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失敗しない組織改革のススメ―問題意識を起点に対策を立てる―

第7回 なぜ「業務改善」は形骸化するのか?

  • 人事制度・組織活性化

才木 利恵子

「業務改善」は、多くの生産部門で日常的に行われています。その取り組みは、個人の目標管理・人事評価に使われることもあるようです。

C社では、風土改革の一環として従業員意識調査を行ないました。その結果を、営業・開発・管理といった部門ごとに見たとき、生産部門で違和感のある結果が見られました。

「業務改善」しているのに、結果が出ていない?

以下は、「業務の管理」に関わる4つの設問に対するC社生産部門の結果です。
「①業務マニュアルは整備」され「②業務改善は計画的に実施」されているのに、「③仕事の進め方はスピーディ」「④仕事のミスは減っている」が低い結果です。業務改善がスピーディさ 、ミス低減といった業務品質につながっていないようです。

図1 C社生産部門の「業務の管理」に関わる調査結果

生産部門では、課単位で年度や半期で業務改善の目標を立てて取り組んでいるそうです。毎月の活動経過や進捗を確認するミーティングや半年に1回の成果発表会も開催されています。改善したことは、すぐに業務マニュアルに反映されることにもなっています。しかし、うまく進んでいないとの問題意識は、部長や工場長も抱いていたそうです。

「業務改善」をがんばるのは課長だけ?

では、同じ設問を階層別に見てみましょう。
業務品質に関する設問③④は、部長から一般まで階層別の差があまりなく低い結果です。みなが「仕事がスピーディではない」「仕事のミスが減らない」との問題意識を持っているようです
一方、「①業務マニュアルは整備」「②業務改善は計画的に実施」は、課長だけができている認識が高く、他の階層とギャップがあります。とくに係長は、②についてなんらかの問題意識を持っているようです。

図2 C社生産部門の「業務の管理」に関わる調査結果(階層別)

やらされ感の高い「業務改善」活動

部長や工場長と相談し、数人の課長・係長・一般社員にヒアリングを実施しました。その結果、以下のことがわかってきました。

【課長の声】
「せっかく改善に取り組んでいるのに、なぜみながやる気にならないのか」
「部長や工場長の手前、ちゃんと取り組んでいることをアピールしないと、自分や部下の評価が下がる」
「通常業務をこなすだけで人員的に一杯なので、本当は改善活動に手をかけたくない・部下に余計な作業をさせたくない」
「成果発表がしやすい業務改善目標を設定しないと、成果を認めてもらえない」

【係長の声】
「改善目標は課長が勝手に決めている」
「もっと先に取り組むべき改善がある」
「今の改善活動は、経過進捗ミーティング用や成果発表会用の資料づくりが大変なだけ」

【一般社員の声】
「課長が改善に取り組んでいることは知っているが、自分には関係ない」
「係長はいつも資料づくりで現場には出てこない」
「困っていることはあるが、お金のかかる改善はダメと言われた」

このように課長以下の従業員のやらされ感が高い業務改善活動になっていました。

「業務改善」活動を見直す

C社生産部門では、従来の「業務改善」活動を見直しました。

(1)みなが困っていることに取り組む

最初から課長が取り組み項目を決めるのではなく、係長をリーダーとして、一般社員も含めて、現場の困りごとを出し合う。その中から、話し合いで取り組み項目を決めました。
出てきた困りごとの中には、課長や部長が見て「すぐやればいいじゃないか」と即決してくれた修繕に関することや、情報伝達不足に起因するものも多くありました。

(2)全員参画で協力する

全員参画するために、作業改善の基本を勉強する会を開催しました。教えるのは係長らとし、まずは係長自らが自分の部署に合わせた勉強会にするための勉強からスタートしました。
この係長の勉強の場は、課や部のくくりを超えて開催し、係長間の情報交換の場との位置づけも持たせました。良い悩み相談会ともなったようです。

(3)成果を数値で出すことにこだわらない

「成果は必ず数値で出す」ことは、生産現場では当たり前で不可欠のこととされていますが、それに縛られて必要な改善に取り組まないことがあるとすれば本末転倒です。数値で示しにくい成果、計測に手間がかかるものはムリに数値で示さず、みなが共通認識できれば定性的な表現でもOKということにしました。

コミュニケーションのポイントが大幅アップ

1年後、再び従業員意識調査をしました。「業務改善は計画的に実施」の係長・一般社員の結果は10ポイント以上向上しました。まだ「仕事の仕方はスピーディ」「仕事のミス低減」は全体で5ポイント程度しか上昇していません。一方で、他の設問は大幅に向上していました。「職場のコミュニケーション」「上下のコミュニケーション」です。上記の(1)〜(3)の見直しを実行したからと思われます。今後の改善が楽しみです。

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