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ものづくりマネジメント最前線

第4回 DXで進めるスマートファクトリーの実現

  • 生産・ものづくり・品質

毛利 大

毛利 大(シニア・コンサルタント)

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リモートワークや自動化・自律化、そしてそれらを"見える化"する「DX化」の施策は、コロナ制約下における仕事のあり方と非常に親和性が高く、今後、DX化の検討や導入が今まで以上に加速していくことは容易に想定できる。

今回はこうした状況を踏まえつつ、コロナ制約下の視点だけでDXを見るのではなく、以前から盛り上がりを見せているスマートファクトリー化の課題にどうアプローチすべきかを考えていきたい。

DX実態調査から見る各社の現状と取り組み

下図はDXの取り組みについて、日本能率協会コンサルティング(JMAC)が「IoT実態調査」をもとに作成した、IoTイノベーションカテゴリーマップである。スマートファクトリー化あるいはDX化の推進について、3つのアプローチで取り組まれていることがわかる。

DX推進の領域別アプローチ

アプローチ1:身近な課題解決でDX化を推進する

1つ目のアプローチは図のトライアングル最下層の「Ⅰ.課題解決領域」である。このアプローチでは現場の身近な改善をDXツールで活性化することを考え、試行錯誤(トライ&エラー)を繰り返しながらスモールスタートで行う。DX化のエントリーモデルと言える。

上層部から「ウチの工場のスマート化を考えろ」と指示を受けて失敗する多くは、世の中の便利ツール探しから始めている。「何を実現したいか」を先にイメージし、そのためのツールを選定する思考プロセスが重要である。

JMACが提唱している「IoT7つ道具」のフレームワークには、正しい思考プロセスによるアプローチを体系的に整理されている。

IoT 7つ道具
L (位置:Location) 人やモノを追跡
人・モノ・荷役機器などの所在や導線把握
O (作業:Operation) 人の働き方に注目
作業や動作の認識・測定
S (場面:Situation) その瞬間を記録
不良や故障など発生時の状態・状況把握
C (数量:Count) 自動で数え上げ
出来高・不良・仕掛在庫などの数量把握
H (危険:Hazard) 危険をナレッジ化
危険場所警告や不安全行動の認識
A (稼働:Availability) レトロフィット
設備や機器の稼働・不稼働把握
Q (品質:Quality) スマート品質記録
品質測定や品質状態の把握

アプローチ2:経営課題のブレークスルーでDX化を推進する

2つ目のアプローチは各職場の現場改善だけでなく、工場全体の最適化を目指す領域「Ⅱ.最適化領域」である。
・マス・カスタマイゼーションの実現
・超高速PDCAの実現による圧倒的QCDEレベルの向上
・新製品導入LTの半減
・自動化自律化促進による効率化
・多拠点コントロールワンファクトリーの実現
など、これらの施策の選択は同一業界であっても、置かれているポジションや規模、扱う品種数などの違いで選択すべき姿は異なる。自社が目指すスマートファクトリーはどのような工場になるのか、その答えは各社各様のはずだ。

また、最適化されたものづくりをデザインするためには、工場の中だけで考えていては答えを見つけることはできない。製造機能と関わるさまざまなプレーヤーに対して、どのようなバリューを提供できる工場にすべきかを考える必要がある。

デマンドチェーン、サービスチェーン、エンジニアリングチェーン、サプライチェーン、マニファクチャリングチェーンの5つのチェーンと工場の関係から、自社工場が解決すべき経営課題を明確にし、それらを解決するためのDXの仕掛けを考えるのである。これまでのアプローチでは解決できなかったことを、DXで突破できるかもしれない。

5つのチェーンでDXの仕掛けを考える

経営課題をブレークスルーする際に目指すべきこと

DX化推進における経営課題は、実はDXの有無に関係なく企業として取り組むべき経営課題そのものである。DXはこれらの課題を解決するためのツールでしかない。自社にとっての重点を選択し組み合わせることができれば、それが自社にとっての「最適化された工場の姿」である。一つひとつの経営課題を実現させるために、メカニズムとツールの最適な組み合わせを次の段階で調査選択すればよい。
このアプローチにより、ツールの便利機能に惑わされず、自社が実現したいスマートファクトリーの姿をブレずに描くことができる。

