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企業インタビュー(株式会社 図研)「品質は上流でつくり込め ~"品質と安全" のさらなる向上のために~」

JQMQvol.10_20130130.pdf

品質は上流でつくり込め ~"品質と安全" のさらなる向上のために~
企業インタビュー 株式会社 図研 本多 努 氏  斎藤 範利 氏

株式会社 図研 会社概要
電気設計CADのナンバー・ワン・ベンダー、株式会社 図研あらゆる電子機器設計プロセスへの適合とグローバル化への対応が求められる今、世界に分散する設計製造拠点での分業や協業、設計レビューを支援するツールなどを提供
ことEMC(ノイズ特性)他ツールの豊富さでは抜きん出ています。企業の品質部門と深く関わる同社の本多努氏と斎藤範利氏に、品質担保の課題と対策について伺いました。

●上流で品質を担保する
――近年、電機をはじめとして、製造現場の海外移転が進んでいます。製造だけでなく設計まで、中国や台湾に委託する企業も増えています。電気設計CADのナンバー・ワン・ベンダーとして、近年、お客様が抱える品質課題をどのように感じられていますか。

本多氏  この10年間でもっとも多くのご相談を受けてきたのは、EMC(ノイズ特性)とデザインレビュー(設計検証)のご相談が多いですね。我々の顧客は、もともと電機メーカーなど、コンシューマー向け製品ビジネスの会社が多く、商品開発サイクルが早いので、短納期が第一でした。そうした中で品質も保たなければなりません。この二つの両立が課題でしょう。
また、自動車メーカーでは安全第一ですから、安全と品質は大きな経営課題でもあります。
最近では法人向けに工作機械などをつくるお客様とのお取引も増えていますが、どのお客様もできるだけ上流の設計段階で品質を作り込んでいこうという意識が高まっています。
法人向けのビジネスでもリードタイム短縮が進み、設計難易度が格段に上がっています。加えて、合併等による業界再編と人材の流動化が進み、結果、品質トラブルが増えています。トラブルが出て手戻りしたのでは、リードタイム短縮も品質の担保も困難です。上流の回路・基板設計段階で品質を担保しておくことが極めて重要です。だから設計段階の検証、デザインレビューが求められているのです。

短納期、高品質を実現するために
――短納期、高品質を担保するには?
斎藤氏  デザインレビューの要求の高さに加えて、最近はISO26262(自動車の電気・電子に関する安全基準:2011年11月発行)のご相談が増えています。納期と品質という点で考えれば、実績があるものをモジュール化して組み合わせてモノづくりできれば、短納期かつ品質が保たれたものになります。そうした取り組みをしないと品質は保てない、というお話はよく伺います。また、法人向けの場合、顧客に早く見積もりを出してまずはビジネスを受注しなければなりません。そのためには、やはりモジュール化されたもので組み合わせ検討を行い、できるだけ早期に精度の高い見積もりを出し、なおかつその組み合わせで詳細設計に入っていけなければ、受注もできないし品質も保てません。当然、短納期にも間に合わない。しかし、具体的にモジュール化・標準化しようとすると極めて難しいのも事実です。
製品への要求や現有する部品状況も常に変化しますから、実際、実績があるものの流用がうまく活用できていない会社も多々あります。「前のシリーズのデータはどこにあるのか?、変化点はどこか?」といった悩みがあるわけです。過去のものを効率的に探し、変化点を速やかに把握して上手く流用できるようにすることから始め、流用率が高いところから標準化していく取り組みも必要だと思います。
本多氏  そのために、我々が提案しているのが回路設計の段階で品質を作り込んでいくことです。それほど難しいことをやっているわけではありません。設計に必要なチェックリストを回路図のCADと連動させてケアレスミスをなくしていこう、という非常に単純な仕組みです。
しかし、それがなかなかできていないのが実状です。属人的なチェックになっていたのを機械的に行うツールです。いろいろな意味で、自動化はキーワードになってくると思います。

