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株式会社日立国際電気

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現場目線で「人」を育てる ~「種まきと水やり」実践だからこそ人が育つ!~

座学だけの研修では、変化が見えない人財開発施策でよいのかという問題意識を持った人事総務本部 人財戦略部 主管森 邦夫氏は、2007年から実践的なOJT「オン・ザ・プロジェクトトレーニング(On the Project Training)」の導入を決意した。変わりゆくビジネス環境の中で、どのようにして「人」を育ててきたのか。その現在までの取り組みについてお話をお伺いした。

現場経験があってこそ感じた衝撃

株式会社日立国際電気は、2000年(平成12年)に、日立グループの無線通信関連事業を手がけてきた企業3社(国際電気、日立電子、八木アンテナ)が合併して誕生した。
以来、日立グループの一員として、3社の持てる力を伸ばすとともに、そのシナジー効果を高めることで、通信、放送、映像、半導体製造分野で新たな価値を創出し、安全で豊かな社会づくりに貢献してきた。2014年3月期の業績は、連結で売上高1,673億6,500万円、営業利益169億7,600万円と、売上高営業利益率10%超を確保した。

case40_pict01.jpg同社において、合併前から現在に至るまで人財育成を牽引してきたのが人事総務本部 人財戦略部 主管 森 邦夫氏だ。もともと国際電気出身の森氏は、合併当時を「3つの会社がそれぞれ扱っている製品、教育の中身、社風や組織風土が全く違いました。例えば国際電気は縦構造がはっきりとした会社、日立電子はフランクな社風があり、八木アンテナはブランドをベースにした会社。そんなイメージがありましたね。合併とはこういう全く違う風土を融合させなくてはならないものなのだと実感した瞬間でもありました」と振り返る。

人財育成のエキスパートとして活躍し続けている森氏であるが、意外なことに、入社当時の配属先は畑違いの情報システム部門のプログラマーやSEを担当していた。その後営業職を経て、経理で原価計算などの経験をした後、自らの希望で1998年に当時の国際電気研修所で人財育成に携わるようになる。2002年からは日立国際電気の人事総務本部に統合となるが、"現場の困りごととその解決策は、現場との会話を通じてしか分からない"との強い思いがある。

現場目線だからこそ見えてきた課題

現場目線に近づいて人財開発に携わる森氏であるが、人財育成に興味を持ったきっかけは、工場内の自衛消防隊の指導者を経験したことだという。「元々会社の研修にはあまり関心がなかった社員なのですが、自衛消防隊の指導者を経験して、人を育てることの大切さを学びました。また、仕事を通して現場との接点が多かったため『本社の机に座っていては現場が何を必要としているのかが分からない』という思いから、工場に席を置かせてもらいました」という。

この仕事を数年続けた中で見えてきた実態がある。それは、人財育成が断続的になってしまっていたことだ。「工場も収益が問われます。人財育成への予算も景気や業績に左右されやすいのです。更に、管理職が多忙になってOJTが停滞したこと、また、新しい方法論を用いた仕事の変革等により、人財育成の進め方に危機感を感じました」と森氏。
「業績に左右されず続けていくこと、更に時代の変化に適した人財育成施策が重要だ」と考えていた森氏は、経営層に働きかけた。「経営幹部も景気に左右されてしまう人財育成に危機感を感じていました。一定の金額を投資しなければいけないということにも理解を得られて、8年前から教育の予算投資配分の仕組みを作りました。一定額を必ずプールし、予算を確保するのです。これで業績に関係なく人財育成を続けていくことが可能になりました」それは「長いスパンで育成を考えないと、人は育たない」という森氏の思い、そして常に現場に寄り添う視点からなされたものだった。

ビジネスが変わり、かつてのOJTだけでは変化に対応できなくなってきた

そして従来のOJT(On the Job Training)だけでは人財育成に足りないと頭を悩まし続けた。
OFF-JTについて森氏は、「本社が行うOFF-JTは、全社の視点から一般的な知識や思考・気づきを与えるものです。それに加えて、ビジネス環境の高度化、スピード化に即した研修や育成が必要だと思いました。」と語る。

