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企業インタビュー(富士通株式会社)「お客様の価値品質を実現するために ~"コトづくり"の革新に挑む~」

JQMQvol.9_20121017.pdf

お客様の価値品質を実現するために ~"コトづくり"の革新に挑む~
企業インタビュー 富士通株式会社 井上 保 氏  関口 隆 氏

◆会社概要
富士通株式会社ネットワークビジネス部門は、通信キャリア向け光伝送装置、IP伝送装置、携帯電話基地局や海底光通信及びNWオペレーションシステムなどの通信インフラを担う、極めて高度な品質が要求される部門です。今回は、本紙(特集号)の発行にあたって、ネットワークビジネス部門で執行役員副部門長の井上保氏と、人材教育などの企画にも携わる、シニアマネジャー関口隆氏に、今求められている品質と、それを可能とする人材育成についてお話を伺いました。

●変化への対応
――ネットワーク製品はインフラ系の非常に重要なプロダクトであり、要求される品質は極めて高く、ハード・ソフトの両面で応えていなければなりません。同時に、設計や製造に携わる方々の業務品質も重要だと思います。開発期間短縮など市場環境、事業環境が変化する中で、とくに気を付けられていることはなんでしょうか。
井上氏 最も大きな変化は、アナログからデジタルへの技術変化です。アナログの場合は、"つなぐ"部分一つ一つにさまざまなノウハウがありました。しかし、今は、デジタル部品を専業でつくる人たちがいて、それを組み立てればある程度のモノが出来上がり、それなりに動きます。従来アナログの世界では特定メーカーしか手が出なかった分野に、これまで経験のない企業が、デジタル化により参入可能となり、激しい価格競争が起こっています。また、製品提供のスピードアップとともに、開発期間は極めて短くなっています。デジタルに置き換わったために、キー部品を供給するベンダーにかなり左右される部分があるとともに差異のつけ方が難しくなっています。この部品メーカーも淘汰が進み、携帯基地局や光伝送の最先端キー部品は世界で数社のみが作れる状況となっています。
品質をつきつめれば、最後は「製品全体がどう動くか」という視点が重要です。ある一部分に凝って個々を部分最適につくっても、必ずしも、「お客様にとっての品質」が高いものになるわけではありません。もちろん、すぐに矛盾が出るような仕組みではどうしようもありません。しかも、個々に部分最適を追求しても限界がありますから、全体で包み込んで価値を出すようなトータル品質を考えておくことが重要だと思います。

●"連鎖・連携"をつくり教育の機会を提供する
――それを考える人材育成の取り組みは?
関口氏 「教えることによって自らが学びを深める」 そんな連鎖をつくることを始めました。例えば、教育機関に依頼する教育とは別に、経験者が後輩に教えていく取り組みをしています。部長が一人一つの講座をもって、一般社員に教えていくという取り組みです。これらは、具体的な技術の内容やマネジメントなど、現場でのノウハウや工夫・経験の「伝承」の場でもあります。これを始めて、教える側も引き締まり、教える方が学ぶという変化が起こりました。伝えられる側も生々しい内容なので、学びがあると感じられます。今後は、一般社員も講座を持ち、後輩に教えていく、そんな連鎖を考えています。
井上氏 企業の人員構成ピラミッドの形が歪になり、ある時期からかつてのようなOJTの機会が少なくなりました。教える立場になって、どうすれば相手に伝わるかを考える中で改めて自分が分かっていないことに気づくことがあります。この 「教える」 「疑問に思う」 「さらに深く関係性が分かる」  の繰り返しが、教えている人にとってプラス効果が大きい。回数を重ねるごとに教えている内容の相互連環に気づき、無駄(あまり重要でない内容)がそぎ落とされて本質だけが残ってくる。「これを質問されるかもしれない」と考えるようになることで、教える方がより深く理解し、研ぎ澄まされてくる。もちろん伝えられる側も、先輩達の経験が自分の経験と重なり、共感するとともに、より納得して分かる。そういう意味でも、教育機関の座学や独学とはまったく異なった刺激が生まれます。

――品質向上のために用意されているoff-JTは?
関口氏 二つあります。一つは、全体の教育体系の整備で、人材像の定義ベースとなっています。
その中で、品質の基礎的な部分やT型マトリックスなどツールの存在と使い方などをしっかりと押さえていこうとしています。もう一つが、人間力・組織力といったベースづくりです。「考え・伝える力」 「意欲・行動力」 「チームビルディング」 の三要素に力を入れています。「考え・伝える力」は、ロジカルシンキングやマインドマップといった思考法と、ライティングやプレゼンテーション能力。「意欲・行動力」は、7つの習慣や自己実現トレーニングといったセルフマネジメントを、「チームビルディング」は、ファシリテ―ション系の講座です。これらをベースに、教育体系や講座を整備しています。

