お問い合わせ

日本軽金属株式会社

  • R&D・技術戦略
  • 化学

「創って作って売る」で 新時代のビジネスをつくり出す 〜「本当にほしいもの」を提供し、お客様に感動を。「チーム日軽金」16年の軌跡〜

日本軽金属グループは、停滞してきたアルミニウム製錬・加工事業に代わる新事業を探索するため、「創って作って売る」という開発・製造・営業が一体化した活動を2001 年に開始した。以来、数々の新商品・新ビジネスモデルを創出してきたが、その道のりは決して平坦なものではなかった。「開発のための" 種"が見つからない」「プロジェクトメンバーの反発」「周囲の反対の声」など、さまざまな壁にぶつかりながら、1 つずつ打開し、粘り強く活動を続けてきた。今回、「お客様が本当にほしいもの」を一心に探索・実現してきた「チーム日軽金」の、16 年にわたる活動の軌跡と今後の展望を伺った。

横串体制でグループの総力を結集! 「チーム日軽金」の挑戦

日本軽金属(以下、日軽金)は、アルミニウム製錬会社として1939年(昭和14年)に創業し、現在は日軽金グループとしてアルミニウムの原料から加工製品に至るまで、幅広い製品を扱うアルミニウム総合メーカーとして事業を展開している。
開発・製造・営業を一体化した「創って作って売る」の実践----日軽金グループがこの方針を打ち出して「商品化事業化戦略プロジェクト」を始動したのは、2001年のことだ。
「それまではアルミニウムを製錬して、加工して売るという『プロダクトアウト』のビジネスモデルを築いてきましたが、近年は『マーケットイン』の発想で、お客様のニーズに応える新商品・新ビジネスモデルの創出に注力してきました」と語るのは、山口仁氏(執行役員 商品化事業化戦略プロジェクト室長)だ。

vol64_01_01.JPG

執行役員 商品化事業化戦略プロジェクト室長
山口 仁 氏


山口氏は、当初はチームリーダーとして、2009年からは室長としてプロジェクトを牽引し、成功に導いた立役者である。このプロジェクトの特徴は、日軽金グループの異なる事業ユニットを横断的につなぎ、横串体制で総力を結集するところにある。
たとえば、アルミニウムの素材や部品といった事業ユニットの縦軸に、自動車分野の横串を刺して一体となって活動する。グループ全体の縦横で事業開発を行うマトリクス経営をここまで実践している企業は他に類を見ない。
「私たちが目指す『マーケットイン』を真に実行するためには、お客様の『これがほしい』というものを、グループが持つ多様な事業体と生産手段・技術を組み合わせ、すぐに提供できる体制を築き上げる必要があります。そのためには、組織間の壁を取り払ってグループ全体で『創って作って売る』ための小さなチームをたくさんつくりました。そしてリーダーが経営者のようにチーム運営し、プロジェクト型で物事を進めていこうというところから始まりました」(山口氏)
しかし、実際に活動を始めてみると、「本を読んで研究しても、何を開発したらよいのか、どこからその種を探してきたらいいのかわからず、なかなかうまく進まなかった」と山口氏は当時を振り返る。そのような中で、JMACの"種の探し方"に関する研修に人事部長が参加し、これをきっかけにコーポレートで活動を応援していこうとJMACに支援を依頼した。
こうして2004年、日軽金グループはJMACをパートナーとして、「創って作って売る」を加速させるべく新たな挑戦へと踏み出した。

