プロフィット・デザイン
第2回 利益は「しくみ」から生まれる
横山 隆史
さっそくですが、
利益に対する理解は十分ですか?
と質問されたら、みなさんはどうお答えになるでしょうか?
「利益=売上−コスト」と考えられた方もいらっしゃるでしょう。もしくは、決算書に登場する営業利益や経常利益といった用語を連想された方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、これらは単に決算書をつくるための計算式やルールに過ぎないのではないでしょうか。このような計算式やルールを知っていたとしても、儲けられるわけではありません。また、決算書に登場する各種の利益は、あくまで結果としての利益であって、その利益がどのように生まれてきたのか、メカニズムまではわかりません。
私が「利益に対する理解は十分ですか?」とお聞きしたのは、利益が生まれる"しくみ"を理解しているか、ということを考えてもらいたかったのです。
利益を単なる結果として捉えてほしくありません。利益は意図してねらっていくものなのです。計算してたまたま黒字だった、というものではないのです。プロフィット・デザインでは、得られるべくして得られた、必然性の高い利益をねらっています。そのためには、利益を生み出すための"しくみ"をひねり出さなければならないのです。
購買後のプロセスまでも見据えたアップルの"しくみ"とは
携帯オーディオプレーヤーのiPodから始まり、携帯電話のiPhone、タブレットのiPad、そして新発売のapple watch(2015年4月)と連続的にヒット製品を出しているアップル。着眼の斬新さ、デザインの素晴らしさ、容易な操作性、どれをとっても驚嘆に値する製品ばかりです。しかし、とかく製品ばかりに目が向きがちになってしまいますが、何よりも素晴らしいのはアップルが生み出した"しくみ"です。また、"しくみ"のイメージを理解するためには、もっともわかりやすい事例とも言えます。
携帯オーディオプレーヤーのiPodを例に話を進めます。iPodはその製品としての素晴らしさにとかく目が向いてしまいがちですが、すぐれた携帯オーディオプレーヤーは日本のメーカーからもたくさん出ています。デザイン性も機能面も申し分なく、「音質なら日本製の方がいい」という意見もかなり聞いています。ですが、ユーザーにはiPodが選ばれています。
アップルは明らかに、「顧客がiPodを購入した後、何をするのか」を視野に入れています。携帯オーディオプレーヤーを購入した後は、当然ながら音楽を聞きます。また、音楽をどんどん購入するでしょうし、保存することになるでしょう。つまり、顧客の購買後のプロセスをアップルは見据えているのではないでしょうか。
アップルの製品をお持ちになったことがある方ならおわかりでしょうが、アップルの製品はどれもハードとソフト、そしてインターネットへの接続まで、すべてをシームレスにつなげています。また、クラウドを取り込むことによって、さらに利便性は高まってきています。つまりアップルは、いったん製品の購買を通じてつながった顧客を離さない"しくみ"を構築しているのです。いわゆる「売って終わり」という"売り切り"の発想ではなく、持続的な顧客との関係を構築しているのです。
アップルは製品ばかりが注目されがちですが、アップルのプレスリリースをたどってみましょう。製品以外にも驚く数字が並んでいます。
2013年2月7日 iTunes Store、新たに250億曲の販売記録を達成
2013年3月1日 iTunes Uからのダウンロード数が10億本を突破
2013年5月16日 AppleのApp Storeからのダウンロード数が歴史的な500億本を突破
2014年1月7日 App Storeの販売額、2013年に100億ドルを突破
いかにすばらしい"しくみ"を構築したのかが、数字からもよくわかります。
プロフィット・デザインは顧客との持続的な関係を構築する
"しくみ"の素晴らしさと重要性を理解いただけたかと思います。プロフィット・デザインでは、まさにこのような"しくみ"の構築をねらっているのです。
プロフィット・デザインを、ここで定義してみます。
持続的に利益を生み出していく、顧客価値の連鎖構造
この定義には、さまざまな意味が込められています。
まず「持続的」ですが、この対義語をあげるならば「期間損益重視」「短期収益重視」となるでしょう。企業は決算の対象年度における期間損益で評価されます。また、株主重視の傾向からも、短期での利益獲得が迫られています。
しかし、顧客はそのような企業側の論理に関心がありません。年度というような期間に束縛されず、顧客との持続的な関係を構築していくことをプロフィット・デザインでは指向しています。
次に「顧客価値」という言葉です。これも対義語をあげるならば「会社中心思考」「プロダクト・アウト」ということになるでしょう。顧客との持続的な関係構築を指向するならば、顧客にとって価値あるものを提供し続ける存在でなければなりません。
最後の「連鎖構造」という言葉です。対義語は「単品売り切り」という言葉が当てはまります。会社としては"手離れ"の良い製品・サービスが都合良いでしょうが、それではせっかく購買によって結ばれた顧客との関係が終わってしまいます。プロフィット・デザインに取り組むと、顧客との持続的な関係が構築されるので、あえて言うなら手離れは悪くなるでしょう。しかし、持続的な関係がもたらしてくれる利益は莫大です。そのためにも、単品にとどまらず、あらゆる製品・サービスを連鎖的に提供していくことが求められるのです。
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