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再発見の品質!成功への静かな道

あらゆる問題の根本原因“ヒューマンエラー”への正しい向き合い方

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大西 弘倫

 最近、新聞やテレビの報道で、ヒューマンエラー起因の事故・トラブルが取り扱われることも珍しくなくなり、ヒューマンエラーという言葉も一般化しつつある。筆者はここ10数年くらい、ヒューマンエラーを基軸にした問題解決を支援させていただいているが、その経験も踏まえ、最近感じていることをお伝えしたい。

 まず、ヒューマンエラーとは文字通り、human(人)+error(間違い)、すなわち、人の間違いということである。人である以上、完全に間違いを無くすことは難しい。これから自動化・機械化や最近はやりのAIなどの技術革新が進んだとしても、人が介在する余地が残される以上、ヒューマンエラーの問題は避けて通れない。

 昨今のこのような状況においてもなお、筆者は「ヒューマンエラー防止こそ、最も身近で本質的問題解決につながるもの」と考えており、最近、その思いをより強くしている。以下にその意図を解きほぐしていく。

求められるヒューマンエラーへの意識改革

 みなさんが新人の頃、もしくは新しい部署に異動して、これから仕事を覚えようとする時に一番留意したことは何だろうか。人によって多少の違いはあれ、おそらくほとんどの方が「仕事上の間違いを無くす、少なくする」ことに配慮したのではないか。これこそ、ヒューマンエラー防止そのものと言える。作業標準書やマニュアルに記載された通りに作業・業務を行い、時折いただく先輩からの教えをメモに取り、そのメモを見ながら進める、また、自分なりにカン・コツを抽出、整理し、やってみて、気づきを得て、また試してみる、必要であれば、基準・ルール、方法・手順、しくみを見直す・・・こんなことを繰り返して、作業・業務ができるようになったのではないか。

 ところが、ある程度、仕事に慣れてくると、そのような試行錯誤や振り返り、改善をすることも徐々に少なくなり、「仕事上の間違いを無くす、少なくする」という意識が薄れていく・・・こんな状況がみなさま、もしくは、みなさまの職場で起きてはいないだろうか。

 改めて、みなさまにお考えいただきたいが、仕事に慣れてきて、間違いをすることも少なくなってきたから、もう大丈夫、ヒューマンエラーの問題は起きないと言い切れるだろうか。当然だが、人である以上、絶対にヒューマンエラーを起こさないとは言い切れない。それゆえ、ヒューマンエラーリスクは残り続けていると考え、日々の仕事に臨むべきである。

 ここで少し話を変えたいと思う。みなさんが日常生活の中で、「後で連絡しようと思っていたのに忘れてしまう」という間違いをしてしまったとしよう。おそらく、みなさまは、今後このような間違いを起こさないように「大事な用事はその場ですぐ連絡する」「よく目にする場所にメモを貼る」などの対策を講じて、実践するのではないか。このような「後で連絡しようと思っていたのに忘れてしまう」という事象は日常生活だけで発生するものだろうか。もちろん、仕事上でも起こりうることである。つまり、日常生活で起こったヒューマンエラーと仕事上のそれとの間に共通性が見られることがあり、日常生活で起こったエラー防止策が仕事に生かせる可能性があるということである。

 言い方を変えると、日常生活であろうが仕事であろうが人の行為には共通した働きがあるとし、ヒューマンエラーにも類似性があると考えようということである。ここでは詳細な説明を割愛するが、端的に言えば、ヒューマンエラーにはタイプがあるとお考えいただきたい。「紙に書かれた情報をエクセルのような集計表に入力する」作業で補足説明する。この作業において、ヒューマンエラーのタイプごとに見ていくと、以下のようなヒューマンエラーが考えらえる。

ヒューマンエラータイプ ヒューマンエラー例
記憶エラー 入力途中で中断し、どこまで入力したかを間違えて記憶する
認知エラー 紙に書かれた数値を見間違える
判断エラー  数値を表の中のどの枠に入れるかの判断を間違える
行動エラー 数値を入力する際のテンキーを押し間違える

