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ものづくりマネジメント最前線

第9回(最終回) 次のジャパンブランドを構築する品質とは

  • 生産・ものづくり・品質

安孫子 靖生

安孫子 靖生(シニア・コンサルタント)

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日本の品質はやはり強い。

昨今、さまざまな不適格行為が発覚し、日本の品質神話が崩壊したとの論調もあるが、決して日本企業の品質が劣化したわけではない。むしろ諸外国に比べて、その優位性は現在も保たれている。

世界に先駆けた技術開発に加え、緻密な理論と繊細な感性で実直に積み上げてきたQC活動がベースとなって、戦後日本の経済成長が支えられてきた。「Made in JAPAN=信頼がおける」といったイメージは今もなお、世界市場の共通認識であることは間違いない。

1990年代以降のISO9001の普及に見るように、品質保証活動の中心は品質マネジメントシステム(QMS)の構築にシフトしてきた。QMSがその真価を発揮するのは、QCの技術、全社的QC活動に支えられているからだ。日本は今後も、品質を取り巻く環境の変化に常に追従し、さらには先取りをしていかなくてはならない。

品質を取り巻く環境

アフターコロナで加速する国内回帰のカギはやはり品質

コロナ禍では製造業の国内回帰が進むことが予測される。これまで積極的に海外生産にシフトしてきた流れが大きく変わろうとしている。

中国などの海外生産との競争となると、国内生産ではより高付加価値な製品を同等以上のコストパフォーマンスで生産する能力を持たなければならない。たとえば、スマートファクトリー化を一層加速させるなど、高生産性を追求したものづくりが進むであろう。

そのときにもっとも武器となるのは、やはり日本製の品質の強さである。国内生産であるからこその品質の強さを、これまで以上に発揮しなければならない。

品質を取り巻く環境はこれまでもさまざまな課題を抱えており、刻々と変化し続けている(新型コロナもその変化の要因の一つである)。品質管理の原理原則、QMSの原則は普遍的なものであるが、ものづくりの環境が変われば、その適用・応用の仕方も当然のことながら変化する必要がある。

製造品質の基本要素である4M+E(Man、Machine、Material、Method、Environment)に関わる前提条件や技術が変われば、そのコントロールの仕方も変わる。そしてまた、さらに高い生産性を実現しようとすれば、測定や制御をはじめ、先進的な技術の開発、導入も必要となってくる。強い品質を実現する成否は、これらの変化にどう対応するかによって決まる。

品質保証基盤の強化3つのキーポイントに取り組め

品質を強く進化させるには、改めて品質保証基盤の見直しが必要となる。それは、弱点の個別改善ではなく、体系的な全体の改革である。品質保証基盤を強化する3つのキーポイントに着目しよう。

ポイント1:品質の再定義

まずは改めて自社の「品質」とは何かを再定義する。品質の定義こそが保証の議論の出発点である。一言で「品質」といってもその定義はさまざまだ。広義に捉えるか狭義に捉えるかは、組織の中でも人によって見解は異なる。ましてや、製品の機能・付加価値が進化することを考えると、「品質」の定義も一定ではなく変化するものであり、常にこれを議論できている企業はそう多くない。

個別の製品仕様に関する品質保証項目を検討するとしても、その大本となる「品質」がどう定義されているかで目の向け方や検討の幅も異なり、場合によっては製品を発売した後からの対応に迫られることもあるだろう。従来の品質管理ではカバーできない事項も存在し、今後も新たな事項が生まれてくる。

しかも、顧客はハード面の品質だけでなく、ハードに付随するソフト面の品質もセットにして評価する。ひと昔前の製品には存在しなかった品質が出現しており、それを管理し保証していく体制は、製品開発と一緒に構築していかなければならない。

ポイント2:品質マネジメントレベルの見える化

次に、品質マネジメントレベルを見える化する。ここで問題になるのが、レベルをどのような指標で捉えるかである。品質に関する管理指標は、クレームの発生件数、品質不具合の発生率、製造工程の良品率、工程能力、品質コストなどさまざまある。製造だけでなく企画から設計開発、調達、アフターサービスまでの全プロセスにわたっての品質を考えたとき、その幅は多岐にわたる。単純な足し算も難しく、総合的に見たらどのような指標が適しているかを一言では語れない。

そこで、品質マネジメント全体のレベルを体系的に捉える独自の指標が必要となる。日本能率協会コンサルティング(JMAC)では、品質マネジメントを「戦略」「仕組み」「実施」「基盤」の4つ領域(後述)で構成されるものと定義付け、このそれぞれの領域における機能の充足度合い、管理・運用の状態、パフォーマンス実績などから、各要素を5段階で評価した「品質マネジメント成熟度」の導入を支援している。

ポイント3:目指す姿の全社的合意形成

次に、今のポジションを明確にして、目指す姿とそこに到達する方法を描く。当然ながら、いきなり目指す姿にたどり着くのは難しく、段階的な成長を計画していくことになる。具体的な品質管理に関する技術開発課題、仕組み(QMS)の改革課題、今後の品質保証体制、品質パフォーマンスの改善課題、そして人材育成課題などを必要かつ実現可能なスピードでバランス良く進めていく。

JMACはこの計画を「品質保証ロードマップ」と呼び、策定の支援を行ってきた。優先順位の考え方にしても解決方法の選択にしても、多種多様なオプションが考えられ、恐らく組織の中でもさまざまな意見が飛び交うであろう。それだけに明確な方向付けとその全社的合意形成には十分な議論をすべきである。

アフターコロナにおける品質マネジメント課題は何か?

