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顧客は従業員!新しい人事部門の考え方

変化する働き方、必要な職場マネジメントとは

  • 人事制度・組織活性化

村上 剛

人事部門を取り巻く中長期的な環境変化と対応

 「人」を扱う人事部門だけでなく、企業として、国として、次の10年を見据えるとき、人口減少は避けて通れない問題である。2029年には総人口が1億2000万人を切り、2053年には1億人を切ると推計されている(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」2017年)。また、「2025年問題」といわれるように、2025年ごろには「団塊の世代」が75歳に達し、後期高齢者が一挙に増える。それに伴い、要介護者も増えると想定される。

 このような人口減少と高齢化の流れの中、人事部門にとっては人材の確保が大命題となる。現在は副業したり、フリーランスとして働いたりすることや、正社員でも勤務地限定正社員や時間限定正社員、職務限定正社員といった「多様な正社員」として働くこともできる。新たな価値創造のためにも、企業には多様な人材を受け入れる柔軟性が求められる。

 また、「人生100年時代」といわれる中、定年延長や定年廃止を決める企業が増え、年齢という概念自体をなくす「エイジフリー」の考え方で制度対応する場面が今後はもっと多く出てくるだろう。
 さらに、「団塊ジュニア世代」が50歳に達する2024年ごろ、団塊ジュニア世代が多い年功的な給与体系の企業では人件費負担が重くなる。給与カーブの概念自体もエイジフリーの考え方で見直す必要性が出てくるだろう。そして、労働力の代替だけでなく、生産性向上や新たな価値創造のためにも、AI(人工知能)の活用は今後ますます重要になる。

あらたな働き方に求められる5つのポイント

 2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大により、働き方改革で推進してきた在宅勤務やリモートワークが広がった。まず、リモートワークの働き方に対して、職場マネジメントはどのような対応が必要か見ていきたい。ここでは5つのポイントを掲げる。

リモートワーク5つのポイント

  

1.仕事実績の「見える化」(情報共有の徹底)

 仕事の成果を評価するためにジョブ型へ移行する動きがあるが、仕事の実績がしっかりと「見える化」されれば、必ずしもジョブ型に移行しなくてもよい。業務目標を設定しているのであれば、その実績や成果、貢献行動を定期的に共有し、目標以外の通常業務であれば仕事の出来栄えや貢献行動をメンバー間で日々しっかりと共有すればよい。

 そのためには、情報共有のためのインフラと情報共有の徹底が欠かせない。リモートワークになってもWEB会議やメール、チャットなどでのやりとりを見れば、一人ひとりの仕事の状況はおおよそ分かる。「見えないから評価できない」のではなく、「見えるように努力する」ことで、ジョブ型と対比されるメンバーシップ型でも仕事の成果は評価できるのである。

  

2.(意図的な)チームによる仕事の推進

 リモートワークが当たり前になると、コミュニケーションが取りづらくなる側面はある。だからこそ、意図的にチームによる仕事を増やすことは有効である。課題解決であればプロジェクトワーク化を推進し、また通常の仕事でもミニチーム化を増やすことで、メンバー間のやりとりや接点が増え、コミュニケーションを必然的に取らざるを得ないようになる。なお、複数のメンバーで仕事をするために、グループウェアやWEB会議システムなどのコミュニケーションツールの活用は必須となる。

  

3.精神・身体の丁寧なケア

 仕事上のコミュニケーションは取れても、リモートワークでは個人で仕事をする場面が多くなるので、孤独感を持つメンバーが出てきやすい。そのため、マネジャーによる組織メンバーへの精神面・身体面の丁寧なケアは欠かせない。リアルでもリモートでも雑談を含めた1on1ミーティングやオンライン飲み会のようなコミュニケーションの促進策は有効である。

 また、1日中家にいるメンバーも多くなるので、ストレスを発散しているか、運動をしているかなどのストレス面、健康面のケアも大切になる。なお、組織メンバーの数が多いと、マネジャーが全員を同じようにきめ細かくケアすることは難しい。組織メンバー間でお互いにケアし合い、その情報をマネジャーがしっかりと共有すれば、ある程度カバーできる。

  

4.リアルとバーチャルのコミュニケーション・コミットメント

 リモートワーク化によってコミュニケーションが取りづらくなっても、自分からコミュニケーションを取りにいくことを前提とし、それを組織メンバー全員がコミットすれば、「お互いさま精神」でコミュニケーションは促進されていくものである。また、バーチャルのコミュニケーションが主体になっても、リアルなコミュニケーションにはないメリットもある。

 たとえば、OJTの場面で、すぐ隣に先輩がいなくても、バーチャルであれば自分の組織の先輩だけでなく、他の組織の先輩にもチャットで質問できる。これはリアルでは、やりにくかったことである。リアルとバーチャルのコミュニケーションの良い面を活かし、心理的安全性を確保しつつ自分からコミュニケーションすることに全員がコミットすれば、実は以前よりもコミュニケーションを効率的・効果的に促進していけるのである。

   

5.労働時間管理・ワークスタイルの柔軟化

 職場にそれぞれ事情を抱える従業員が増えてくると、労働力確保の観点では、各メンバーの事情や志向に合わせた労働時間管理やワークスタイルを考える必要が出てくる。最近では、仕事をする場所を活動ベースで決めていくABW(Activity Based Working)という考え方も浸透してきており、自宅だけでなく、サテライトオフィスやカフェなどさまざまな場所で仕事をすることが多くなっている。リモートワークが問題なく運用できるように、企業やマネジャーには、労働時間管理体制やリモートワーク環境を整備することが求められる。

今回は職場マネジメントについてお話しした。
次回コラムでは、人事制度の対応方向を具体的に見ていこう。

※本稿は『労政時報』第4000号(2020年9月25日発行:労務行政刊)に掲載したJMACコラムを転載したものです。

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