「探って」「創って作って売る」 メンバーの汗と涙が成果に

活動をスタートするにあたり、まずは「種を探し」「創って作って売る」を実現していくためのプログラムを導入した。プログラムは2ステップで構成されている。

<プロジェクトのステップ>

ステップ1 探る
「テーマ探索プログラム」

提案・企画手法を習得する
:2~3年後の魅力ある事業開発実現のためのテーマ選定


ステップ2創って/作って/売る
「事業化実践プログラム」

具体的なビジネス展開手法を習得する
:課題の抽出・戦略の策定・コストの考え方・販売チャネルの構想・知財戦略・海外ネットワークの活用など

毎年、5、6チームずつが数ヵ月かけてチームで検討し、最後は役員会(グループ各社の社長や役員)で企画発表会を実施する。
「メンバーは30代後半の若手が中心で、会社や経歴はみなバラバラです。日常業務と兼務しているため、最初は『負担が大きすぎる』とすいぶん反発がありました」
そのため、少しずつ人事制度やチームの編成方法を改善し、今の形に行きついたという。
「チームメンバーは若手が中心ですから、相談役としてチームに1人ずつ部長クラスのコーチをつけたり、知的財産の問題に対処できるよう特許部の担当をつけたりしています。今は『みんなで一緒にやっていこう』という感じで、1つのチームとしてまとまってきています」
こうした横串体制でのチーム活動を通し、これまで数多くの新商品・新事業を創出してきた。たとえば、「使用済み核燃料収納容器用板材『MAXUS』(マクサス)」は、アルミの粉末に中性子を吸収する炭化ホウ素の粉末を混合して焼成した、世界で唯一の板材である。従来の工法と比べ極めて高い耐久性を有するものであり、原子力分野における画期的な技術といえる。
「これは部門間の壁があったらできなかったと思います。横串スタイルで『粉末の会社』『板をつくる会社』『型をつくる会社』の人たちの力を結集したからこそ実現できました」と山口氏は振り返る。

お客様が「本当にほしいもの」は何か "つぶやき"から潜在ニーズを探る

2011年からは、チームでのテーマ探索・事業化推進に加え、日軽金グループの従業員が全員で参加する「情報探索活動」(テーマ探索)もスタートした。

この活動の目的は、自動車と電機といった「分野と分野の"隙間"にあるニーズ」をとことん探索し、新商品・新ビジネスにつなげていくところにある。そのヒントとなる情報をグループ全員で探そうというものだ。「お客様の『もっとこういう風にすればいいんだけどなぁ』『これをアルミ素材に変えられればなぁ』といった、ふとしたときに出る"つぶやき"に耳を傾け、『お客様が本当にほしいもの』は何かを考え、提案していきたいという発想から始めました」(山口氏)
"つぶやき"は、社内のイントラネットでグループの誰もがダイレクトに投稿できるようになっている。初年度の投稿数は400件だったが、徐々に増えて2016年度は2,600件を突破、6年間の累計は9,000件以上となった。



▲模造紙に貼られた膨大な数の"つぶやき短冊"。お客様のつぶやきを集めて検討し、チームづくりに活かしている。同社のスピード感はここから生まれる。(写真提供:日本軽金属)

大幅に増えた背景には、「今は投稿の質ではなく量を求めています。投稿数に応じて報奨金の出る"アルミ賞"も設けました。本人が面白くないと思っても、他の人から見たら面白いかもしれないし、パズルのように他のピースと合わせると完成するかもしれない。だから、情報は些細なものでも断片的なものでも構わないから、とにかくみんなでつぶやきを集めよう、と呼びかけています」という"仕掛け"もあるようだ。

投稿されたつぶやきは、毎週1回、グループ直轄の技術開発委員会で審議し、調査のうえ事業化可能と判断すれば、チームを編成して実行に移す。
委員会では、社長と役員10数人が模造紙にびっしりと貼られた"つぶやきの短冊"を前に、立ち動きながら侃々諤々の話し合いをするという。投稿者に「面白い情報だね」「このあとどうなったの」と直接メッセージを送ることも多いという。審議→短期集中調査チームの調査→再審議→チーム結成と、そのサイクルは実に速い。
「ビジネスに応じたチームをパッとつくり、スピーディーに進めるのが特徴です。ここでも横串体制の強みを活かし、すでにいくつかの新商品やビジネスが生まれています」と、新たなテーマ探索手法にも手応えを感じていると語る。

マトリクス組織に必要なのは情報の共有化による"腹落ち"だ

こうして16年の長きにわたって横串という考え方を通し、新商品・新ビジネスを創出してきた日軽金グループであるが、それはトライ&エラーの歴史でもあったと山口氏は振り返る。「今でこそこうして成果をお話しできていますが、当初は周りから『会社も価値観もみんな違うわけだから、うまくいかないのでは?』『マトリクス組織で、誰がどうやってチームメンバーの評価をするの?』などと言われました」と明かし、マトリクス組織ならではの課題があったことを明かした。

