コニカミノルタ株式会社
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「縦割り組織」に「横串」を通して、全体最適を目指す! ~個々の木ではなく、まず森を見る ―今ある「部門最適」から「全体最適」への改革~
コニカミノルタ株式会社は、情報機器において世界トップクラスのシェアを誇るが、実は各部門の専門性が高いゆえの悩みを抱えていた。縦割り組織による「利益なき繁忙」が常態化していたのだ。情報機器事業における新規事業へのリソース創出が急務となり、長年の「利益なき繁忙」の旅にピリオドを打つことを決意する。そして2012 年、縦割り組織に横串を刺すという大きなチャレンジに踏み出し、2014 年から「型」の導入による「全体最適」改革に乗り出した。この改革における葛藤や期待、今後の展望をお聞きした。
世界トップクラスの企業が抱える意外な悩み
コニカミノルタ株式会社(以下、コニカミノルタ)は日本の光学機器メーカーとして1、2 番目の歴史を持つコニカ株式会社(1873 年創業)とミノルタ株式会社(1928年創業)が経営統合し、2003 年に誕生した。
「コニカ」「ミノルタ」といえば、カメラやフィルム、複写機で一時代を築いた存在として有名だが、統合した現在はその光学技術のDNA をさらに進化させ、カラー複合機等の情報機器分野において世界トップクラスのシェアを誇る。その中で、新規事業への拡大を視野に、積極的なリソース創出のための業務効率化を推進してきた同社。2012 年には情報機器事業内に改革推進組織※を発足し、最初の2年間は営業利益を上げることに特化して改革を推進した。
発足当初、「開発や生産、販売の各部門は、それぞれ試験研究費の最適化、原価低減、販管費低減など、みな本当にがんばっていました。 しかし、忙しい割には最終的な営業利益につながらない。一生懸命なのにどうして、という感覚がありました」と語るのは、当初より改革推進に携わってきた業務革新部 部長の伊藤孝司氏だ。※現在はコーポレートの業務革新部
業務革新部部長 伊藤孝司氏
伊藤氏によれば、「利益なき繁忙」の最大の原因は、縦割り組織ゆえの非効率性だった。「開発・生産・販売の壁をもっと取り払い、全社的な改革をすることで業務量と営業利益がリンクする体質にしていかなければならないと考えていました」と、組織横断で専任的に活動するチームが必要だったと語る伊藤氏。
発足から2 年間、力技で改革を乗り切ってきたが、その定着化、さらなる利益貢献のためにコニカミノルタは、新たな道を探し始めた。
力技からの脱却 !最適化メソッドで組織を変える!
それまで、経験則に基づく力技で改革を乗り切ってきたという同社。もっと確実な方法で改革を進めたい、そう思った同社は、コンサルティングファームを活用しようと決断する。
「われわれはメーカーとしてこれまで何十年もプロセス改革をし、さらに2 年間の改革活動でそれなりの成果を上げてきました。しかし、さらなる営業利益への貢献/全体最適の推進には、限界を感じていました。ですから、これまでのような力技ではなく、完成された『型』を使って改革を進めようと考えました。それに、自分たちでわかっているつもりでも本当はどうなのか、第三者の目線で指摘してほしかったのです。抜本的な見直しをするなら今しかないと思い、外部からの支援を要請することにしました」と、これが同社にとっての次なるチャレンジだったと伊藤氏は語る。
コンサルティングファームの選定にあたり、まずは100 社から4 社に絞り込み、提案を受けた。その中からJMAC を選んだ理由について伊藤氏は「重視したのは、きちんとした『型』を持っていること、そして一緒に汗をかきながら納得するまでやってくれることです。その両方を兼ね備えていて、さらにメーカー経験が豊富なところが決め手になりました」と語る。
改革のキーワードは「型の導入による業務プロセス視点での全体最適」。2014 年、コニカミノルタはJMAC をパートナーにさらなる改革に乗り出した。
その仕事、本当に必要?「利益なき繁忙」をなくす
プロジェクトを始動して最初に着手したのは「現状の見える化」だ。業務量調査を行い、徹底的にムダ・ムラをあぶり出していく。すると、部門間での重複業務が山のようにあることがわかった。