 上記ヒューマンエラーは入力作業という仕事で想定しているが、もちろん、似たようなエラーはみなさまの日常生活でも起こっているはずである。つまり、

  • 人である以上、日常生活であれ、仕事であれ、ヒューマンエラーは避けて通れない。
  • その中で発生するヒューマンエラーには共通性(ヒューマンエラータイプ)があり、同じタイプのエラーであれば、要因や対策を応用、水平展開できる可能性がある。

 そのため、日常生活であれ、仕事であれ、日頃から、自分自身が起こすヒューマンエラーに興味、関心を持つことが重要で、エラー発生の都度、要因抽出・対策立案、対策の試行・実施を繰り返すことが最も身近な問題解決であると言えるのではないか。これを地道に行うことが基礎的な問題解決力を向上させ、あらゆる問題解決の基盤となりうると筆者は考える。

ヒューマンエラーを防ぐしくみはどう作る?

 みなさまの会社には、仕事の品質を向上させる、効率的に推進・支援するなどさまざまなしくみがあると思うが、改めてお考えいただきたい。それらのしくみを構築したのは誰か、さらにそのしくみを運用しているのは誰だろうか、当然、人のはずである。先ほども触れたように、人である以上、ヒューマンエラーの問題は避けて通れない、人である以上、100%ヒューマンエラーがないとは言い切れない。そのような存在がしくみを構築、運用しているのである。

 このように、ヒューマンエラーに起因する事故・トラブルを防ぐための歯止めのしくみを何重にも設定しているはずである。ところが、人がしくみを構築・運用している以上、100%完璧なしくみは難しい、人が何らかの間違いをすることで、そのしくみにほころびがあるかもしれない、そのしくみを人が運用する以上、そのほころびに気づかず、運用するかもしれない、また、しくみを構築した人の意図と違う運用をするかもしれない・・・ヒューマンエラーに起因する事故・トラブルはこのようなしくみの構築・運用の隙を突いて発生するものである。

 このようなしくみのほころびを100%無くすことは難しいかもしれないが、ほころびをできるだけ減らす、ほころびの大きさを小さくする努力が必要であると考える。さらにいうと、しくみのほころびを減らす、小さくするのは誰の役割なのか、しくみを構築する人、運用する人両方、つまり、組織の構成員として、そのしくみに携わる人全員ではないだろうか。

 この世に100%完璧なしくみがないとすれば、どのようなしくみを導入しようが完全な問題解決にはつながらない。それに対抗するには、組織の構成員一人一人がヒューマンエラーへの認識、理解を深め、しくみを構築・運用する中で、それぞれの立場からヒューマンエラーリスクに着目、抽出し、要因抽出・対策立案、対策の試行・実施を繰り返すことが地道であるが着実にしくみをよりよくする策であり、本質的な問題解決につながると筆者は考える。

問題解決への行動変容を促すために

 「ヒューマンエラー防止こそ、最も身近で本質的問題解決につながるもの」の意図を改めてまとめると以下となる。

  1.  組織の構成員全員がヒューマンエラーへの認識、理解(ヒューマンエラーのタイプ、要因抽出・対策立案視点など)を深める。
  2. 組織の構成員一人一人が、日常生活であれ、仕事であれ、日頃から、自分自身が起こすヒューマンエラーに興味、関心を持つ。
  3. エラー発生の都度、要因追究・対策立案、対策の試行・実施を繰り返し、ヒューマンエラー防止を行うことで、一人一人の基礎的な問題解決力を向上させる。
  4. しくみ構築・運用の中で、③の問題解決力を活用し、しくみのほころびを減らす、小さくしていく。

 最近、さまざまなご支援をしている中で、これらのことが必要ではないかと強く感じているところである。全社的にこれらの活動を推進しようとすれば、個々が意識を高め、具体的なアクションを実践することが前提となるが、そのような行動変容を促すためには、経営トップ層の関与が必須であると考える。ぜひ、ご一考いただき、この雑文がヒューマンエラーに強い職場づくりに向けた活動推進の何かの参考になれば筆者としては幸いである。

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