戦略の巨人~戦略的なコラム~
第3回 企業に必要な”事業レベル"の能力を身につける
- 戦略の巨人~戦略的なコラム~
近藤 孝憲
戦略の目的を実現する手段とは
企業の能力と言うと、企業力と定義する経営コンサルタントが存在するが、企業力と一言で言っても<企業全体の能力>なのか、<事業レベルでの能力>なのか、<機能レベルでの能力>なのか曖昧である。私は企業の能力で大切なのは、事業レベルでの能力だと考えている。事業レベルで優れていないと、事業を束ねる会社レベルも優れない。
また、会社の能力を向上させるためには戦略の目的が必要になってくるが、それも事業レベルで存在する。戦略の目的とは、顧客満足、競争優位、誇れる従業員、社会的信頼の4つである。これらの顧客満足や競争優位は、事業レベルでなければ成立しない。
誇れる従業員や社会的信頼は、事業レベルでなく会社レベルで考えるべきではないかと、ご指摘を受けそうである。しかし、多くの学生が志向する大企業も、「大企業であること」自体が目的ではなく、その中で輝いている事業や機能、具体的な対象の明確化が必要になるだろう。従業員も顧客満足、競争優位を実現してこそ誇りが持てるし、事業が成立していなければ社会的信頼も中途半端になる。
このように考察し、戦略の目的である、顧客満足、競争優位、誇れる従業員、社会的信頼の4つについて考えてみると、その目的を実現する手段が必要になる。その手段とは、ヒト、モノ、カネ、情報、ノウハウ、企業史、企業文化としての経営資源である。
企業史から読み解く「ノウハウ」
当たり前の話であるが、経営環境が同じ業界で、同業他社を真似した戦略が適合しないのは、経営環境に適合した経営戦略が経営資源に合わないからである。経営資源を能力と定義したとき、見える資源はヒト、モノ、カネである。しかし、それぞれの規模と質を、能力として表すのは難しい。そこで、ヒト、モノ、カネ、情報を「手段としての経営資源」としてMR(Means Resources)と定義してみる。すると、このMRに対しての「目的としての経営資源」は、ノウハウ、企業史、企業文化となる。つまり、企業史は会社の歴史であり、ノウハウはその企業史から分かる。企業文化も企業史やノウハウとの関連が強い。結局、会社の能力は企業史を読み解く事で、ノウハウをピックアップし企業文化を理解する事ができる。
しかし、留意が必要なのは、企業史は会社全体の出来事を記載している場合が多いため、事業単位で棚卸しをしなければ事業単位の戦略目標を実現する能力にはならないという点である。
このようなER(End Responses))の観点から、企業史、ノウハウ、企業文化を縦に並べて、横軸に創業期、第2創業期、現代の3区分で整理して見ると、企業としての能力の変遷が見える。創業期における会社が歩んで来た企業史、その中で事業として顧客満足、競争優位、誇れる従業員、社会的信頼を獲得したノウハウが見えてくる。ノウハウが無ければ事業としてのビジネスモデルが成立しない。また、創業期ならではの創業者と従業員の支え合いが見え、企業文化の形が掴めてくる。会社が成長すると業界団体や地域の自治体、認可を受ける政府との関係が増加し、社会的信頼が培われる。
企業文化の変革を理解する
第2創業期は、創業期のビジネスモデルに陰りが見え、第2創業と言える顧客満足、競争優位、誇れる従業員、社会的信頼を組み替えるあらたなノウハウが構築される。第2創業期は会社の成長と共に、従業員が増えることによる企業文化の変化も見えてくる。第2創業を率いる経営者が中興の祖と言われることがあるが、企業レベルでのリーダーでは、事業レベルでの能力は見え難い。事業レベルで創業期と第2創業期を並べてみると、会社の能力の変遷が見える。
しかし、現代となると、「企業史は無いのではないか」というご指摘があるかも知れない。しかし、現代史ではその視点は重要で、企業史(現代史)と現代を定義している。企業史(現代史)では戦略目的の顧客満足、競争優位、誇れる従業員、社会的信頼は変化している。顧客満足を追求していたが、技術革新などで顧客ニーズは変化する。また、技術革新は競争優位にも影響を与える。誇れる従業員も働き方や働き甲斐など従業員を大切にする必要性が高まっている。また、社会的信頼もESG(Environment Social Government)やSDGs(Sustenance Development Goals)など守るべき項目も多様化している。このような時代における現代の企業史(現代史)を描くことが必要になる。
また、変化に合わせてノウハウも変わって行く。ある薬品関係企業の会長の話で「当社は1960年から研究所を立ち上げ、近年ではバイオ技術に絞り、1990年に薬品を発売しました。その伝統を引き継ぎバイオ研究所は大学や他企業とのオープンイノベーションに取り組んでノウハウを蓄積しています。」と研究所にノウハウがあるとのお言葉があった。薬品が世に出るのに30年程度掛かることはよく分かるが、発売間近のバイオ関係の薬品はあるか聞くと「開発スケジュールに入って来るものはいくつかありますが、中々難しくて」との話であった。企業史に残るノウハウは薬品の発売などで発表できるレベルでないとノウハウとは言えない。バイオ研究開発のメンバーがノウハウを持つと言うのは企業文化になる。1960年からリストラもせず、研究開発の60年の歴史を担って来た。他社の薬品会社などでは、業績悪化時に研究開発部門のリストラを行い、優秀な人材の流出が起きたケースも存在する。その意味では、企業文化は変化があると大きく変わる事があるので気を付けなければならない。
この様に、企業の能力と言うのはER(End Resources)における企業史(現代史)、ノウハウ、企業文化の描き方で決まる。
次回は、このERにおける企業文化について述べる。
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