――品質向上への取り組みについて、日本に工場があることの強みをどう活かされていますか。
関口氏 「開発者の製造経験」や、「現場を観る会・学ぶ会」を推進しています。今は、ボタン一つで工場に情報は送られる環境になりました。そのため、開発者はモノづくりの意識が遠のき、よい設計ができなくなりつつあると感じています。そこで、開発のリーダークラスの人を、一カ月から三カ月開発ラインから離して、工場の工員さんと一緒に、実際にモノづくりに携わってもらう取り組みを行っています(「開発者の製造経験」研修)。実際にモノづくりを経験することで自分が設計したものがどれほど"つくりづらいか"を体感してもらいます。そして、彼らリーダーが、モノづくりの現場を思い浮かべながら開発業務に携わっていくことが、より品質の高い製品を開発するための重要な要素となると思います。
 開発のリーダーのみならず、幹部社員全員が、モノづくりの現場を理解する取り組みも行っています(「現場を観る会・学ぶ会」)。開発の幹部社員全員が、一日かけて、基本的なモノづくりの考え(座学)と、実際のモノづくりの現場を観てもらい、その中で製造の担当者から、生々しい現場の声をぶつけてもらいます。ここでは、かなり厳しい意見も出て、部長たちが懸命にメモをとっていたりしています。前述のoff-JTと共に、求められる品質を担保し、明日へつながる開発力・革新力を養っていければと思っています。
井上氏 工場を持っていることは、強みと同時に弱みにもなります。開発と製造とがセクト主義に陥ったり、慣れ合いが生じては、ドライで責任の所在が明確なEMS(Electric Manufacturing Service)には勝てません。つくっている人と開発している人がお互いに高め合い、一つになったとき、相乗効果が生まれ、強みが発揮できるのだと思います。設計段階で書いた記号一つが、製造工程を増やし、製造コストを一桁上げる場合があります。また、「なぜ似て非なる部品がたくさんあるのか?」なども、つくる立場でいろいろな製品を製造する工場でなければわからない。そういう意味で、モノづくりの全体像や製品毎の違いをつくり手の方が実感するとともに、全体最適の観点で見ることが出来ます。設計者も工場での製造の様子を見に行き、隣に流れる別のチームの設計した製品を見たとき、自分たちの思いと実態の違いに気づく大きなチャンスになります。ソフト開発者にも、ソフトが搭載されてどのように動くのか、どのような製品になっていくのかを理解するために、工場のモノづくりを見てもらっています。
 我々にできるのは、「教育の場」を、受講者1人ひとりが「自分自身が高めるべきこと」や、「自分に今後必要になること」に一人称で気づく機会にすることです。これからの教育は、周りと競い合ったときに、独自価値を生み出す差異に「気づく」機会と場になる事が重要と思います。育ってもらうための機会を与えるトリガー、その人が頑張れる、今までにない力を発揮するような部分を引き出すトリガーを与える事が教育に求められていると考えます。日本人は器用で、よく気がつき、きめ細やかな想いとその行動が出来ることが優れた特長と考えます。そうした長所を見出し汲み上げ、特異点を引き出し、チームの中で色あせず1つのカラーとして光り続けるように活かし切っていければと思います。

●グローバルな要求品質に応えるために
――米国での光伝送ではシェアナンバーワンですが、国や地域によって異なる要求品質にどう対応されていますか。
井上氏 当社は米国で30年以上、社会インフラ向け伝送事業を行っています。成功や失敗を経る中で、米国で求められる価値を理解してきたつもりです。例えば、アメリカの光ファイバーは、ファイバーの本数や距離など日本とは異なります。過去の技術進展の中で社会インフラとして何を重視してきたか。その下地にあるビジネス環境と求められる品質の内容や質が分かっている事が重要です。関口氏 人材面では、海外拠点のエンジニアと国内のエンジニアがうまくコミュニケーションをとり、協同で開発をしています。これは、開発部門のリーダーが、海外拠点に数年間赴任し、戻ってきてパイプ役となっていることが要因と思います。また、私の経験では、お客様の要求仕様に、「製品を斜めから落としても壊れないこと」、というような日本ではあまり考えられないような仕様が載っていたことがありました。私は海外赴任の経験はありませんが、出張の際、日本人なら二人で持ち上げるような製品を、一人で片手で持ち歩いている様子を見て、合点しました。体格や文化の違いを感じている、そんな素地の上で初めてコミュニケーションがとれ、よい製品を世に出すことができるのだと思います。

●新たなる品質の創造に向けて
――改めてお伺いします。品質とは何でしょうか?
井上氏 品質が高いか否かは、提供側の想いではなくお客様が冷静な判断の下で決めるものです。製品の顧客に与える価値品質が高くなければ、お客様に選んでいただけません。お客様の価値観を知らなければ選んでいただける"モノ" も"コト" を作れません。お客様の価値観と合致すれば買ってもらえるし、異なれば買ってもらえない。お客様の価値品質と合致したものが品質が高いものです。従ってコストも品質の一要素です。品質は"モノ"につきまとうように考えがちですが、実はその製品を導入して得られる"コト"だと思います。今は簡単に世界中の"モノ"が比較できます。比較できる"モノ"のみではなく、製品が与えてくれる快感や優位性や使い勝手の良さや信頼感といった"コト"で品質が決まる時代だと思います。    お客様に選んでいただくには、自分の専門領域だけではなく、メリハリをつけて広く世の中の変化を見ることです。お客様との会話は常に必要ですが、お客様が語ってくれることは、「今」です。その延長線上に何が求められるかを考え、他の世界で起こっている変化との関連や波及を考え、変化の行方を自分なりに仮説検証する癖をつける。このような仮説検証の中から顧客価値品質の高い「コト」を見出し実現し提供することが、品質創造に向けての我々の使命だと思います。

――読者の方にメッセージをお願いします。
井上氏 今日、欧米的な考え方や方法論が、いろいろな分野で限界にきている部分があります。日本人は、欧米的な部分と東洋的な部分を併せ持っています。我々は両方を昇華させて、次の新たな時代をつくる可能性を持っているのではないでしょうか。今、日本はいろいろな面で大きな壁にぶち当たっていますが、そうしたときにこそ日本人は過去大きく変身してきました。まさに今は、そういう時代だと思います。そうした思いを胸に、新たなる日本ならではの価値品質を共につくり上げていこうではありませんか。

――本日はありがとうございました。

(聞き手 JMAC シニア・コンサルタント 野元 伸一郎)

 

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