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JMAC品質経営研究所だより Vol.23
自社の品質保証システムと体制を見直す視座(Part2)

  • 生産・ものづくり・品質

宗 裕二

必要要素となる4つのフェーズとは

回は、品質保証システムと体制を見直す視座の全体像と、「システムの成熟度」についてお話をしました。今回は「フェーズ別品質機能」についてお話をします。 フェーズと呼ぶのかレイヤと呼ぶのか迷うところですが、品質保証の仕組みやマネジメント全体に必要な「機能要素」と考えています。品質保証の仕組みを構築する場面では時間的な要素があるのでフェーズと呼んだ方が分かりやすいかも知れませんが、既にある品質保証の仕組みや体制を見直す時にはレイヤと呼んだ方が分かりやすいでしょうか。

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ここで言うフェーズは「戦略」「しくみ」「実施」「基盤」の4つで、それぞれの機能を充実させるべきであるとしています。品質保証の仕組み、体制、運用を全社(全組織)で行っている場合、この4つのフェーズの全てが必要要素であり、それぞれのフェーズを充実させ、醸成しなければならないと考えています。この4つのフェーズは皆さんもお持ちであろう自家用車に例えてお話をすることが多いです。

「戦略」は、ご自分の自家用車で、何処へ、どのようにしていこうかと作戦を立て、目的に応じた最適な作戦(行き方)を選択することであり、ナビゲーションのような機能を言います。
「しくみ」は、自家用車そのもので、好きな車を選定して実際にディーラーから購入し、自分の自由にすることです。

「実施」は自家用車に自分が乗って、実際にエンジンをかけ、アクセルを踏んだり、ハンドルを回したりして運転をして動かすことを言い、「基盤」は、自家用車の運転に必要な免許を取得したり、ガソリンを入れたり、車検・メンテナンスをしたりする行為です。
この全てが満足できて、初めて自家用車としての価値が認められると考えます。仕組みを導入することは、自家用車を購入することであり、ただ購入しただけでは役に立ちません。つまり、ISO9001などの仕組みを導入しただけでは役に立たないことですね。

重要なのは「戦略」と「基盤」フェーズ

の4つのフェーズのうち、「しくみ」については、前述の通り、ISO9001を基盤にした品質保証システムとして構築されている企業も多いことでしょうからイメージしやすいと思います。「実施」についても構築したシステムを実際に運用して成果を出すことを言いますから理解できるでしょう。

しかし、重要なのは、「戦略」フェーズで「品質保証によって何をしようとしているのか?」であり、「基盤」フェーズで「必要な要素は何があり、同様なレベルで充実させるべきなのか?」と言うことを認識していることだと思います。やみ雲に車を運転するのも楽しいかも知れませんが、本来の目的を考えると十分ではないですね。

特に、「基盤」フェーズについては、どこの企業でも十分にその必要性を理解していると思われているようですが具体的に「基盤」フェーズの醸成を計画的に進めている企業は少ないと思います。

即ち、自社の現状の品質保証状況を踏まえ、存在する問題、課題に適した「基盤」フェーズ(例えば、必須リテラシーの定義、組織構成、人材育成、必要な検査方式と機器、データ管理のためのシステム、データ解析技術など)を「戦略」的に熟考し、具体的計画に落として実行に移している企業は、実際には少ないと思います。

時代が変遷する中で、経済社会のニーズも変化するのは当然のことであり、大きな変化があれば、ニーズも大きく変化し、企業の品質保証全体を見直すべきであろうと思います。

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分析結果から見えた日本の弱みは「戦略」と「基盤」

MACではこの4つのフェーズを基礎概念にして、「品質保証実態調査」を10年ほど前から国内の製造業を対象に実施しています。調査を始めた初期ですが、海外企業との比較を検討した時期があり、試験的に一部のアジアの製造業を調査対象にしてデータを取り、結果の比較検討をしたことがあります。

試験的な試みであったのでデータ数が少なく、考察は不十分ですが、ある国の製造業は「戦略」と「基盤」が高得点で、「しくみ」と「実施」が低得点でしたが、日本の大手企業は「戦略」と「基盤」が低得点であり、「しくみ」と「実施」が高得点であったとの興味深い分析結果が出たこともあります。その企業がおかれた経済環境で結果が異なるのは当たり前のことですが、日本は「戦略」と「基盤」が弱いのかと改めて思いました。


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