「利益なき繁忙」―お互いの状況を知らずに、よかれと思ってしたことが実は重複していた、ということがよくあった。たとえば、開発、生産、品質保証がそれぞれ独自に行った市場調査など、一本化できるものも多い。これについて伊藤氏は「どの部門で何をしているのかわからず、欲しいものがあればとりあえず自分たちでつくってしまうのです。そのため、どんどん重複した仕事が増え、忙しくなっていました」と分析する。
はじき出された業務削減率は、部門別で約3 割。これについて、2013 年から改革業務に携わってきた業務革新部第2 業務革新グループ課長の中根英治氏は「1 年間、改革推進の目線で各部門の状況を見てきたので、やはりそうか、3 割も削減できるのか、と感じました。次は実践だ、と身が引き締まる思いでした」と語る。
業務革新部第2 業務革新グループ課長 中根英治氏
本プロジェクトを支援したJMAC シニア・コンサルタント 永井敏雄は、当初の状況について「まず、一番の特徴は部門ミッションが不明瞭で共有化されていないことでした。そして、これは他社にない珍しいケースなのですが、コニカミノルタさんにはもともと各部門に改善を専門に行う組織があり、部門最適の仕組みがありました。ですから、部門ミッションを明確にした後は、この自浄作用的な組織を生かしてコニカミノルタさんらしい改革をしていこうと考えました」と語る。
「理解」と「実行」の間その温度差をどう埋めるか
「現状の見える化」で課題を明らかにした後は、いよいよ改革に向けた施策の実践に入った。改革を進めるうえで、実はここが一番の難所でもある。改革活動は現業に加えて行うため、面倒だという気持ちが先に立つことが多い。たとえ調査結果や説明に「なるほど」とうなずいたとしても「すぐに取り掛かろう」とはなりにくいのだ。この理解と実行の間の温度差を埋めていくのが難しい。
現場の納得を得るには、現場に足を運ぶのが一番だ。事務局メンバーとJMAC が一緒になって各部門へ行き、説明をした。伊藤氏は「各部門に行ったときには、まず永井さんに説明していただきました。メーカーの者にとって能率協会のネームバリューは大きく、皆が能率協会のコンサルタントの話なら聞いてみよう、となるからです。内部の人間が説明しようとしても、なかなかそうはいきません」とそのときの様子を振り返る。
しかし、それを一緒に実行しようという気運に変えていくためには、独自の施策が必要だった。同社にはすでに部門内に改善組織が存在し、自分たちだけで改善活動をやり遂げるという意識がとても強い。そこで、まずはもともとの部門内の改善組織を生かし、部門内完結できるものについての業務改善から始めた。そして「こうすれば業務が変わる」という実感を持ってから、よりハードルの高い横串での部門間連携強化に入っていけるよう段階的な施策をとっていった。
現在は横串の実行展開段階に入り、「品質保証の機能強化」と「グローバル営業の強化」の2 テーマに取り組んでいる。「品質保証」は業務上すべての部門に関わり、「営業」は自己完結型の活動が多いため、横串の必要度と調整範囲に差はあるものの、徐々に横のつながりは強くなってきている。
永井は「横串での改革を進めるうえでは、とくに全体が俯瞰できて納得感があることが大切です。たとえば、品質情報やスペック系情報などをカテゴリー単位で共有できる仕組みをつくれば、他部門で何をしているかが見えて、重複業務は減ります。このような環境づくりが納得感を生み、着実な改革につながるのです」と語る。
リバウンドを繰り返し「人」も「会社」も成長する
そして、改革を推進するうえでは、個々人のマインドが大きく関わってくる。伊藤氏が率いる業務革新部の事務局メンバーは現在20 人。ここでの経験は、きっと人を成長させ、会社を変える力にもなっていくはずだと言い「メンバーには『ここは君のキャリアステップの場だぞ』『次のステップへ進むために、ここで精一杯覚えて、会社や自分がいた部門を横から見てくれ』と常に伝えるようにしています」と期待を込めて熱く語る。
しかし一方で、現場に戻ったメンバーから「一人で戻っても何もできない」という悩みをよく聞くという。事務局にいるときに「そうだったのか !」と多くの気付きがあっても、現場では「1 対多」となり、「縦」の常識の中で横串の改革を推進するのはなかなか難しいのだ。
