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戦略の巨人~戦略的なコラム~

第4回 企業文化を形成する要素とは

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企業文化と言うと、関連する言葉に「社風」とか「組織文化」という言い方がある。「社風」と言うのは会社が持っている独特な雰囲気で、企業文化より見え難い部分が多い印象がある。たとえば、雰囲気なども含めて明るい和気藹々の雰囲気があるとか、規律が厳しい雰囲気などである。比べて、「企業文化」はコミュニティの価値観と定義しているので、社風の方が広い概念になる。「組織文化」は、企業文化の様に企業と言う枠をはめるのでなく、組織つまり、人の組織的集まりが文化を作る定義になり、学者先生方の理論体系の出発点になっている。

国により異なる文化

組織を国家と定義すると文化としてのコミュニティの価値観について、以前仕事でフランス人と交流した際に、フランスと日本では異なる文化があると気づいたことがあった。本コラムで紹介しよう。

ヨーロッパから来た使節団に日本企業のマネジメントについてディスカッションしたあと、メンバーと銀座で会食をした。帰り道、フランス人のマネジャーは、ホテルに戻るタクシーの中で財布を落とした事に気が付いた。私も同乗していたので、ホテルの近くの交番で落し物として届け、その女性マネジャーは視察団と一緒に帰国した。
しばらくして警察から私に「落し物の財布が出てきた」と電話があった。ありがたいことに、拾った方は「拾ったお礼などは不要。私も財布を落として出て来た経験があります。以降お構いなく」とのコメントを残していた。その言葉にシビれ、カッコイイと思った私は、このコメントも入れてフランス人のマネジャーに連絡を入れ、落とし物の財布を送った。すると財布が届いたと言うお礼のメールとともに、次のようなメッセージが届いた。「大変感激し、嬉しかった。日本では取る方が悪いとの道徳観念がある事を知っています。しかし、フランスでは取られる方が悪いと教えられるので、落とした財布が出て来る事はありません。小さな子供にも取る方が悪いと教える事の出来る日本をうらやましく思います。」

日本という国では、当たり前の話かもしれないが、私はその時、日本と言う国の文化をフランスで作り上げるのは難しいと言うのを知った。つまり、文化はコミュニティの価値観なのだが、国家など大きな組織的集団になると変えて行くことは大変な労力と時間が掛かると思ったのである。

企業文化とコミュニティの価値観

この逸話は文化やコミュニティの価値観というのは、国家レベルであっても多くの国民のコミュニティの価値観が文化の拠り所になるという事を説明している。企業文化として私が注目しているのは、企業における「コミュニティの良質な価値観」の形成は時間が掛かるものであるが、「良質で無い価値観」は一瞬にして形成されるというものである。例えば、日本においてリストラをすると企業における安心感が薄れ、社員の行動がギクシャクする。しかし、海外の企業では、解雇が当たり前で、解雇を告げられるとガードマンがついて来て、解雇にあたっての身支度をチェックされて警備員と一緒に会社を出るまで見守られる事になる。しかし、それで会社の雰囲気が悪くなる事は無い。つまり、企業におけるコミュニティの価値観は企業の歴史つまり企業史との関連が強いのである。

つまり、企業におけるコミュニティの価値観の歴史が企業文化を形成するのである。企業史の重要性は前回のコラムで述べたが、良質な企業文化を形成する上で需要な発展段階をコミュニティの発展段階として定義をしてみよう

第一段階「自己責任」 責任を持って自己のコミュニティでの役割を遂行する。
第二段階「利他自然」 自己責任が身に付いたコミュニティはコミュニティの仲間へ利他の支援が自然に出来る。利他が余計なお世話にならないよう、さり気ない利他を実践するため、利他自然と言っている。
第三段階「寄付する企業史」 利他自然なコミュニティは企業史に良い歴史を刻む。第四段階は「記憶したい企業文化」である。利他自然な企業史は、後輩たちに記憶したい企業文化を残し、それを後輩たちが継承する。

ある約300名の中堅企業では、企業としての歴史は75年以上になる歴史あるグループ会社であるが、2年に1回、そのグループOBが集まって貢献者への偲ぶ会を実施している。企業として定年後も活躍する土壌があり、企業OBのいわば長老達が活躍する企業文化を持つ会社だ。ただ、どんな立場の人であれ業績的には自己責任を達成しないと2年で退職を考えねばならない厳しい面もある。。しかし、業績責任を持つリーダー達は紳士的で、「やりたい」というやる気や希望を殺さない企業文化もあり、利他自然の組織関係が出来ている。企業史を尊重する事で、全従業員への安心感を与え、企業文化を尊重する体質が維持されている好例であろう。

また、ある飲料メーカーでは、赤字の事業があるが、チャレンジ精神の喪失を失わなくするために経営陣が長年に亘り、人事異動情報をチェックしている会社もある。赤字事業からの人事異動で社員が不具合を受けると、赤字事業が敬遠されるようになり、その会社の企業文化でもある「チャレンジ精神」が絵に描いた餅になってしまうからである。

この様に考えると、企業文化は会社のメッセージで知らしめる事はもちろん必要であるが、経営者だけで無く、その会社を構成する経理部や人事部などの責任者も含め企業文化の担い手になるということが分かる。

以上のことから、自己責任から利他自然、寄付する企業史、記憶したい企業文化までを階層表現し、企業文化をコミュニティの価値観として定義しても、皆さんはマズローの欲求の階段で自己実現がある思想と似ているなと思われたかも知れない。マズローの欲求の階段は5段階が有名であるが、実は本当は6段階目があるというのはご存知だろうか。5段階の自己実現の上、6段目にあたるのは「自己超越や高尚自己」などと言われていて、「他人に尽くしても見返りを認めない。他者の悲しみに寄り添う」と自己実現の上のレベルを指している。これは企業文化の自己責任の上の利他自然の思想に近い。マズローの定義は個人の精神的成長の段階を定義している。マズローには失礼であるが、是非私としては一段上の個人の成長段階と企業におけるコミュティの発展段階の違いとして認識して頂きたい。

次回は企業組織で戦略を運用するための、戦略的人材の能力について語る。

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