ものづくりマネジメント最前線
第3回 新時代のサプライヤーマネジメントで高付加価値を生む
- 生産・ものづくり・品質
加賀美 行彦
加賀美 行彦(シニア・コンサルタント)
コロナ禍で各社はサプライチェーンをどう維持したか
今回のコロナ禍の影響でヒト・モノの移動制限を受け、サプライチェーンにもさまざまな影響が出た。各国の都市封鎖に伴う供給停止、航空便減便による輸送リードタイムの延長などで供給遅延も発生した。操業低下による深刻な経営打撃を受けている企業・工場も少なくない。
では、このようなサプライチェーンへの影響に対して各社はどのような対応をしたのだろうか。まとまった統計に基づくものではないが、以下のような対応をした企業が多かったと推測できる。
- 供給の停止や遅延の発生を、個々のサプライヤーへの調査や申告により把握した
- 日々状況が変化していくため、メール・SNS・Web会議などを通じてサプライヤーとの連絡を緊密化して状況把握を進めた
- 供給停止や遅延が発生した場合は、サプライヤー変更や既存サプライヤーの生産地変更、代替品への切り替えを行い、急場をしのいだ
- サプライヤーの経営安定化に向けて、操業対策や支給材・設備の買い上げ、政府補助金活用の支援などを行った
- 今後、感染が再拡大する可能性に対して、在庫の積み増しや調達の複線化、サプライヤー管理システムの高度化などを検討・推進している
安定供給確保への対応策とは
東日本大震災やタイ洪水の経験、さらに近年多発する自然災害の状況を受けて、調達BCP(Business Continuity Plan=事業継続計画)を策定していた企業は多い。しかし、今回のような世界的な感染拡大、ロックダウン(都市封鎖)までを想定していた企業はほとんどなかったと思われる。
こうした状況でも安定供給を確保するには、次の3つの対応策がカギとなる。
1:サプライチェーンの把握によるリスク評価
直接取引のある1次サプライヤーだけでなく、素材段階までさかのぼるサプライチェーンを把握することが、サプライリスク評価・把握のための第一歩である。5~6次といった深いサプライチェーンまでの把握に苦労している企業が多いのが現実だが、時間をかけても着実に把握を進めている企業はある。
2:調達の複線化、在庫保有によるリスク対応
供給リスクを低減するには、在庫保有と調達の複線化(複数社からの調達や、同一サプライヤー内で複数の拠点生産〕が対応策の基本である。在庫保有は、自社保有だけでなく、サプライチェーンを通じて、供給確保ができる在庫が保有されているかの観点が重要である。この観点での実態確認のためにも、前項の「1:サプライチェーン把握」は重要である。
3:サプライヤーとの厚い信頼関係によるスムーズな情報収集
サプライヤーとスムーズに連携するには、普段から厚い信頼関係を構築しておくことが重要である。今回のコロナ対応においても、サプライヤーの経営に与える影響度を確認するのに苦労しているという事例も聞いている。リスク発生時だけ急に連絡を密にしても、確実な情報提供が受けられるわけではない。
このように振り返ってみると、安定供給確保への対応策はいずれも一朝一夕に対応できるものではなく、平常時からの事前準備が重要といえる。
サプライチェーン強化の考え方と要点
近年、サプライヤーマネジメントの重要性が取り上げられることが増えている。サプライヤーマネジメントとは、自社の調達戦略上、どのようなサプライヤーとどのような関係性を構築していくかを具体化する取り組みを指す。ここでは前述の対応策を踏まえ、サプライチェーン強化をねらいとしたサプライヤーマネジメントの考え方を解説する。
サプライヤーマネジメントのねらいは、対象とするカテゴリーの中期的な競争力レベルアップ(QCDTME+R)※の目標を明確化し、その実現に向けた道筋を具体化することである。
※QCDTME+R(Q:品質、C:コスト、D:納期、T:技術力、M:マネジメント、E:環境、R:リスクマネジメント)
縦軸がカテゴリーの競争力レベル、横軸は時間軸を示し、どの時点でどのような水準にカテゴリー競争力を引き上げていくかを表している。このような形で目標とする水準を決めたら、その実現に向けてどのような施策が取れるかを検討して具体化していく。
図は、第1段階では競争重視で3社競合をさせ、第2段階では協業重視で3社を2社に集約したうえで、協働改善などを通じてさらに競争力レベルを引き上げていくことを施策方針にした例である。
また、サプライヤーマネジメントはカテゴリー単位に取り組むことが重要である。カテゴリーとは調達品目の分類を指す。一般的には、原材料系品目は材質別に、加工品系品目は業種別に分類される。
たとえば、全カテゴリーを横断した総サプライヤー数を見て、「サプライヤーの集約」に取り組んでも、あまり具体的な成果にはつながらないことが多い。個々のカテゴリーでは、サプライヤーの集約が競争力強化につながるかもしれないが、また別のカテゴリーでは競争環境を強化するためにサプライヤーを増やすことが有効かもしれないからだ。
