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プロフィット・デザイン

第6回 顧客の負担を軽くする 〜チャージ要素〜

横山 隆史

顧客と持続的な関係を構築するためには、やはり顧客の金銭的な負担は長期的な観点から軽くすることが望ましいと言えます。裏を返せば、短期的な目先の対価を重視するのではなく、顧客のライフサイクルコストを見据えた課金の方法を検討することになります。どのように対価をいただくか、という点もプロフィット・デザインの重要な要素となるのです。

企業側の"論理"は捨てる

まず考えてほしい点は、われわれ企業サイドの"論理"は捨てるということです。多くの企業は価格設定において、「利益=売上-コスト」を意識しています。また、企業には必ず決算があるので、期間損益、つまり1年という決算の期間を意識して価格設定がなされます。

ですが、プロフィット・デザインのチャージ要素を考えるうえでは、この呪縛とも言える既成概念からぜひ解き放たれていただきたいと思います。顧客は企業側で生じていることに一切関心がないのです。あなたはこれまで、

  企業の決算を見て、原価率を見て、購入を決めたことがありますか?

おそらく、限りなくゼロに近いのではないでしょうか。

顧客のライフサイクルを意識する

企業の"論理"から解放される第一歩としては、

  顧客のライフサイクルコストを重視する

発想への切り替えです。顧客のライフサイクルコストを意識すると、企業側は顧客との取引全体での累積利益を重視する発想へと切り替えることができます。

顧客との継続的な取引においては、その局面に応じてプラス・マイナスが生じることが想定されます。ですが逆に、累積で利益がプラスとなればよいのであれば、一時的に大胆な価格設定を行うことが可能となり、マイナスの局面も許容されるようになってきます。

一時的なマイナスや大胆な価格設定により市場を創造・拡大した事例は数多くあります。今ではスーパー・コンビニでホットの飲料が当たり前のように並んでいますが、かつてはメーカー側が無料でウォーマーを設置したという経緯があります。コーヒー豆を販売するメーカーも同様で、各社はコーヒー豆を購入してもらうため、飲食店にドリッパーを無料で設置してきました。これも後々の利用による収入を見込んでのことであることは明らかです。初期はマイナスであっても、ライフサイクルで捉えれば大胆な価格設定が可能になるのです。

課金の発想転換

従来型の課金方法から発想を転換するために、課金方法そのものをゼロベースで見直してください。課金のパターンはいろいろと想定できるのです。

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課金の対象者である"Who"を見直すことはできないでしょうか? まずは

  負担者を変える

という視点です。製品・サービスの受益者が必ずしも費用を負担する必要はありません。他の人が負担できる可能性は十分にあります。たとえば、フリーペーパーは読者ではなく情報の提供者へ課金しています。また、無料で利用できるクレジットカードも同様で、利用した店が課金されています。

さらに、"Who"の見直しとして

  負担者を増やす

ということができないでしょうか? "シェア"がまさにそれであり、一人当たりの負担を大幅に減らすことが可能になります。カーシェアリングやシェアハウスなどが該当します。また、ネットジェッツという会社では、プライベートジェット機の共同所有というサービスを提供しています。エグゼクティブは時間を惜しむ傾向にあり、プライベートジェット機を使用したいものの、その稼働率の低さ、固定費の高さがネックでした。共同所有によってそれが解消されたのです。

課金の"What"という視点をみてみましょう。

  課金の対象を変える

という考え方です。古くから典型例と言われているのが、男性用のカミソリです。本体は割安に提供し、替え刃で利益を得る仕組みです。また、プリンターも同様で、機械本体ではなく用紙やインクで利益を確保しています。

「課金の対象を変える」という場合、通常"はじめは安く、あとで高く"という傾向にあるようです。しかし、アップルはその逆だと言われています。たとえば、iPhoneやiPadを購入すると、かなりのアプリが無料で使用することができます。その魅力度が高いために、あえて高い機器であっても顧客は購入するというものです。

次に、課金の"How"という視点はどうでしょうか? ここでは

  課金の単位を変える

という視点をご紹介します。課金の単位は製品・サービスによってさまざまです。ですが、この課金の単位は業界・業種における慣行・習慣的な側面が強く、ごく"当たり前"となって見落としがちな視点です。

この事例をペンキで紹介します。通常ホームセンターなどで売られているペンキは「1缶」という単位で販売されています。ですが、購入者が「1缶」丸々使い切ることはまれで、多くは残してしまう傾向にあるようです。そこで、使用した分に応じて、つまり使用した「リットル」「ミリリットル」という単位で販売することで、購入者のこのような不便を解消した事例があります。このようなムダが排除されるなら、多少単価が上がっても購買者はその価格を受け入れるでしょう。

そして、課金の"When"という視点ですが、

  課金のタイミングを変える

ことはできないでしょうか? 「初回無料」などが典型例で、後々の継続利用で課金しています。また、クレジットカードも典型例として当てはまります。多少余談となりますが、クレジットカードには興味深い副次的効果があります。本来なら製品・サービスの所有と支払いは同時履行ですが、タイミングをずらすことで、購入者の支払い負担感が減少するようです。実際、クレジットカードをよく利用する方は、現金支払いが中心の方よりも多く消費するとのことです。ご注意ください。さらに、リースや割賦払いもこの課金視点に該当します。よく言われる事例がゼロックスで、高額な複写機をリースにすることで販売台数を増加させたと言われています。

最後に、課金そのものをしないという視点もあります。

  一部の顧客を無料にする

ことはできないでしょうか? スカイプが典型的な事例になります。インターネットを利用して無料の電話サービスを提供していますが、他のインターネットを通じたサービス会社のように、広告宣伝収入に多くを依存してはいません。

デジタルの世界では、変動費が限りなくゼロに近いという特徴があります。つまり、顧客が1名増加したとしても、それに伴うコストが限りなくゼロに近いということです。デジタルの世界ではこのような特徴があるので、変動費がゼロならとにかく多くのユーザーに普及させ、ほんの一部の有料顧客でも固定費すべてをまかなえる可能性が出てきます。事実、全ユーザーの5%程度の有料顧客を獲得できれば、固定費を十分まかなえると言われています。

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