戦略の巨人~戦略的なコラム~
第1回 B2B事業からB2Cへ進出したいA社
- 戦略の巨人~戦略的なコラム~
近藤 孝憲
戦略領域の経営コンサルティング支援を行って35年。さまざまな企業の方々と経営改革活動を行って来た。しかし、すべてが成功事例で終了している訳でなく、うまく行かなかった事例もある。その時は企業の方よりは小職のかかわり方に課題があったと自省して、成長し戦略改革の知見を獲得してきた。
そこで、今回「戦略的な」コラムを発信していこうと思う。「戦略的な」と言っているのは、「戦略そのもの」でなくもう少し広がりを持った「経営」の視点も入れて論じたい、という思いからである。
B2B事業からB2Cへ進出したいA社
ある時、B2BのメーカーからB2Cに進出したいという相談を頂いた。B2BからB2Cへと言うのは、昔からチャレンジする企業は多いが成功する企業は少ない。今回受けた相談企業A社は、既存のB2B向け事業で有している固有技術から、コロナ時代にニーズが高まると予想される衛生技術の転用開発をし、B2C向けの製品として新規市場開拓をすることとなったのである。
A社は、市場開拓の手段としてSNSを利用してマーケティング展開を行った。A社のマーケティングとしては、未知のアプローチではあったが、SNSでの売り上げは想定よりも非常に好調であった。次なる打ち手として今度は大手ネット販売に挑戦したところ、大手ネット販売ではほとんど売り上げが上がらない状態が続いた。SNSでは1000人を超えるフォロワーがおり、同製品に対して“いいね”やコメントなどが数百以上寄せられるなど、これまで一般に知られていないA社にしては非常に好調な展開を見せていた。しかし、SNS上でのネット販売は期限があり、販売サイト終了を迎えてしまったのである。SNSでの反応を足がかりに代わりに展開をした大手ネット販売のページでは、製品魅力を積極的に掲載し、大手ネット販売サイトのサービスでもあるポイント還元や値引クーポンなどの利用も謳うなど、より利用者の興味喚起を訴求していた。ところが、SNS で販売した販売ボリュームには程遠い、ほとんど売り上げがない結果となっていた。
その背景を探ると、このプロジェクト担当者はいずれもB2C経験のないB2B専属の既存社員であった。好調な反応・売れ行きを示したSNS販売サイトは、コンテンツ設計などネット販売のプロの指導を受けて展開し、売上に直結をしていた事が分かった。その経験をそのままスライドし、自社内製で大手ネット販売にチャレンジしたことが分かった 。
この話は、B2B企業がB2Cで失敗してしまう傾向を如実に表している。
B2B企業がB2Cで成功しないワケ
B2B取引ではお得意先が見えており、案件販売でもあるため、一度納品されると継続取引の可能性が高い。しかし、B2Cの取引は「お客様」自身を把握しないと取引の道筋が見えない。お客様特性を理解し、メールなどを活用した1往復半の対話で、お客様の商品の使われ方や、お客様自身の属性や好みを掴もうとしなければそのニーズを繋ぎ留められない。B2Cの企業での当たり前がB2Bのメーカーには未経験分野になるのである。
今回の相談のポイントは「広告宣伝に力を入れるべきか」と「B2BのメーカーがB2Cの市場に出るべきでは無いのか」の2点であった。この2つの質問もB2Cが分からない企業特有の質問であろう。
私は、「広告宣伝は消費者が手に入れることが出来るフィールドに商品が無いと、類似の名称に近い商品が売れて、肝心の自社商品が売れない現象になる。今の時点では時期尚早。」と回答した。ネットでこの企業のB2C向け商品を検索すると、A社は二番手の検索結果ではあったが、一番手、そして三番手・四番手、いずれもA社商品と類似の名称・特性を謳っていたのである。
A社からの相談の二つ目に対しては、「B2BのメーカーがB2Cの市場に出るべきか否かでは無く、B2Cの市場でやりたいかやりたく無いかの考え方が重要」と答えた。やるべきと言われてやれる程、B2Cは楽な商売では無い。B2Bの事業は、お客様も自社と同様に相互にプロフェッショナルとしてニーズが見えているが、B2Cはお客様を把握する事からスタートしお客様の嗜好の変化に対応し、繫ぎ止める事が必要で片手間では出来ない。やりたいと言う自発的意欲が無いと継続は難しい。企業の革新は「意欲×能力×持続力」により企業カルチャーが作り変えられるのである。
B2BメーカーのB2C進出の相談事例は弊社に寄せられるだけでも無数にある。以下に、B2BメーカーのB2C進出の成功しない理由を列挙する。
B2B企業のB2Cが成功しない理由
- B2Bとして今までのプロ相手の顧客ターゲットに慣れているため、B2Cの変化し成長する顧客ターゲットを把握できない。
- 社内の体制はB2C向け製品の迅速さを重視する改廃ができず、対応が後手になり顧客の支持を失う。
- 古い理論のテストマーケテイングを実施し結果を見て展開しようとするが、その時は市場や顧客が変化しており、結果を出せない。
- B2BとB2Cは事業の仕組みが違うにもかかわらずセグメントせず目標設定するため、焦点が絞れず対策が中途半端になる。
- B2Bでの成功事例を基にした役員が自社の社員も新市場開拓を起こせるとの楽観論から、裏付けのないB2C売上目標が下りてくる。
- 過去の新規事業の失敗が個人の責任になった事例があり、新規事業の担当になることを望まない風土がある。
一つでもあるとB2Cを止めるべき、と言っているのではない。成功には非常に難しい道筋ではあるが、上記の留意点を克服して取り組む事が重要である。
今回はB2BメーカーがB2CにチャレンジしたA社を例に新市場進出する際の難しさについてお話をした。次回は、A社のその後についてお話していきたい。
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