そして、成功のキーポイントは「情報の共有化」にあったのではないかと山口氏は分析する。
「マトリクス組織は元来、情報の共有が難しいと言われています。しかし、会社や経歴、価値観が違う人たちが力を合わせるためには、情報を共有化して『なぜこうするのか』ということをみんなで腹落ちしていることが重要です。また、その情報共有の場で、社長や役員、そしてメンバーの上司などが現場の様子を直接知って評価できるような施策が必要だと考え、現在は「共創フォーラム」と「三現会」という報告会を定期的に実施しています」と説明する。
「共創フォーラム」は年4回、東京・大阪・名古屋・新潟・研究所・製造所をテレビ会議でつないで行われる。山口氏は「このフォーラムで他チームの人たちとつながり、全体の中で自分たちが何を開発してしようとしているのかを理解し、ヒントや気づきを得てほしい」と語る。
「三現会」は「現地・現物・現実を重視する会」として年4回行われ、プロジェクトメンバーが活動状況や困り事もすべて包み隠さず報告する。
「ここで重視しているのは、活動を押し上げる"ブースト機能"です。提案の審議はせず、どうすればうまくいくのかを一緒に考えます。ただ、開発は残念ながら結果が出ないことの方が多いため、結果だけを見て評価するのではなく、メンバーの熱意や努力、日常業務と兼務してチーム活動に参加してくれた点を高く評価するように心がけています。この方法を取り入れてからは、『たいへんだけどプロジェクトに参加してよかった』という声をよく聞くようになりました」(山口氏)

「メンバーの成長」と「企業体質の変化」 プロジェクトが人と組織を変えた

現在、2004年から始めた「テーマ探索」「事業化実践」プログラムの卒業生は350人となり、32テーマ・160人が事業化に向け活動している。
山口氏はJMACについて「10年以上ずっと一緒に歩んでいただいて、チーム運営でもずいぶんと苦労をおかけしてきました。しかし今は、支援の成果が出て、最初のころと比べて、たいへん良い方向へ変わってきています」と述べる。
メンバーの変化については「チームに入って活動することで、自部署だけではなく自社、そしてグループ全体を知り、一人ひとりが全体を考えるようになりました。また、開発は初めてだというメンバーも多く、『ないものをどうやって生み出し、他社との差別化をどう図るか』といった、それまでになかった思考回路を持つことができたのも大きいと思いますね。『どうしたらうまくいくのか』『グループ全体だったらどうなのか』を常に考えることで、リーダーシップやマネジメント力が培われ、この活動のもう1つの目的である次世代の経営者候補の育成もできているように思います」と評価している。
また、会社の体質も大きく変わってきたと言い、「開発だけではなく、通常業務も横の連携をするようになりました。商品ごとに『営業利益の管理』を実施するようになって、その商品にかかった原価から労働力までをトータルで考えていこうという、横のグループでの連携が進んでいます」と語る。

お客様に感動を、そして選ばれる企業へ 未来への布石を打ち続ける

そして今、日軽金グループでは、新たな挑戦を始めている。「2020年の東京オリンピック・パラリンピックで日本は大きな変化点を迎えます。変化点を世の中の潮流として捉え、日軽金グループが何か世の中のお役に立てることを考えていこうと、3年前に『オリンピック活動』をスタートした今、4テーマが事業化に向けて活動しています」と語り、経緯を次のように説明する。
まずグループ全員の13,000人からアイデアを募り、集まった8,000件を全国の若手で議論した。そこで残った8分野にまたがるアイデアでチームをつくり、次のステップに進むプレゼンテーションを経て最終的に残った4テーマが今、動いている。
今後の展望について山口氏は「日軽金グループには『お客様に感動していただきたい』という強い想いがあり、それを会社の行動指針にもしています。お客様に感動していただき、選んでいただける企業になるためには、それに見合う価値のものを見つけていかなければなりません。そのためには今の2倍はテーマが必要ですから、全員参加が当たり前であるという形にしていきたいと思っています。今後はさらに「創って作って売る」を加速し、日軽金グループにしかつくれない付加価値を提供し続けていきたいと考えています」と力強く語る。

「創って作って売る」----日軽金グループが「お客様が本当にほしいものは何か」を探索・実現し続けてきたこの活動は今、新たな飛躍のときを迎えようとしている。

担当コンサルタントからの一言

"信念"を持った継続こそが"組織の力"となる

私自身の日本軽金属様とのおつき合いは10年程になりますが、直接的な事業成果だけでなく、体質の変化に大きな成果を感じます。技術者の行動や思考が本質的な意味で顧客志向になってきたり、活動の中で使っていた顧客志向のキーワードが日常業務でいろいろな人から自然に聞こえるようになったりしたことが大きな変化と感じます。これは毎年の活動に甘んじず、日々さまざまな工夫を取り入れてきた山口室長はじめ推進室の取組みによるところが大きいと感じます。この体質の変化はこれからも戻ることはなく、オリンピックに向けて、お取引様に対して新しい価値の提案を実現していくことと思います。

シニア・コンサルタント 鬼束 智昭

※本稿はBusiness Insights Vol.64からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。

事例トップ