品質保証の課題についてはコロナ以前から議論され、さまざまな取り組みが行われてきた。しかし、コロナ禍で状況が一変し、これまでの取り組みだけでは対応しきれない課題も増えてきたはずだ。どのような課題が生まれているか、生まれてくるかを、「戦略」「仕組み」「実施」「基盤」の4つの領域の観点から考察する。

「戦略」領域の課題

ここで論点になるのは、「生産の変化に対応できる品質保証体制の柔軟性」である。今後は原材料や部品の供給体制、生産拠点の変更やBCP観点からの代替生産サイトの準備、短期切り替えを可能にするための準備が進むだろう。
その際は人員配置を含めた品質保証体制面も同時に検討、準備を進め、柔軟性のある品質保証体制を構築しなければならない。品質戦略として全体の方針を明らかにしたいところである。

「仕組み」領域の課題

ここでの論点は「全社的な仕組み、基準の共通化、統合化」である。前項で述べたように、生産拠点をその状況により切り替えようとした際に、仕組みが対応できずネックになることも十分に考えられる。

QMS構築やISO9001などの認証取得でさえ、工場、生産拠点単位になってしまっている中で、仕組みを整合化するための一歩をなかなか踏み出せない企業も多い。すべてを統一するのではなく、重要なのは「共通として持つ必要がある部分の特定」である。互換性を確保するための基本原則、あるいは現場適用を考える基本方針といってもよい。

「実施」領域の課題

この領域では、各プロセスにおける業務の方式、管理手段に関する改善が論点となる。さまざまな変革が進む中のキーワードとしては「省人化」「リモート化」が挙げられるのではないだろうか。

「省人化」は今に始まったことではないが、より一層その必要性が高まっている。たとえば、自動測定・データ保存システムの導入や、画像処理、AIを活用した検査のデジタル化などの「検査業務の省人化」が考えらえる。検査だけでなく、QC工程表で定めているような製造工程の各管理項目の監視・測定や設備管理における監視・測定なども同様である。

日進月歩で進むデバイスやソフトウエアの最新技術の情報を収集しつつ、「人」による品質管理の作業が残っている部分に焦点を当て、取得した品質データを一元的に管理するシステム化など改善の推進を図りたい。システム化が進み、データを自動取得すれば、これらを「リモート」で管理できる幅が広がる。たとえば、製造ラインをリモート監視(1工場の全工程を1カ所で、または複数工場の全工程を1カ所で)することで、緊急事態時にも人がネックになる作業を回避できる体制を整えることができる。

クラウドにデータを吸い上げ、各ライン・各拠点のデータを一括管理、また一括保存することにより、これらの分析業務や問題発生時のトレーサビリティの取り方も大きく変わる。スピードも精度も上がり、品質保証の確実性の向上が可能となる。

「基盤」領域の課題

「基盤」の中心は人材である。今、その人材への「教育」の形態が変わりつつある。品質の教育では、管理技術の幅、対象者の幅が広く、また深い専門知識が求められる。QCの知識、QMSの理解、品質改善技術、要因解析技術、リスク管理手法、法規制要件など、第一線の担当者から管理者まで、多くの教育を計画的に進めなければならない。

すでにコロナの影響で計画していた集合研修が中断し、いまだに見通しが立たず、今後の対応を迫られている企業も少なくない。教育の中断は、今すぐにというより後になってその影響がじわじわ効いてくるので、決して後回しにはできない課題である。幸い、従来のさまざまな品質教育を「リモート」で実施する方式に切り替える動きが進んでいる。Webを活用した研修は、コロナ感染が収束した後もスタンダードになっていくだろう。

このように、品質マネジメント全般にわたって、今までとは違うスタイルがノーマルとなることを見据えて取り組み課題を抽出することが急務である。改革にはある程度の期間を要することを考えると、その推進の着手を急ぎたいところである。

ジャパンブランドを支える品質のプライドを忘れるな

次なるジャパンブランドとは、「やはり日本の品質は強い」と世界の人々をうならせることではないだろうか。これまでに研究を積み重ねてきた品質の技術、実直に追い求め、リードしてきた品質に対する姿勢と感性は、日本が誇るべきものである。

品質へのこだわりこそが「Made in JAPAN」であり、ジャパンブランドそのものである。このこだわりを堅持しつつ、これからのものづくり+ことづくりの変革に適用しながら変化、進化を遂げていくことが、強い競争力の源になると確信している。

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