ビジネスが、単品のハードからソフト機能を重視したシステムに変わっていくにつれ、「技術が次々と変わり、ビジネスが変わって、自分たちの経験値が及ばないところにきている。もっと世の中の潮流も見て、現場を見て現場ではできないような人財育成施策を展開することが大切」と思った森氏は、先を見据えた取り組みを模索した。
そのパートナーとして支援をしたのがJMACのチーフ・コンサルタント渡部 訓久だった。実はJMACの支援は2002年に遡る。「FF研修」と名付けられた、技術開発・商品開発における源流段階の検討力と、そのための組織的な技術課題解決力強化を目指した研修から始まり、設計・生産の改革活動、職場活性化(KI)活動や階層研修などを並行して支援をしており、現場の実態を熟知していた。森氏と渡部が組んで現場と実務に即した人財育成が動き始めた。

人財育成はどう進化していったのか!

HOWからWHATへストーリーを"つなげて"ゆく

実務に即した人財育成として、プロジェクトリーダー(以下PL)育成施策が2007年からからスタートした。これは実践型のオン・ザ・プロジェクトトレーニング(On the Project Training)として、受講生たちが日常業務の中で実際に取り組んでいるプロジェクトテーマそのものにフォーカスして行っている。

当初はPLが技術者、SE、営業などのメンバーをいかに巻き込んでいけるかを課題として、プロジェクト全体をうまく推進できる「骨太の人財育成」を目指していた。しかし、最近は「ゴールを正しく見定めて、そこに行き着くためのストーリーを自分なりに考えているかが重要だと思っています」と語る森氏。「現在の施策そのものも大事ですが、将来の技術人財像を考えた時に、ただプロジェクトを推進する腕力的な力だけでなく、目標や目的をどう実現するか、そこに行きつくまでのストーリー全体を考える力を付けなくてはならないと思いました。その中で、色々な問題が見えてくる。そこに適切な処置を考え、順番を間違えずに適したタイミングを見て打って行く。これは、医療と同じだと思うんですね。お医者さんは心臓に聴診器を当てて変だと思っても、すぐに薬を投与しません。血圧測定、血液検査を始め、各種の検査を経て原因を探り、因果関係をトータルでしっかり捉えて適切な手を打ちますよね。そういった鳥瞰的な視点と、打ち手のストーリーというトータルで考えて実行する力が必要だと思うのです」。

一方、渡部はPL育成施策の8年間の支援の中でその内容も変化しているという。「当初はHOW中心で、どう目標達成するか、お客様の要求をどう実現するかといったところに重点を置いた支援をしていました。ビジネス環境の変化とともに、HOWだけでは目標が達成出来なくなって、WHATやWHYが増えています。顧客の要求をどう実現するか、これからは新たな付加価値を創っていくことが求められますので、それに合わせてPL育成の内容も変化してきています」(渡部)

case40_pict02.jpgストーリーづくりとは、複数ある施策をトータルで見て俯瞰し、施策と施策の間をつなげてこそできる。そう考えた森氏は「つなげる」を人財育成における重要なキーワードと位置づけている。そして、将来あるべき技術人財像をつくりだすため、「PL育成施策」、「新規事業立案研修」、「コーチング活動」、「設計体質改革活動」の4つを施策の柱として推進してきた。それが、2014年度上期に意外なところから成果となって表れた。全社の小集団活動の事務局も務める森氏だが、製造部門の牙城と思われたこの活動において、設計部門が製造部門を上回る成果を挙げたことだ。1年前、製造部門の部会に組み込まれていた設計部門を切り離す試みに懸念する声はあったものの、単独の部会を作った森氏は、「多品種・非量産の開発・設計部門が、職場単位、グループ単位で集まるのも大変なのに、本当によく頑張ってもらいました。感謝しています」と心から喜んでいた。

スキルと経験の次に必要なものそれは適切な着眼点を持つ能力

顧客から求められていることの変化にあわせて、HOWからWHAT、WHYへとPL育成施策の内容も変化する中、「スキルや経験に加えて、適切な着眼点を持って判断し、実行する能力が必要になってきた」という森氏。「社内には無い新たな着眼点については、やはり外部の力を借りないとできないところですね。そういうときには、渡部さんの外からの視点、考え方で意見をもらえると、自分達にはない視点をもらえますし、視野が広がります」(森氏)