――システムや環境を含めて、設計者をサポートしていくわけですね。
本多氏  チェックリストなどの整備支援を致しますが、たとえて言えば、教科書に載っていないノウハウを、教科書に載せるお手伝いのようなものです。
――技術教育や伝承がうまくいっていない?
本多氏  チェックリストのメンテナンスができず、項目数が増え続けているときは、我々がお客さんと一緒に絞り込みをして、メンテナンスし、例えば200項目あるものを、30項目程度に絞り込むケースもあります。

――いろいろな人達と手を組むことで、品質を上げていかなければならない時代になってきているということですね。
斎藤氏  製品ラインナップ数が増え、リードタイムが短くなっている状況下で、品質を担保するための検証を行う工数、期間が減っています。また極めて属人的な業務バラツキもでてきます。
そこを、例えば、弊社のEMC AdviserやCircuit DR-Naviというツールでは、回路図の中のクロック(clk)という文字をもつ信号をすべて自動的に洗い出し、「ここではシールドの指示を出さなければならない」などの指示をかけるわけです。
それによって、設計者全員に同じ気づきが与えられます。属人的なバラつきをなくして、平準化して品質を向上していく一つの手段です。

技術のないところに品質なし
――設計規模が拡大してきたことで、分業や外注が増えてきたことも影響しているのでしょうか?
斎藤氏  そうですね。分業化されてノウハウが蓄積しないので、社内に取り戻していく動きもありますね。
本多氏  事実、内製化を進めて高い利益率を上げている会社もあります。我々自身ももっと内製化を推進していかなければならないのではないかと思っています。特に、自社のコア技術は内製化すべきでしょう。技術のないところに品質はありません。
斎藤氏  設計規模が拡大したことや、海外拠点での設計もあり、中途採用の設計者の方や、派遣設計者を増やし設計を進めるケースも多いようですが、その際、自社の設計プロセスを速やかに理解し、品質を担保した設計プロセスで設計して頂く必要があります。しかし育成するにも、自社の設計プロセス全体を理解されている方が、極めて少なく、また、その有識者は多忙なため時間が取れず、なかなか、育成、戦力化できない実態があるようです。そのため有識者を集め、貴重な時間を費やして、仕事の流れを全てタスクに分けて整理し、プロセスをナビゲートする仕組み作りを支援した会社もありました。 
 私たちも全体を知っているわけではありませんが、分業が進んでいるために、製品を俯瞰して見られる方が少なくなってきていると感じます。課題も部分最適でしか見られないし、全体として捉えるという気づきができず、外部の人が入ることによって逆に見えてくるものがあるように思えます。JMACさんのお仕事もまさにそれですよね。
本多氏  中には本当にいろいろな業務を行う中で後工程まですべて押さえられる方もいらっしゃいますが、一人の人にヒアリングしても「わかりません」というケースがかなりあります。ただし、分母が大きくなるとプロセスの平準化まで踏み込むのは極めて重く、入口として回路設計や基板設計のチェックリストづくりが増えている段階だと思います。

●生真面目さを価値業務へ転換する
――ツールなどを使いながら、設計者の品質設計や技術スキルのバラツキを抑え、底上げをはかるわけですね。
本多氏  それが品質の上流での作り込みに繋がります。そして失われた原理原則を考えていくことにもなります。原理原則がないところに、新しい発想もありません。
斎藤氏  我々の支援ツールは、設計者の付帯業務を自動化し、品質を上げるために、本質を考える時間、よりクリエイティブな時間をつくってもらうためにあります。コア業務に徹するための自動化が、経営層が最も求めているところでもあります。

――最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

本多氏  日本人の技術者は生真面さが抜き出ており、それが品質にも繋がっています。その日本人ならではの生真面目さを、設計者ならではの価値業務に転換していくお手伝いをしていければと思います。
斎藤氏  生真面目さがあるからこそ、大変になる部分もあると思います。それを強みに変えていくために、我々でご支援できるところはご支援していきたいと思います。よい商品、売れる商品をつくっていただければと思います。

――本日はありがとうございました。

(聞き手 JMAC シニア・コンサルタント 野元 伸一郎)

 

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