カテゴリーの競争力目標の設定
カテゴリー競争力は、サプライヤー評価に基づいて判断する。現状の競争力レベルは、現在取引をしているサプライヤーの評価結果で算出される。目標も評価結果内訳の現状に基づき、いつまでにどの水準を目指したいのかという観点から設定する。
サプライヤー評価は、一般的には、品質(Q)面、コスト(C)面、納期(D)面などの要素で行われているケースが多く、その他に技術力(T)面、マネジメント(M)面、環境対応(E)面、リスクマネジメント(R)面からの観点を含め、総合的に評価することが重要である。
TやMの領域は、将来のQCDを高めていく要素であるため、継続的なモニターが必要だ。また、R領域には、供給安定性確保も含まれる。天災だけでなく、サプライヤーの経営安定性や後継者の有無など、事業継続上、非常に重要な要素となっている。
また、近年は企業がSR(Social Responsibility:社会的責任)を果たしていくことを重視する考え方も広まっている。SRの一つの視点は、地球環境を守り資源や事業の継続性を担保していくことであり、そのような取り組みや商品を評価する観点がE領域である。SRのもう一つの重要視点であるコンプライアンスは、明文化された法律だけでなく習慣や倫理観を持った事業活動を行うことで、こちらはR領域に含まれる。
サプライチェーン強化3つのポイント
では、サプライチェーン強化はどのように進めたらよいのか。冒頭のコロナ対応の振り返りを踏まえ、とくに供給安定性確保の観点から、ポイントを以下の3点に絞って解説する。
ポイント1:重点品の選定する
1つ目のポイントは、重点品を選定することである。会社として社会への供給に欠かせない重点製品を選定し、その製品の構成部材をリスク状況把握の対象とする。リスク対応策は前述のとおり、調達複線化、在庫対応、代替品対応が基本なので、これらの対応をとることが難しいと考えられるものから優先的に検討を進める。重点品は2次以降のサプライヤーまでさかのぼって実態を把握する。
ポイント2:供給リスクの評価をする
2つ目のポイントは、重点品に対するリスク評価である。評価に当たっては、調達環境の分析も踏まえることが重要である。とくに現下の状況では、コロナ禍以前から顕在化してきた米中対立がより激しさを増してきた。
現在、特定国への依存度が大きいサプライチェーンのあり方への反省や国内回帰論も出ており、日本国内回帰に関しては政府も予算をつけるなど、後押しする体制がある。だが、日本は人口減少傾向にあるため長期的には市場が縮小していくと見込まれ、一概に国内回帰一辺倒になるとは考えにくい。
各社のグローバルビジネスの構成などによっても状況は異なるが、自社の事業戦略の方向性を踏まえながら、調達戦略の方向性を見極めてリスク評価を行うことが重要である。
ポイント3:対応策を検討して取り組みマスタープランを立案する
3つ目のポイントは、リスク評価結果に基づいた具体的な対応策の検討と、取り組みに対するマスタープランの立案、推進である。対応策の検討にあたって、まずはリスク対応の基本的な考え方を確認しておきたい。
リスク対応には大きく4つの方向がある。
- 回避:リスクの根源となるものを使用・活用をしないことで、リスク自体を元から絶つ方法である。高リスク部材の採用抑制や低リスク部材への変更、代替サプライヤーへの変更を行う。
- 低減:リスクを小さくするために適切な対策を行うことである。調達複線化、安全在庫基準の見直しなどの在庫保有化、BCP策定、サプライヤーの改善支援などが施策となる。
- 転嫁:リスクを第三者に引き受けてもらう方法である。保険を掛け、リスク対応策を契約に織り込むことなどが具体策である。
- 許容:リスク発生しても被害が小さい、もしくは限定的と判断ができる場合に、そのリスク発生後に対応するという考え方である。
以上のように、調達の供給リスクに対しては、回避→低減→転嫁の順で対応策を検討する。対応策の検討に当たっては、サプライチェーン強化の目標設定が重要である。サプライチェーン強化のための具体的な対策方向は、「サプライヤーを減じる集約化」「新規サプライヤーの探索」「既存サプライヤーとの協働改善」の3つが基本策となる。当該カテゴリーの置かれている調達環境・期限・水準という目標の要素が明確になると、現実的に取り得る施策の方向は絞られてくるのが一般的である。その中でもっとも有効な方向の施策を具体化し、実行計画を策定する。
このような推進体制を確立するためには、リスクに備えた日頃からの対策と、目的・目標についてしっかりした共通認識を持つことが必須となる。
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