これに対して渡部は、「新しい着眼点というのは、たとえば何か開発テーマを決めるときに、経営戦略、技術トレンド、他社動向などから考えることが多いのですが、『他社トレンドに打ち勝つものを造ろうよ』ではなくて、『そもそも世の中にないものを創っちゃおうよ。そうしたら競争なんて起きないよね』みたいな、そういう一言が言えるかどうかですよね。そこが我々第三者が関わるポイントですし、実践型育成の特徴になるのではないでしょうか」と語る。

JMACの支援は、他社とは違うという森氏は「JMACは、さまざまな規模の会社の事例を持っていて、戦略系、人事系といったパーツではなくトータルでの支援をしてくださる。非常に縦横無尽な動き方をしてくれるのです。それが本当のソリューションなんだと思いますね。現場の社員からも、『コンサルタントの皆さんには話しやすくて相談もしやすい』と好評です。受講生のやる気にもつながっていますし、これもとても大事なポイントだと思います」と。

「種まきと水やり」手を抜いたら枯れてしまう

PL育成施策を通した参加者の変化について森氏は「1年くらい経つと、受講生の上司から『彼はものの見方が変わったよね』と言われるんですね。さまざまな知見を吸収して、視野が広がり、新たな視点が加わった結果だと思います」という。

さらに、そうした受講生たちには今後、「自分で考えて判断できる人財」になってほしいと期待を込める。数多くの顧客とその案件を抱える現状では、上司の指示を待つだけでなく、自ら考えて判断できる人財が求められるからだ。そして渡部は、「そういうことを高度にできている人財も中にはいます。そういう方は他の担当者にトランスファーするという意識も持っています。こういう方たちをモデルにして、どうしたらそうなれたのかというところを、次の世代の人に伝えていく場をつくっていきたいですね。こうやっていろいろ思いを話し合っていけるのも、森さんが本当に他社ではないくらいに事務局としてプロジェクトに付き合ってくださるからです」と語る。
森氏は「やはり我々は現場と渡部さんの翻訳者でもあると思っています。プロジェクトの推進では環境の変化への対応も必要ですが、会社としてのベースとなっているところはきちんと持っていなくてはいけない。JMACのコンサルティングスタイルは、そういったすり合わせをして、バランス良く対応してくれる。評論家でないところがいいですね」とも語る。

新しい付加価値を創りだすステージへと進んでいく人財育成だが、他方で森氏はこうも述べる。「『OFF-JTは種まき、OJTや実践型研修は水やり』というのが根底にある考え方です。種まきよりも水やりは時間も掛かるし大変です。でもここの手を抜いてしまうと人財開発機能としては役割を十分に発揮できないと思うんです」重要な経営資源の「人」を自分が責任を持って鍛え上げるんだという思いが込められている。
そして、その森氏の次なるキーワードは「人間力」だという。「製品開発においては技術力とマネジメント力が大事ですが、根底には人間力が必要だと思います。人間力はマネジメント力の一部と言ってもいい。これは次のキーワードになると思っています」と。

時代の潮流をとらえ、進化を遂げてきた日立国際電気の人財育成。新たなステージを迎え、今後の進化がますます楽しみだ。

担当コンサルタントからの一言

人財開発機能強化の基本:当事者感覚

経営資源の一つである人財を育んでいく人財開発部門の重要なミッションとは、人財育成ビジョンを描き、業務上の成果につなげることだと思います。階層毎に求められる人財像を明確にし、教育プランを実施することはよく見られますが、実際の業務成果につなげることは多くの企業で悩まれていることと思います。ここで重要なのは、育成推進者が実践の現場にどれだけ立ち会っているか?ではないでしょうか?現場を見ることで、本質的な育成上の課題に気付き、次年度以降のレベルアップにもつながり、人財開発機能強化に直結すると思います。

渡部 訓久(チーフ・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.54からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。

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