横串の活動をするときには、従来の「縦の強さ」に「横の強さ」を加えていかなければ、いつの間にか縦が強すぎる組織にまた戻ってしまう。そうなると、本当のグローバルを目指していく中での業務プロセス改善や営業利益にもつながっていかない。
永井は「今は、かつての『箱モノを売る』時代から『グローバルでのソリューション提供』が求められる時代となり、開発・生産・販売の密接な連携がますます重要になってきています。横串の調整機能を強化していくためには、まず部門を構成する一人ひとりが横串を意識すること、そして、常に組織連携がうまくいっているのかをモニタリングし、随時修正・改善していくことが大切です」と語る。
リバウンドを繰り返しながら、徐々にでも横の強さを加えていくことが、結局、目標達成への早道なのだ。
「人のチカラ× 組織力」で全体最適を永続させる
これまでの活動を振り返り、伊藤氏はJMAC について「期待どおり、持ってきてくれた『型』がすごく良かったですし、一緒に現場に入って汗をかいてくれました。それから、とくにお願いしたのは他社事例です。これを出してもらうと、われわれが言うより随分と効き目がありました」と評価している。
中根氏は「JMAC は現場の非常に細かいところまでよく知っていて、教科書どおりのことだけではない、柔軟なコンサルティングをしてくれました。ですから『ああ、経験があってわかって言ってくれているんだな』と実感できている感じが現場にはありました。また、経営陣からは『確かにそうだ。頭を殴られたような思いだった』などと言われることも多く、やっぱり指摘されたことがズバッと本質をついていて、目からうろこの部分があったんだろうなと思いました」と話す。
今回使ったプロジェクトを進めていくための「型」や、日程の進捗管理のツールは、どの部門でも共通して使えるため「今後もさまざまな場面で活用していきたい」と伊藤氏と中根氏は声を揃える。
そして伊藤氏は「全体最適を永続させるために、横串改革活動を一過性で終わらせるのではなく、長い時間軸、視点を持って進めていきたいと思っています。同時に、個人のキャリアを生かして会社の力に変えていけるような組織にしていきたいですね」と今後の展望を語る。
縦組織に横風を送り込む。そのとき、扉が大きく開かれるほど、風はよく通り抜ける。コニカミノルタの個性あふれる各部門の扉は、今、少しずつ全開に近づいてきている。次々と光学技術の歴史を塗り替えてきた同社の次なる大きな一手が楽しみだ。
担当コンサルタントからの一言
「型」の活用でスピーディな改革立案を!
プロセス改革を推進するうえでの「型」は、あるべき姿を立案するためのフレームワーク(改革視点やリファレンスモデル)であり、ビジネスモデル特性や製品・サービス商品特性などに合わせ、適正に使用していくことが重要となります。「型」を適用することで、確実に成果を得ることができる改革案をスピーディに立案可能となりますが、改革案のレベルが高くなり過ぎないように、現状の実力レベルから適正な落としどころを設定することも重要となります。改革活動で疲弊してしまわないように、適度なサイクルで成果を見える状態にすることが、改革を永続的に推進するポイントとなります。
永井敏雄(シニア・コンサルタント)
※本稿はBusiness Insights Vol.60からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。
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生産性向上のための業務再構築、システム化を見据えた業務の定義、システム調達のためのRFP作成、ベンダーやパッケージの選定・システム導入、働き方の高度化を意図したマネジメントやオフィスのあり方の見直しなど、豊富な業務改革支援の経験からお客さまのさまざまな要望や状況を踏まえ、改善余地や投資対効果を試算し、改革方向と進め方を提案します。実務が変わり、遂行できてこそ結果につながります。システムの導入に限らず、業務基準の見える化や標準化、必要があればマニュアル化までの寄り添った支援が可能です。