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戦略の巨人~戦略的なコラム~

第5回 MaLoNa Thinking における戦略人材の能力

  • 戦略の巨人~戦略的なコラム~

近藤 孝憲

戦略を企業で運営するには、戦略型人材が必要になると言われた時代がある。筆者はコンサルタントとして、ある企業から「我が社の戦略型人材を探して欲しい」と要請を受けた。今であれば、戦略型人材を"外部から"探してくる発想になるだろう。しかし当時は「戦略型人材は戦略型人材でなければ探せない」ということで、その企業には戦略型人材を探せる存在がそもそもいなかった。その時から戦略型人材に必要な能力とは何かと考えるようになった。

「戦略」とは将来の目的に向けて今準備する事を企画することである。そのためには経営環境を見て、自社の経営資源を把握し、経営戦略を立案、実施していかなければならない。中には「これらの企画は企業トップの役割である。

そうなると戦略型人材とは企業トップのことを示すのではないか」と言う意見もあるかもしれない。

しかし、トップはあくまでも戦略の"意思決定者"であって、戦略型人材とは異なる。トップをアシストして戦略を拾い上げたり、捨てたり、絞り込んだりなど戦略的な発想を持って、戦略を提案し、実践を指導して行く人材が戦略型人材と言える。その人材は損か得かとかの理性的思考と併せ、先が見えない戦略について推進する感性的なセンスも必要になる。また、どっぷり入り込んで戦略を運営するのではなく、客観的な立ち位置で視野を広く持つことも必要である。

戦略に重要なコンセプト「MaLoNa Thinking」

この様に戦略型人材について考えていると、ふと頭に”MaLoNa Thiking”と言うコンセプトが浮かんだ。MaLoNaとは【Magical Thinking】【Logical Thinking】【Natural Thinking】の3つの能力のことである。

Logical Thinking は一般的な論理的思考であり、良いか悪いか、損か得か、勝つか負けるかなどの判断をする。

Magical Thinking は好きか嫌いか、楽しいか楽しくないかなどの感性的な思考である。「みんなが良いと言った戦略であるが、自分にはワクワク感が欠ける」など、論理的でないが感性的に評価をする。昔の組織であれば、「組織で決まった事を個人の好き嫌いを言って、何をごねているのだ、組織の方針に従え」と上層部から言われたが、今は、それでは若手が退社する要因となる。楽しくなければ人生の大半を仕事に使う意味がない。

Natural Thinking は良くも悪くもない、好きでも嫌いでもない中間的思考である。「論理派も感性派もみんなは支持しているが、私は少し距離を置いて参加する」と言う姿勢である。

たとえば「この戦略はおかしいと思いませんか」と若手から質問を受けたとすると、3つの考え方では以下のように返答が異なる。

Logical Thinking「君はどうして、そう思うのか。論理的に説明してくれ」
Magical Thinking「君がおかしいと思うのはフィーリングだよね。私も若い頃おかしいと言って食ってかかったよ。分かるよ」
Natural Thinking「そうか。君はそう思っているのだね。そういう疑問点もあるね」

Logical Thinking では詰め寄られるが、Magical Thinking では感情的に寄り添う形になる。Natural Thinking では冷静に受け止められるが、冷たい対応になる。しかし、戦略を立案・提案・実施するにはこれら全ての能力が必要であり、【MaLoNa Thinking】のコンセプトに行きつく。

3つの思考に紐づくパワーとは

さらに、それぞれの思考に4つの能力を関連づけて考える。

Magical Thinking 

  1. フィーリング、こだわりで気づくパワー
    組織の全員が右を向いても、全員が同じであることに違和感を持つこだわりがあるから気づきが生まれる。こだわりと言う自分の価値観を形成する事が重要になる。

  2. 正直さ、自分の否を認める力
    こだわりに固執し過ぎても問題がある。他の意見の方が正当な場合、自分の意見を否定して正当な意見を支持出来るかと言うことである。年齢や性別に囚われることなく意見を認め、自分の否を認めることが出来る能力である。

  3. 胆力、権力に屈しない力
    戦略を権力に寄り添って作成すると実態とはかけ離れた戦略になる事がある。例をあげると、ある企業では赤字事業会社の経費配分を変更し黒字事業会社にしていた。理由を聞いてみると創業者肝いりの事業であるとの事である。これでは正当な判断が出来ないため、全体の数字を見直して戦略方向を決めた。