工場全体のスマート化については、イニシャルコスト・ランニングコストとも大規模になる。そうした面からも、経営レベルのインパクトを与える変革のシナリオを描き上げる必要がある。

シナリオを描くときの4つの視点

アプローチ3:3つのエクセレントでスマートファクトリーを実現する

次世代工場、あるいはスマートファクトリーで何を実現すべきか。目指す状態は各社が置かれた環境によってさまざまだ。しかし、その根底にあるものは3つ目のアプローチ「Ⅲ.価値創造領域」による、圧倒的QCDEレベルの実現、あるいは市場への圧倒的付加価値提供の実現である。この宿命的課題を一歩解決に導く手段が、昨今のIoT技術の革新である。

DX化における経営課題から導かれる目指すべきスマートファクトリーの実現には、デジタル化の追求ばかりではなく、「フィジカル」「オペレーション」「マネジメント」の3つの要素すべてがエクセレント(良い状態)になっていることが重要である。

3つの要素をエクセレントにする

「フィジカル」とは生産システムの土台となる個々の設備の能力と生産方式の設計であり、「オペレーション」とはこの理論スペックを最大限駆使し、市場要求に応えるための業務プロセスの設計のことである。基本となるのは、フィジカルとオペレーションの両輪で設計される生産システムをエクセレント(良い状態)にすることである。

「マネジメント」では、この2つの要素から形成される生産システムをモニタリングし、リソースのばらつきを最小限に抑える日常管理に加え、重点課題の"見える化"をする。さらにこの生産システムの高度化を常に促す管理基盤を構築する。

この3つの要素のエクセレントをDXの活用で追求していくこと、これがスマートファクトリー推進のための非常に重要なデザインアプローチである。

3つの要素に5段階の成熟レベルを設定する

工場で3つのエクセレントを実現するには、それぞれの要素に5段階の成熟度レベルを設定し、現状の立ち位置と目指す姿をロードマップに展開していくべきである。

成熟度レベルの5段階

A社におけるスマートファクトリー化構造を例に考えていこう。
生産システムの目指す姿を設計するにあたり、フィジカル、オペレーションの成熟度レベルをマイルストーンとして設定し、ロードマップを描く。また、こうした生産システムを維持・高度化するマネジメントエクセレントの追求も同時に行う。マネジメントレベルの5段階は、データの保有レベル(蓄積、広がり、深さ)とそのデータの活用レベルを評価軸として成熟させていくモデルを想定している。

A社の実情は部門によって差はあるものの、おおむねレベル3であり、決められたKPIの収集と報告を月次サイクルでサポートし、PDCAを機能させている。

そこで、A社でのスマートファクトリー化構想を次のようなステップで進めた。

  1. KPIの再構築
  2. さまざまなセンシングデバイスを用いてそのKPIを構成するデータの自動取得
  3. 既存システムの情報と合わせてデータレイクを作成
  4. BIツールを用いたKPIの可視化・超高速PDCAサイクルの実現を基本思想としてデザインする(取得、蓄積、可視化、活用)

このステップの「仕掛け」の大きなねらいは、工場長から現場のオペレーターに至るまで各階層間で情報の連続性と連動性を維持することである。さらには、KPIと製造原価実績の連動、拠点間でのリソース補完など、将来的には複数拠点があたかも1つの工場であるかのように時間と距離を超越したマネジメント革新も視野に入れている。

もっとも重要な変革(Change MIND、Change ROLE)とは

3つのエクセレントの追求で実現する、より良いスマートファクトリー化において最も重要なことは、そこで働く人の意識の改革や組織での役割の変革である。

"見える化"で提供されるさまざまな情報は、人を評価するために活用されるのではない。一人ひとりが、よりスマートな意思決定と次のアクションにつなげるトリガーとして活用されなければならない。

原価意識を持った日々の活動に加え、より革新的な思考が求められる仕事や改善活動へと働き方がシフトしていくような働き方改革をDXを通じて実現していく----これこそがもっとも重要であり、企業そのものの力を強固にしていくはずだ。

スマートファクトリー化を構想するプロジェクトオーナーとPMOは、単にDX化されて自動化が進んでいる無機質な変革に着目するのではなく、そこで働く従業員の変革にスポットライトを当て続け、改革をリードしていくべきである。

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