プロフィット・デザイン
第3回 顧客のプロセスを捉える
横山 隆史
第2回では、"しくみ"を構築することの重要性、そしてプロフィット・デザインが
持続的に利益を生み出していく、顧客価値の連鎖構造
であることを紹介しました。それでは実際に、このような顧客価値の連鎖構造は、どうすればつくっていけるのかを第3回では考えていきたいと思います。
購買後の顧客に何を提供できるかに着目する
前回はアップルの事例を紹介しましたが、「それはアップルだからできたこと」と思われているかもしれません。しかし、捉えていただきたいのはエッセンスです。「顧客は購入した後、何をするのか?」もしくは「購入の前後に何をするのか?」という着眼で、アップル同様に利益を生み出している企業があります。
建設機械メーカーのコマツは、自社の建設機械にGPSを取り付け、そのGPSを通じて建設機械の稼働状況を把握するKOMTRAXというシステムを提供しています。GPSを用いて稼働状況を把握することで、タイムリーに修繕・保守サービスを提供するだけではなく、省燃費運転を支援するなどの改善提案にも取り組んでいます。
コマツの着眼も、アップルと同様に購入後です。建設機械は初期の導入コストよりも運用コストが非常に高くなります。修理・保守費用、燃料費、オペレーター費は本体価格の3倍にもなるとも言われています。逆を言えば、本体の3倍規模の市場が本体を購入した後に控えている、ということです。その需要を取り込むために、稼働情報を収集できるこのシステムが一役買っているのです(図)。
このような取り組みは大企業だけに限りません。また、決してITを必要とするものでもありません。
年商が約12億円(2011年度実績)の喜久屋という企業は、首都圏を中心としてクリーニング業を営んでいます。喜久屋は冬物を中心に衣類のクリーニングと保管を一体にしたサービスを提供することで、リピート率80%という驚異的な数字を上げています。これもやはり顧客の購買後を的確に捉えたサービスです。クリーニングをした後は衣類を保管することになりますが、都内の狭い住宅事情を考えれば、「保管は外へ」という潜在的なニーズがあります。つまり、クリーニングと一体で保管というサービスを提供することで、顧客の利便性を高めているのです。いったん外で保管した衣類を再び自宅で保管しようとはなかなか思わないでしょう。部屋が狭くなってしまうのですから。
顧客のプロセスを捉え、連鎖的に価値を提供する
連鎖的に価値ある製品・サービスを提供するためには、ぜひ「顧客の購買後」をイメージしていただきたいのです。つまりは顧客のプロセスを捉える、ということに他なりません。
次の事例を紹介します。典型的な例ですが、家庭用のプリンターをイメージして図を見てください。
ごく当然のことではありますが、顧客にとってはプリンターを購入すること自体が目的ではありません。プリンターを購入することで印刷をしたいのです。顧客はプリンターを購入して印刷します。時間が経過すると用紙・インクが切れるのでそれを補充します。この「購入する→印刷する→補充する」という一連の流れが顧客のプロセスとなります。
プリンターの会社はこの顧客のプロセスに対応すべく、一連の製品を連鎖的に提供していることには、すでに多くの方が気づいているのではないでしょうか。プリンターは性能・機能に比して割安です。一方で、用紙やインクは割高に感じてしまいます。さらに、インクのカートリッジは規格がプリンターごとに異なっており、他のものにスイッチすることがほぼ不可能です。プリンターの会社は、プリンターをいったん保有してもらえば、その後に用紙やインクの需要が発生することに気づいています。そのため、意図的に導入コストは安く設定し、必然的に発生する用紙・インクの需要で収益獲得を図ろうとしているのです。
このような考え方で持続的に利益を生み出しているビジネスは数多くあります。スマートフォンも典型的な例です。顧客がスマートフォンを購入すれば、その後に必ず通話やメール、アプリなどの利用が見込めます。スマートフォンの販売台数が増加すれば、確実にその後には利益が待っているということになります。
クレジットカードも同様です。クレジットカードを顧客に持ってもらい、決済を現金からクレジットカードへ変えていけば、加盟店から利用に応じた手数料が確実に、持続的に入ってくるようになります。
自動車業界でも現在同じような傾向がみられます。すでに自動車メーカーは、自動車の製造・販売だけで利益を上げているわけではありません。所有する際にはローンもあれば、保険にも入りたくなるでしょう。また自動車に乗り続ければ部品の交換や修理も必要となります。自動車メーカー大手の決算書を見ればわかるとおり、多額の金融債権を抱えており、ファイナンス会社かと思われるほどです。また、自動車ディーラーも部品交換や修理に注力しており、現在では売上の約半分を支えていると言われています。
これらを抽象的にまとめると、図のようになります。
顧客は、ある目的を達成するために、プロセスを踏むことになります。顧客は何のためにプロセスを踏んでいるのか、その目的をじっくりと見定めると、連鎖的な価値提供の可能性が見えてきます。
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