  4. 頑固さ、一人でも信念に固執する力
    戦略型人材は孤独である。中には自分一人になっても支持しなければならない戦略もある。一人から出発した現状の延長線ではない事業でも、信念があれば組織を説得して支持を広げる事ができる。

Logical Thinking

  1. 分析力、分けて考える力
    物事における違いを見つけ出し、層別して層ごとに分析を実施し、物事を把握する能力である。

  2. 定量化/指標化スキルで数値に置き換えるスキル
    「指標化」について例を述べると、定量化出来ない【満足度】という指標について、大変満足を5点と決めて「平均点4.8点になります」と表す技術が指標化スキルである。指標化技術は定性的なものごとに指標を設定し、数字化する技術である。層別に分析した対象を数値で重点化する能力が、定量化/指標化スキルである。

  3. 構造化スキルで関連づける能力、重みづけ
    たとえば、企業でインタビューを実施し、各自の意見をまとめ、カードを分類整理し集約するヘッダーをつけグルーピングする。同一の意見の数をまとめ、重み付けするなどの分析スキルである。

  4. 要約力、オプションの抽出と決定力
    戦略とはオプションの選択とも言われる重要な能力である。戦略は将来に向けての計画であるから不確実性が増すため、オプションが必要になる。しかし、多様なオプションを羅列しても戦略の方向は決まらない。そのオプションの中でさまざまな評価軸から重点化する事が戦略の決定力になる。

Natural Thinking

  1. 客観性、第三者の視点にて利害関係なしに判断する思考
    当事者になると利害関係が出て、客観的な判断を失う場合がある。ある会社で事業部長が提案をした際、会長から「自分の事業も業績を上げられないのに、偉そうな事を提案するのは受け入れられない」と言われた。その1ヶ月後にわれわれコンサルタントが第三者の立場で同じ提案をすると受け入れられた。戦略型人材は当事者の立場であるが、当事者と第三者はそれぞれ長所、短所が存在するので、Natural Thinking では大切な資質として第三者の視点を定義している。

  2. コミュニケーションバランスで個人の好みを超えたコミュニケーション収集
    現在のSNSでは利用者が好む閲覧情報を集めてくるが、戦略型人材の資質としては個人の好みを超えた多様性が必要になる。また、嫌いな人とのコミュニケーションも大切なスキルになる。企業が手に負えない人材の例として「プロジェクトに無関心な人」というのがある。その人は日和見的で、プロジェクトが成功しそうとなると協力者になるし、失敗しそうになると批評家になる。しかし、収集のためにはこのような人からも意見を聞いて、戦略の判断にする事が必要になる。

  3. 異質なものごとを素直に捉えて分析する能力
    人は異質な情報に出くわすと冷静な判断が出来なくなる傾向がある。たとえば伝染病が流行った際、脅威に対するオーバーな対応を求める人、もしくは脅威は心配ないと無関心を装う人と、両極端の思考に陥りやすい。過去のパンデミックの事例を踏まえ、①マスクと手洗いの実践 ②3分の1の人員で仕事が回る体制を敷く ③クラスターにならないように社内会議や外部業者などの大勢人が集まる場所を避ける ④自分を守りながら他者への配慮をすることなど、冷静に考えなければならない。異質な情報があったとき振れ幅で反応せず、冷静に分析する姿勢を異質情報分析能力と呼んでいる。

  4. 自然体、物事に当たった時に力を抜いて見つめ柔軟に受け入れる姿勢
    心構えとしての定義があるが、心技体としての自然体がある。筆者は高校生の時に剣道を3年間鍛錬したが、構としての自然体を最初習う。柔道などの武道にも存在するが、戦う前に構える姿勢になる。身体の重心を体の中心に置き、肩の力を抜いて型を決める。そして予想できない攻撃にも柔軟に対応する。つまり自然体と言うのは、予想できない事態に柔軟に対応するための、日常姿勢と言える。戦略は過去の企業における成功体験を体系化したものが理論とされているが、これからの戦略は新たな企業から発明される。そのため企業と一緒になって自然体で新たな戦略発現に備えるのである。

マロナ思考


今回は、MaLoNa Thinking における戦略人材の能力を述べた。
次回は「中堅企業経営課題の実践の点検」について語る。

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