にA所長は、目標設定時の目標そのものの評価をしろと言います。 一般には「対前年比」法の併記がとられているけれども、これとて、実績段階における実績の一評価にすぎません。 ただ、目標設定時に目標を前年実績の何割増という形でチェックする方法は、確かに目標設定時の目標の評価法として用いられています。 つまり、「対前年目標アップ率」法とでもよぶべきものです。 たとえば、表2の7欄「目標向上率」がこれに相当します。

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そこで、営業本部課長は、この考えをフォーマルな評価制度にとり入れてみたらどうか、ということに気がつきました。 早速、A、B、Cの各営業所の評価試算に入り、表3を作成しました。 しかし、作成後彼はハタと困ったのです。新評価点が、表2の「昨年比」と全く同じになったからです。 考えてみれば、新評価の公式は、「目標向上率」×「目標達成率」=「新評価点」であり、 これは次の計算公式によります。

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これでは「対前年比」実績の計算にすぎないのです(表4参照)。 確かに、「対前年実績に対する目標アップ率」は、目標設定段階での目標そのものの評価法には違いないのですが、表3のような評価法に集約すると、意味がなくなってしまいます。 極論すれば、〈目標=前年実績〉と大差ないからです。

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「目標」=「前年実績」ではなぜ悪いのでしょう。 確かに、結果としては、前年実績がそのまま目標でよい場合など、その何%増しでよいこともありうるでしょう。 では、駄目な時はどんな場合なのでしょうか? 目標とは"組織が好ましいと思う方向"であり、"好ましい方向への好ましい歩み寄り、またはチャレンジの程度や度合"を示すものと考えてよいのではないでしょうか。

とすると、前年実績やその自然増分だけ増しという目標もあってよいでしょう。 また、対前年比などではお話にならないといった、戦略的目標が期待されなければならない時だってありうる、というふうに割り切れます。 前者がB営業所だとすれば、AとC営業所は後者のケースとも受け取れます。 しかし、問題は両者の数字を、数字ということで同質に扱ってよいかどうかです。 同じ10%といった場合、ある地区では問題にならないが、ある地区では極めて重要とみなさなければならないことがあるはずです。 この差は何によって測るべきでしょうか? やはり、企業の好ましい方向への必要なチャレンジだとすれば、企業が方針として戦略的に打ち出し、管理政策的にウェイトづけして評価すべきものです。

であれば、あるものを基準として測定される「目標アップ率」に対する評価は、企業がその時に好ましいとか、必要であるとの観点から、一律でなく、政策的にウェイトづけした形で立案し、目標設定以前に明示すべきではないでしょうか。 この政策的評価係数を無視したために、表3ではおかしな結果となり、混乱したのです。 評価係数を入れれば、結果は異なったものになります。 また、評価係数のつけ方次第で、マネージャーには、"いま、何を会社が欲しているのか"が具体的にわかり、さらに、"目標を、あるいはその計画を好ましい方向"に、事前にコントロールすることもできるのではないでしょうか。 これができれば、営業目標をプランニング段階で評価できると同時に、コントロールもできる。 これこそが、業績管理システムの革新方向ではないでしょうか。

「目標」評価モデルの作り方

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課長氏は、ここまで発想を展開すると、この考え方を営業幹部にわからせるために、まず事例計算し、それを材料として猛者連中の経験や頭の中にあるものを引き出し、より実用可能で有効なシステムに肉づけすることを推進してみようと決意しました。 表3をベースとして、目標評価係数を適宜代入していく作業を行ったのです。 例えば、表3の目標向上率100を係数1とした場合、Aの1.66はいくつで、Cの0.72はいくつと評価するかです。 まず、Aの1.66を"好ましい方向へのチャレンジ"とみて仮に3と評価し、Cの0.72を好ましくない方向への消極チャレンジとみて0.8とおきます。 この場合の評価結果は、表5の通りです。

表5をみればわかるように、目標達成率の評価順位とは全く逆の順位になります。 前年実績比の順位とは同じ順位ですが、それぞれ順位間の評点差は極端に変わります。 つまり、Aは、前年実績比で+33でよい業績を示していますが、それにもまして高い評点が与えられています。 Cの場合には、前年実績比で-14の減点が-4にとどまっています。 これらは、目標設定が"企業が好ましい"と意思表示している方向へのチャレンジが高く買われた結果を示すものと受け取れます。 ただし、Aの係数3.0、Cの係数0.8が"好ましい程度"を反映しているとの前提においてであり、この点は、あとで会社の方針と照らし合わせて修正することにして、ここでは計算システムに限定して、そのモデル構築を進めることにしました。

課長氏は、上記のようなモデル計算を次々に繰り返しながら、ある壁につき当たったのです。 目標は(対前年比で)いくら高くても、そのまま比例的に累進的評価係数を与えてもよいのかどうかという疑問です。 たとえば、A営業所を考えてみましょう。会社は当初、対前年比の倍の目標を期待しました。 しかし、A所長は約70%アップの100への挑戦で目標を設定しました。 これは、会社の意図からすれば70%のチャレンジにしかすぎません。 しかしA所長とすれば、本音は30%アップの80への挑戦で十分と判断していたのです。

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したがって、会社の好ましさの程度を係数で表せば、表6のような係数体系が望ましいと判断したのです。 たとえば、目標向上率を会社のその時の方針からみて、好ましさの程度に応じて5区分してみます。
表6を例にとれば、

(1)ギブアップ・ゾーン
  これには上限と下限、つまり、考えられないマイナス成長と超高度成長です。

(2)アベレージ・ゾーン
  俗にいう業界自然増です。

(3)減速成長ゾーン
  上記(1)と(2)の間の減速成長

(4)管理成長ゾーン
  過去戦略の定着化等、管理努力で見込める成長。もちろん、戦術展開は必要です。

(5)戦略成長ゾーン
  何か強力な戦略を展開しないと望めない成長。安全サイドとベストの2通りが考えられます。

これらのゾーンごとに、ペナルティのつけ方、あるいはボーナス点のつけ方の程度に変化をもたせます。 この2つのステップを具体的にどう決めるのかが、先に述べた管理指導の政策的配慮企画の見せどころです。 どのように方針へのチャレンジ魅力を感じるように配点するのか、あるいは、どのような方向は回避せざるをえないように配点するのか、これが政策マン・企画マンの腕の見せどころです。

管理システム立案の巧拙は、プランニング段階で、プランニングそのものをいかに好ましい方向にコントロールすることができる仕組みをつくれるかに依存しています。 囲碁で言えば、"当りの発見"です。 相手のレベルが低ければ、直接当りをかけなければなりません。 相手のレベルが高ければ、3手先、4手先の"当り手"を開発せねばなりません。 いずれにしろ、プランニング段階のコントロール配慮がどれだけ意図的に企画できるかによるメリットの大きさは、それが機会ロスの問題であるだけに、計り知れないものがあります。

課長氏は、ここまでモデル原案の構築を作成し、次にB営業所、さらにはC営業所のモデル原案にとりかかろうとしてハッしました。 せっかく考えてきたこのシステム・モデルに、大きな抜け穴があるではないか、しばし絶句です。 それは何でしょうか。。。

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